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169.魅力はあるが節度のほうが大事

「無理。もう無理」


「こんなのただの罰じゃん」




 部屋に二人だけになった途端、机に突っ伏す私とウォルター。



 卒業パーティーが終わり、数日後には例の新規事業に取り掛かった。

 ウォルターは今回特例で子爵位を授かり、まだ領地などもなにもない。この事業を最優先で行うために、王宮に近く、以前貴族が使ってた家で暮らすようになった。我が家からも近いので毎日通っているんだけど……。




「卒業したばっかだぞ俺ら。やること多すぎんだろ!」



 この二週間ほどで、学校建設候補地の視察、先生の面接、孤児院建設の立ち会い、王女たちへの謁見と報告、その他諸々、さらに書類の仕事を山盛り。

 私はそれに加えて治癒師の仕事。




 詰め込みすぎでしょうが!!!



「私はね、わかっているのよ……来週の国王の誕生祭にこの経過報告をしたいんだと思うの……。だから初期段階でかなり進めようとしてるんだわ……」


 ブラック企業かよ。短期間の納期でこんなの終わらない!めちゃくちゃ残業してるっての!本当に罰ゲーム!!

 ……自業自得なので、思っているだけで口にはしないように気をつけます。


 執事が部屋に冷たいジュースを持ってきてくれて、慌てて姿勢を正した。疲れた体には甘いものが染み渡るわ……。


「そうそう。ドロレス様さ、空き部屋たくさんあるから、1つを専用の部屋にして住んでいいぞ。それならわざわざ公爵家から毎日通わなくて済むだろ」


「……ウォルト。それは駄目よ」


「なんでだ?別にいいだろ」


 本気で疑問符を頭の上に浮かべている。


 駄目でしょ!!


 子爵家当主で独身で結婚適齢期でイケメンで王族の血引いてる優良物件の男が、あろうことか独身の令嬢に部屋なんて作ってみなさいよ!どんな噂が広まることか!確実にデキてると思われるわ。

 ウォルターは孤児院で個別の部屋なんてなかったから、感覚がきっと違うんだわ。


 それに、職場に部屋があったら確実に私は家に帰らなくなる……。だって圧倒的に楽だもん!!かなり……かなり魅力的な話ではあるけど、こらえて私!私は貴族令嬢なのっ!!

 たとえ馬車で1時間以上かかろうとも、朝早くて寝坊しておしろいすらはたかないで来こようとも、だ……駄目よ私!


「朝、ゆっくり寝てられるぞ」


 くっ……一番魅力的な内容切り出したな。

 女子にとって朝ゆっくり出来ることは魅力以外の何物でもないっ……。



 大きく深呼吸する。


「とにかく私は大丈夫。こんなところに部屋なんて作ったら、色々勘違いされるわ」


「フレッドのためか?」


 さっきまで笑っていた彼がほんの少しだけ、低い声に変わり、私だけに聞こえる声で話す。射抜くような視線で私の返事を待っていた。


「……3割はそれ。でも、ジュベルラートの公爵家の人間としても許容範囲を超えてはいけないわ」


「あっそう。わかったよ」



 低い声のまま、彼は書類に目をおとす。なぜか少し不機嫌に見えるその態度。

 断らないほうが良かったかな?昔からの知り合いだし、そういうのはないってわかってるけど……。せっかく好意で部屋をくれるって言ってたのよね?それを私があんな断り方したから?どうしよう。


「ウォルト」


「なんだよ」


「あの……さ、泊まるのはできないけど、一人で休みたいときとか、少しお昼寝できる部屋なら……あったら嬉しいかな……」



 彼の性格はわかっている。私からお願いすればきっと問題ないだろう。


「……そうか?じゃあ部屋を用意しとくからな。いつでも使えよ」


「うん、ありがとう」



 さっきとは変わって、照れたように視線をそらす彼。少し嬉しそうな顔をしていたので、私もホッとする。ツンデレ……チョロいな。



「そうだ、その国王の誕生祭さ、俺と一緒に来てくれよ」


「え?」


「俺ら国王から、二人で動けって言われてるじゃん。しばらくは一緒のほうがいいんじゃねーの?」


 そういえば私、完全に公爵家としていくつもりだった。お兄様結婚したし、私をエスコートしてくれる人がいないわ。別にいなくてもいいけど。

 フレデリックは……忙しいって言ってたし、来ない、よね?

 それならウォルターと一緒に行ったほうがいいかな。国王にもちゃんと仕事をやってるぞってところを見せなきゃ。 



「わかったわ」


「助かる」



 ウォルターの周り、女の子だらけになりそうだもんなー。この2週間でどれだけ見合いの手紙が来たことか。上は30歳、下は4歳!どっちにしろ日本じゃ犯罪よ……。きっと国王もそのために私を彼の横に置いているんだから、今年はそれくらいやっておかねば。

 その後の仕事がとてもスムーズだった。ウォルターのスピードがめっちゃ上がったんだけど、なんだ?そんなに一人で誕生祭行くのが嫌だったのかしら。






 しかし三日後。



「国王の誕生祭、休めそうなんだよ。だから、俺と一緒に行かない?」



 ファロン子爵家にて。

 まさかのフレデリックがここに遊びに来た。そしてエスコートの誘いをしてくれている。


 もう、ウォルターと約束してしまったのだ。

 フレデリックとは初めてのエスコートになる。だから一緒に入場できるならとても嬉しい。

 しかしウォルターと約束している上、国王からの命令で彼と一緒にいる。全貴族の前で宣言されてからまだ1か月も経っていないのに、すぐに別の男性と入場してしまうのは駄目だろう。私は王族に自分の婚約を解消してくれと言った身なのだから。




