全部終わらせる 〜side.ジェイコブ〜
ジェイコブのサイドストーリー(2/2)
「そっか、それなら卒業パーティーで私の力をお披露目すればいいんだ!」
パアッと笑顔になっていく。
「ですが、卒業パーティーは貴族が全員来るわけではないですよ?大勢の前で力が発動するってユリエ様仰っていましたよね?貴族の半分もいないですよ」
「ああ、それじゃ駄目だ……。全員に見てもらわないと……」
卒業パーティーの前日には叙爵式がありますよ、って言おうと思ったけどやめた。あれはあれで晴れ舞台があるからだ。
「卒業パーティーまでには絶対にやっておきたいですもんね。そうでなければ、もうチャンスは二度とありませんから。そのような場があればいいですよね、僕も考えてみます」
これからは、遠回しに煽ることを決めた。きっとこの人なら、そう動いてくれるはず。
「私も国王に言うタイミングがあったら言っときますね!」
「ちなみに。僕やアレク様、クリス様、オリバー様って、実際に会ってみてどういう印象でした?」
聞いてみたかった。今まで僕はこの人の近くにいたから、何を思って今まで僕に接していたのか気になった。
高い身分の人、王子の近くにいる人、礼儀正しい人、話しやすい人、優しい人、怖そうな人……いろんな言葉が出てくるだろう。少なからず僕は優しいとか、聞き上手とか思われてるのかななんて考えていたけど、全く予想してない答えが返ってきた。
「え?みんな私との恋愛を求めている攻略対象者ですよ!印象っていうか、どうやって攻略しようかなって思いました。それくらいですね。ウォルターもフレデリックも含めて」
唖然とした。
やっぱりこの人、僕たちのことを血の通っている人間だと思っていないんだ。
あくまで僕たちは【ゲームの中の登場人物】なんだ……。
言葉を失ってしまった。僕らの感情など、この人からしてみれば存在しないも同然なんだ。僕らはただの人形なのだ。
「あれ?どうしたんですか?」
「いえ……なんでもありません」
その後の会話などうわの空で、これからどうするかを頭の中で考えた。
ドロレス様はいつもこの人のことを気にかけていたけど……。
僕からしてみれば、人を殺すのも厭わない、人の感情など全く感じない暗殺者のようだと思った。
僕はある人の謁見の許可をとった。
数日後。
一通り話した。【ゲーム】のことを。
あとは、目の前の人が信じてくれるかだけだ。
僕だって未だに全部信じたわけじゃない。だけど、ドロレス様の言ったこととあの女の言ったことがあまりにも一致しているし、あの女がこれからやろうとしていることはただ一つなのだから。
「いや、うん。そなたの言ったことは理解出来たが、信じるには少し時間がかかりそうだ」
護衛も全て出てもらい、陛下と僕の二人きりで話した。この【ゲーム】とやらの話は最小限の人で抑えないと、変に尾ひれがついて噂になってしまうのはまずい。だからこうやって二人だけの謁見の許可を取った。
ずるずると先延ばしにしてもいけない。だから、全部精算させないといけない。
「彼女は今、先ほど説明した【アレクサンダールートのハッピーエンド】に向かっていることを信じています」
「ハァ……。真面目な顔で言われても苦笑いしかできぬ……」
「陛下、真面目な話なんですよ。彼女は自分が王妃になるために、あることをやらなくてはいけないのです。それは、彼女がアレク様の横に立つために……邪魔なものを消そうとしています」
「まさか、先程の【ゲーム】の話に出てきた……」
「そうです。【アレクサンダールートのハッピーエンド】なら卒業パーティーで必ず起こる【ドロレス・ジュベルラート】の断罪、処刑決定を望んでいます」
「馬鹿な……そんな非現実的なことがあるわけ無いだろう。そもそも処刑されるほどの重罪を犯してない」
ソファーの肘掛けに肘をついて、頭を押さえながら馬鹿馬鹿しいとばかりにため息をつく陛下。
「お気持ちは理解できます。ですが間違いありません。『絶対に死ぬことが決まっている』と彼女は楽しそうに話してますから」
「……正気か?」
「正気です。驚くほどに。むしろこちらから仕組まないと、彼女がどう出るかわかりません。そのほうが危険です」
陛下は眉をひそめる。
「そして彼女が敵対視しているのは、ドロレス様だけなのです。……ですので、全て一発で終わらせたいのですが……ご協力をお願いしたいと」
「それがさっき言ってたことか。だからといって、あの娘が本当に提案してくるかはわからないぞ?」
「いいえ、きっと言います」
だって僕がそう誘導してるから。
「タイムリミットは卒業パーティーなのです。彼女、なにか頼むときには必ず陛下の元へ来るではありませんか」
「そうだな……そうなんだよな……」
疲れた顔をした陛下は肯定せざるを得ない。だって、いつもあの女は陛下のところへ直談判していたのだから。そんな勇気……いや、勇気とすら思ってないのだから、ドロレス様に死んでくれと笑顔で言えるのだろう。
大丈夫。ただでさえ自分が【治癒の力】を持ってない上に、学園を卒業したらもう自分の生きる道を見失う。絶対にここしかないのだ。
あの女は猟奇的で短絡的だ。ドロレス様のことになるとさらにそれが強くなる。だったら、それを利用するしかない。
陛下は渋い顔をし、僕の意見に否定的だ。
「いくらなんでもそんなうまくいくわけ無いだろ。万が一ドロレス嬢に怪我などあったらどうするんだ?そなたの立場だって危うくなるぞ。そんな曖昧な計画に王宮の護衛も出すわけにはいかない」
「いいえ、彼女の話を何度も聞いている私がそう思うのですから、高確率で起こります。アレク様にも少々手伝ってもらいます。あ、もちろん悪事ではありませんので後ほど説明します。そしてドロレス様の近くには、囚人を使いたいのです」
「囚人だと?そんな危険人物を牢から出せというのか?」
鋭い目つきで睨まれ、一瞬ひるみそうになるが、頑張って耐える。さすがにこれは難題かな……。いや、でも彼らなら絶対に受ける。
「ドロレス様に強い恩義を感じている者がおります。非常に責任感の強い彼らならドロレス様の盾となるでしょう。まあ、即死さえしなければドロレス様の力で治っちゃいますし。これらをすべて用意し、彼女が私の思った通りに動けば、大勢の前で罪状が取れるでしょう」
薄い笑みを向けると、陛下の顔がビクついてる。何?なんか変なこと言った?
