最後のチャンス 〜side.ユリエ〜
ユリエのサイドストーリー(1/2)。本編161話あたりから。
長くなってしまったので分けました。
は?
今、なんて言った?
「当主の数々の不正によりこの家は爵位剥奪とする。男爵と夫人はすでに捕らえている。娘二人はすぐにこの家を出て、学園の寮で暮らしなさい。今日から君たちは平民だ。卒業後は自分で住む場所を探せ」
はあ???
「ふ、ふざけないで!私はこれからが一番大事なときなのに、なんで平民なんかにならなきゃいけないわけ?!誰の命令なの?!答えなさいよ!」
「国王陛下のご命令だ」
「そんなこと言うわけない!私は【治癒の力を持つ女神】なんだから!絶対に間違ってる!クラリッサも何か言ってよ!あんたの家でしょうが!」
横で同じく話を聞いていたはずなのに、こいつなんでこんなに冷静なの?馬鹿じゃない?家がなくなるんだよ?!
「……たとえ両親だろうと不正は許しません。私は平民になることに異論はありません」
嘘でしょ……。このクソ真面目女が!!さんざん私に媚売ってたくせに、態度変えやがって!
私はクラリッサに掴みかかる。
「私の邪魔するんじゃないわよ!あんたのせいで誰も攻略できなかったら責任取れるわけ?!」
「ユリエ様。私はあなたに裏切られましたわ。演劇のことだって私に嘘ついて台本を写させて、ドロレス様を閉じ込めることも、あなたは私の責任にしようとしていたみたいじゃないですか」
「……あんたがアレク様にチクったの?だから私が犯人にされたんじゃん!なんであんたがそんな自分勝手なことしてるの?ここは私の世界なんだから!」
どうしてこの世界は私の思い通りにならないの?
ここは私のための、私だけのためのエターナル・プロミスなのに!
なんでこいつみたいなモブにハッピーエンドを邪魔されなきゃいけないの?!
「ユリエ様こそ、自分がやったことが本当に正しいと思っているの?ここはあなたを中心に回る世界じゃないわよ。頭おかしいんじゃないの?」
今まで大人しくて扱いやすかったクラリッサが、強気の態度をとり始めた。急になんなの?何開き直ってるの?
「ここは私のための世界に決まってるじゃん!あんたはその世界に登場すらしないの。たまたまこういうふうに関わっただけ。本当はあんたと会話自体する必要なんてないんだから」
この家だって、別に私のハッピーエンドには何も関係ない。潰れようが死のうが私のハッピーエンドには出てこないし。
「……私は馬鹿だったわ」
「ふっ、今頃気づいたの?あんたは馬鹿。平民に成り下がるってのになんにも思わない馬鹿!やっぱり私はこんなところにいる必要なかったのに、余計な遠回りをしたわ!」
本当にそう。こんなところに養女に入ったせいで全部ストーリーか狂ったんだ!全部この家のせいだ!
そのままクラリッサは部屋を出ていった。
チッ。これからどうすればいいの?とりあえず金目のものを集めて持っていくしかないよね?でも私そんなもの持ってない。
あ、男爵の部屋とかに宝石ないかな?それを持っていけば売れるんじゃない?
部屋に向かうと、さっき私に平民になれって言った王宮の人たちが部屋を物色していた。
「なにやってんの!人の家で泥棒みたいなことやっていいと思ってるの?」
私がそう言えば、そこにいる全員が呆れた顔をしたり、馬鹿にしたように笑う。
こいつら、力が発動したら絶対に処刑してやる……。
「今日からここはもう男爵家ではない。国の所有だ。お前も早く出ていけ。この国はな、家族の一人が犯罪をしても一家まるごと処分はしない優しい国だぞ?お前もこれ以上つっかかってくるなら男爵たちと牢屋行きだ。それが嫌なら早く準備しろ」
「ま、待ちなさいよ。じゃあせめてお金頂戴!それか宝石とかあるでしょ?まさか無一文で出ていけって言うの?」
「そうだが?」
は?あり得ない。
私を誰だか知っていてそんなこと言うの?