「あの……フレッド」


「フレッド。悪いけどドロレス様は俺と入場するんだ」


「え……」



 驚いた顔でフレデリックはウォルターを見る。だけどウォルターは目を伏せたまま、話を続ける。



「卒業パーティーの前に聞いただろ?国王に命令されて俺らは一緒にいる。だけどドロレス様が俺以外の男性と入場したら、王子との婚約解消はその一緒に入場してきた男が原因だと思われるだろ。まだ1か月も経ってないんだよ」


「俺は別に」


「お前じゃない。ドロレス様のことを考えろ。外聞が悪くなってもいいのか?」



 その言葉でフレデリックが口を閉じる。

 私だって、フレデリックと入場したい。だけど彼にだって変な噂が立ってしまうのは嫌だ。


「わかった」


「ごめん、フレッド」


「いや、いいよ。俺が我慢するって決めたんだから」



 いつもの笑顔に変わると、その後はいつも通りの楽しい会話をして別れた。


 久しぶりに会った。

 せっかく誘ってくれたのに……。でも自分が巻いた種なのよ。私だって我慢しなくちゃ。


 残りの仕事を終えて帰路についた。









 そして国王の誕生祭。

 誕生日の前日深夜からパーティー前夜祭が始まっている。



「本当に呪いが解けたのか正直わからないのよね……」


 ウォルターの横でボソッと呟く。フレデリックは結局仕事が入っとくれなくなったそうだ。


「いや、解けてるよ」


「なんでわかるの?」


「国王に前聞いた。体の同じ場所に同じ形の痣があったんだよ。先代も先々代も同じ場所にあるらしくて。ドロレス様が呪いを解いたとき二人で確認したら無くなってるのがわかった」


 そうなの?そんなのゲームで全く説明なかった。あ、そうか私ウォルタールートやってないからか。


「どこにあったの?」


「……いや……あれだよあれ」


 ウォルターは言いよどむ。


「あれってなによ。跡はもうないの?私はもう見られない?」


 あー、本当になんで私アップデートしてなかったの?!なんでウォルタールートやってなかったの!!



「……股の……」


「いやもういいです」



 問いただしてしまったことを後悔する。なんと恥ずかしい答えを彼に言わせてしまったのだろうか私は……。むしろ知らなくてよかった。

 耳を赤くしてしまった彼にも申し訳ない……。ああ恥ずかしい!!




 ザワザワと会場の声が大きくなってくる。

 現在23:59。

 あと一分足らずで、国王が誕生日を迎える。




「10秒前!」


 マクラート公爵が声高々に叫ぶ。

 中央にいる国王は落ち着かない。いくら呪いが解けたとはいえ、歴代必ずこの歳に国王は亡くなる。冷静でいられるはずがない。

 ホールはカウントダウンの数字が少なくなるにつれ静まっていく。



「3、2、1、ゼロ!」


「陛下!」


「父上!」



 今まで聞いたことのない大きな歓声がホール内に響く。



「いっ……生きてるぞ!私は生きているっ!!完全に呪いが解けた!今日は宴だ!」



 膝から崩れ落ちる国王に家族全員が駆け寄る。


 本当に……呪いが終わった。これで国王もウォルターもその子孫も、今までのような苦しみや悲しみを抱えなくていい。二度と、愛する者たちを残してこの世を去らなくていい。

 そこにほんの少しだけ役に立てた自分が嬉しかった。


 その後少しだけ私とウォルターの事業進捗が説明されたけど、みんな、今そんなことどうでもいいわけよ。

 私達のあの怒涛の仕事は何だったんだろうと思うくらい誰も聞いてくれなかった。


「悲しすぎるわ……」


「本当だよな。今日は朝まで盛り上がりそうだし、どうする?帰るか?」


「さすがにファロン子爵が抜けるのはまずいでしょ。挨拶回りに付き合うわ」


「悪いな」


 そのあとひたすら挨拶回りをした。年頃の令嬢を連れた親は、空気を読めと言わんばかりに『少し離れてろ』っていう目線を送ってきたが、空気を読んでるからこそウォルターの隣にいるのだ。それが私の今の使命。ナイフのような視線を上手くかわす。

 しかしウォルターも大人になったのか、上手い話の終え方を出来るようになっていて、私の肩を掴んで次の家に挨拶に行く。これが何度も続き、終わる頃には夜が明け、眠くて閉じそうな目をこすりながら家に帰った。




 次の日は街中がお祭り騒ぎ。そこかしこに露天が並び、楽しそうな雰囲気の街並を見ながら孤児院に向かった。昼まで爆睡してしまったのよね……。

 今日の仕事は休み。孤児院の子どもたちとこの楽しそうな街を見て回るのだ。

 ふふふふふ、遠足のようでとても楽しみだったのよ。

 久々に子どもたちの元気な姿を見て、疲れも吹っ飛びそうね。

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