「恐ろしいな……」
「滅相もございません」
「しかし……」
話を一通り聞いた陛下は、一言呟いて黙り込む。頭の中で考えていることはなんとなく想像できた。
「陛下、わかっております。こちらの都合で召喚し、力が発動しない彼女を簡単に投獄していいのかとお悩みでしょう?」
「む……」
ウォルターくんの件で、遠回しに罪滅ぼしをするような御方だ。親元から離して召喚した責任を心の奥底で感じているのだろう。
陛下が即位してから、処刑が減った。重罪以外の処刑を無くしたからだ。
陛下の祖父である先々代国王は、少しの罪でも極刑にするやり方だった。それを先代国王が少しずつ和らげ、今の陛下でようやく落ち着きを取り戻している。命を粗末にしたくないという先代国王の教えだろう。それは陛下の母親がすぐに亡くなってしまい、命の重みを実感しているから。
そんな陛下だからあの女を極刑にしないだろうし、ドロレス様のことも不安だと思う。
……ま、そこを突いた僕の提案なんだけどね。
「ですが、彼女は今どうしても【ゲーム】から頭が離れません。それなら一度、この【ゲーム】の登場人物たちから離し、二度とチャンスがないことをわからせてあげるしかないのです。そのためには陛下にどうかご決断いただき、全てのことが成功したならば、彼女には投獄という形で現実を理解してもらいましょう。とは言っても、すでに誓約書を反故にしているのでいつでも投獄できますけどね」
「それもそうだな……。だが上手くいかなかった時には、そなたの責任は免れないぞ」
「はい。承知しております」
「誓約書でも書くか?『彼女はどうせ最後まで読まないから色々厳しい内容を書いても大丈夫ですよ』って言ってた、細かい字の誓約書だがな」
フッと陛下が片方の口角を上げて笑う。
「書きます。私はちゃんと読みますけどね」
僕はニッコリと笑った。
予想通りあの女は陛下に自分の時間をくれと抗議し、卒業パーティーの前の時間をもらっていた。
当日は、アレク様に紙に書いたことだけを言ってもらって、無事に短剣を渡すことが出来た。囚人も用意した。
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「こんなにうまくいくとは……」
呆れなのか、驚いているのか、よくわからない感情を含んだ顔で陛下が僕に話しかけてくる。ドロレス様が【治癒の力】をみんなの前で発動させた集まりが終わり、卒業パーティーに向かおうとしたら陛下に呼び止められた。少し話がしたいということで、二人だけになる。
「僕、一番近くで見ていましたから。彼女の性格、行動、思考など把握しておりましたよ」
「だが殺人未遂は重くないか?そなたが仕組んだことだろ」
言われると思った……。だけど。
「こちらにはまだ策があります。今回の被害者は、ドロレス様です。彼女ならいずれ減刑制度を提案してくると思いますよ。出すとしても、アレク様が即位してからになりますけど」
この国の減刑制度。
被害者が加害者より身分が上だった場合、投獄されて一年が過ぎると、被害者が『加害者の罪を軽くしてほしい』という申請をすれば
減刑が出来るのだ。もちろん審議はかけられるけど、今回はドロレス様にしか殺意がない人間。
それなら、反省さえしていればかなり刑が軽くなる。片手の指の年数もかからずに出られるだろう。
ドロレス様はおそらく、あの女と同郷だ。話を聞いた限り、同じ【ゲーム】の知識があるということは、ドロレス様の記憶の中の人間は同じ時系列で同じ国の可能性が高い。その他の話を聞いていてもそう感じた。
それならきっと、情が生まれるだろう。だってドロレス様だから。
「フ……そなたを敵に回すのは厄介だな」
陛下は小さく笑った。
「大丈夫ですよ、私はアレク様の味方ですから」
僕も笑顔を返した。
僕の目的はただ、この国の安泰。
アレク様は表で、僕は裏で案件を進めればいい。
ただそれだけだ。そこに少々の犠牲は生まれる。死せずとも、血は流れることだって、ある。囮も必要だ。
「それならその妹であるカトリーナのことも任せられるのか?どうなんだ?」
「……」
目を細め、ニヤッと笑った陛下に僕は笑みしか返せなかった。