「私は、治癒のーーー」
「はいはい。わかってるわかってる。だけどな、それ以上にお前は色々やらかしてる。お金も宝石も渡すわけないだろ。むしろよく今まで自由気ままに学園生活が出来たのか、俺は不思議でしょうがないよ」
「全くだ。ハハッ、さすがパーティー出禁を喰らう女だ。お前が迷惑行為をしなければ男爵家は目をつけられずに、バレずに今でものんびり暮らしていたかもしれないしな。あ、早く出ていかないとお前、寝るところないぞ?ここにはもう住めないからな。街の馬車なら用意してやったからそれに乗っていけ」
彼らの楽しそうな会話に、私は言葉も出なくなる。
これから私、どうすればいいの?
ボロボロの馬車で、学園の寮へ向かった。
卒業まであと少しの時、テストを受けていないだけで停学という理不尽な学校の要求が納得できずに、私は国王に会うために王宮へ行った。
ここ最近のあり得ない状況に怒り心頭だ。
ふざけるな……ここは私がヒロインのエターナル・プロミス。
邪魔するなんて許せない。
バッドエンドに向かう言葉を言わずに過ごしてきたのに、アレク様に会うことすらままならなかった。冗談じゃない。もうすぐエンディングなのに、こんなにも状況がゲームと違うなんて!
今日は国王に会うのにスムーズだった。
結局私のことちゃんと【治癒の力を持つ女神】として、もてなしてくれるってことじゃん。
だったら最初から貴族の養女になんてするんじゃないわよ。全然ゲームと違うシナリオだったじゃん!
部屋に入ると、国王陛下や王妃、そしてアレク様とジェイコブ様がいた。
「今日は何の用だ?」
威圧を感じるも、私は負けじと訴える。
「学園がおかしいんです。テストを受けなかっただけで停学になるって言われたんです」
「学年最下位をニ回取ったんだろ?その理由は学園の規則本17ページ3項目目に書いてあるが?」
「えっ?」
規則本?……そういえば入学前にそんな本もらった気もするけど。だけど面倒で読んでなかった。ってゆーか国王ってそんな細かいところまで読んでるの?!すご!
「まさか、学園に入るのに読んでなかったのか?」
低い声に、ギクリと私の心臓が跳ねる。ば、バレるのはまずい……。どうしよう、ここは認めて話を変えよう!そうよ、このタイミングで頼めばバッチリじゃん!
「あっ!そ。そういえば書いてありましたね!それより私にもう一度チャンスをもらえませんか?私がパーティーに出られなかったら力だって発動しないんですよ!」
「いいだろう。卒業パーティーの前に貴族全員を集める。その時に力を発動してもらおうじゃないか」
あっさりと許可が出た。なんだ、この人結局私の味方なんじゃん。あ、そっか。だからわざわざ男爵家を潰して、私を王宮に戻したかったってことなのね。ホント、養女なんて無駄な事したわ。
「あ、でも着るドレスはないです。何か用意してください」
王妃が明らかに嫌な顔をしたけど、それくらい用意するのは普通でしょ?だって私の身分を平民にしたんだから、それが国王の責任ってものでしょうが。
「歓迎パーティーで使わなかったドレスが何着かあるだろう、その中の一着を渡す」
やった!これなら正々堂々とみんなの前で私の存在を知らしめることができる!
ジェイコブ様がこちらに紙を持ってきた。この緊張感ある部屋で、彼の微笑みは唯一の私の癒やしだわ。
「すみません。ユリエ様は一応身分が平民ですので、王族の費用で用意したドレスの譲渡は契約書が必要なのです。卒業パーティー前のことも書いてありますのでここにサインしてもらっていいですか?」
またサイン……。なんでこの国、いちいちやることに対して書類にサインが必要なの?そんなに書かないとわからないわけ?しかもまたイライラするほどに字が小さい。
「内容としては主に【治癒の力を持つ女神】であればそのドレスを返却しなくていいこととか、卒業パーティー前に力を発動しなかった場合のこと等ですね。まあ、【治癒の力を持つ女神】として召喚されたユリエ様には関係のないことかもしれませんが」
私の目を見て、ジェイコブ様がコッソリと教えてくれる。
この人はやっぱり、私のことが好きなんだ。好感度もきっと最大なのね。だからこんな長ったらしい文章を読まなくてもわかりやすく教えてくれたのか。
えー、私、王妃になりたいのに。ジェイコブ様でもいいけど、せっかくなら王道イケメンで、誰よりも上に立って贅沢な暮らしがしたいんだもん。男爵家が貧乏だったから余計にその欲が溜まっちゃったの。絶対に力を発動させて、アレク様とのハッピーエンドを迎えるって決めた。
ジェイコブ様。あなたの気持ちはしっかり心に思い出として残しておくから。
サインをすると話は終わり、ドレスを選ぶために別部屋に移動させられる。
その中でも一番高そうで一番目立つ豪華なドレスにした。
じゃないと私の存在を見せつけられないんだもの。
そして当日。久々に特別扱いしてくれる王宮で優越感に浸りながら待機していると、アレク様とジェイコブ様が部屋に来てくれたの!
今まで全然関われなかったから嬉しい!アレク様、きっと私に近づきたかったのにドロレスや周りの人が邪魔をして来られなかったんだ。
そうよ、だって私はアレク様とハッピーエンドを迎えるって決めたんだから。
色々と遠回りしたけど、アレク様はちゃんと私のことを見てくれた。
これでもう、私のための卒業パーティーが開かれるんだわ!
彼は他の人たちを下げてくれた。
これなのよゲームは!こういうドキドキシーンが欲しかったの!
ジェイコブ様は後ろに下がってくれているので、私とアレク様だけで会話をする。
「これを渡す」
アレク様は低い声で私にプレゼントの箱を渡した。中には手のひらにおさまるサイズの短剣が入っていた。
えっ……。思ってもいない出来事に驚いてしまい、一瞬固まる。剣なんて、令嬢が持ち歩くようなものなの?
小さい短剣を受け取った私の手が少し震える。さすがに日本でもナイフは持つ勇気はなかったけど……。
「令嬢は太ももの外側につけている。周りからは見えていないだけだ」
あ、なんかそれアニメとかで見たことあるかも……。
アレク様は真面目な顔をして私に使い方を教えてくれた。
「やみくもに使っていいわけではない。自分の運命のために、使うんだ」
自分の運命……。
……これはアレク様ルートでの切り札なんだわきっと。
あまりにもゲームと違う流れ。ドロレスは私のことを虐めない。
でもそれじゃアレク様ルートにはならない。
ジェイコブ様だって、ドロレスの国庫に手を付けた情報をまだ掴んでいないのかな?もう調べ終わるはずの時期なのに。
万が一、断罪ができなかったとき。
そうよ……やっぱり、その時のためにドロレスをやらなきゃいけないんだ……。
だけど実際問題、私が人殺しなんてできる?さすがに無理じゃない?邪魔だから死んでほしいし、殺しちゃおうかななんて言ったこともあるけど。
でも、ゲームでは結局処刑になるんだから別にいいのか。だってそれを王族も望んでいるんだから。
「頼むぞ」
アレク様たちはそう言って部屋を出ていった。
嘘……、アレク様が私を頼ってくれるの?
まだ彼の大イベントに関わってないと思ったけど……、いつの間にか私は彼の信頼を得ていたってこと?もしかして、本当はドロレスと別れたいのに別れる理由が見つからないんじゃないの?だから私に……。
夢のようだ。本当に……本当に私、王妃になれるの??
最高!!!
そう。私がやらなきゃいけないの。
だって、ここ、私の世界だから。
私だけの、私がヒロインのゲームだから。
エンドは決まった数しかないんだもん。そして私が行こうとしているエンドはアレク様のハッピーエンド。
だったらもう、やるべきことは1つしかないんだ。
もし、断罪がされなかった場合。
やらなければいけないのよ、私。
どうせゲームのキャラクターってだけなんだから。
だって、そういうシナリオなんだから。ゲームはそうなんだから、何も問題などないんだから。
みんな、【ゲームのキャラクター】なのだから。
17時にもサイドストーリーを更新です




