18.ついにメインヒーローのお出まし
なぜ。なぜこのタイミングでアレクサンダーが来るのか。全く関わりなかったよね?急に私の誕生日会にフラッと来るとか、悪夢でしかない。これからまだまだ時間があって、王子とはなるべく関わらないようにどうやって過ごしていくかを考えていたのに。
8歳の誕生祭兼お披露目パーティーで会うのもわかる。10歳の社交界パーティーのデビューで出会ってしまうのもわかる。学園で同じ歳で関わるのもわかる。
でもなんで、こんなひっそりと行った私の誕生日会なの?なんで来るのよ。
「今回は本当にたまたまだ。王子は今まで兄弟の他に、宰相と近衛騎士団長の令息たちくらいしか顔を合わせていない。12月の王子誕生祭兼お披露目パーティーで初めて貴族の子供たちの前に出る。だから他の令息や令嬢に会う機会がないんだ」
だからって今?!誕生祭まであと4ヶ月もないんだから、一公爵家の令嬢の所にふらっと来ないでほしい。
不安と恐怖と絶望に襲われ、言葉が出ない。私の様子を見たお父様はやさしく告げる。
「大丈夫、正式なパーティーではないし、今回は王子が勝手について来たものだ。普通にしていれば向こうは特になにも問わないだろう」
勝手に来といてこっちがなにかしたら問う問わないとか、やめてくれる?!じゃあ来ないでほしいわ!
「とりあえずお呼びする。あ!あと申し訳ないがフレデリックは下げる。貴族にお披露目をされていない王子のお姿を平民に見せるわけにはいかないんだ」
「そうなのね……そういう理由ならしょうがないのね、わかりましたわ。こちらもすぐに皆様にお伝えしてきます」
「さすがだドロレス。私はフレデリックくんに事情を話したあとに王子を迎えに言ってくるから、皆を落ち着かせておくれ」
「頑張りますわ」
うん、頑張るしかない。震える拳を何とか抑えつつ、皆のいる方に向かった。
「皆様、急ではございますが、アレクサンダー第一王子がまもなくいらっしゃいます。今回はお忍びということですので、他言無用でお願いします。また、王子がいらっしゃいましたら一通りのご挨拶をしたあとは元通り、お茶とお菓子を楽しみましょう」
周りがざわついている。当然だ。まだ誰もちゃんと顔を見たことのないこの国の次期国王である第一王子がここに来るのだ。令息はそわそわして緊張し出したのが分かりやすく見えているが、令嬢たちは頬を染めて別の意味でそわそわし始めた。うまくいけば見初められる。そんな期待を顔に出しているのである。
「第一王子、アレクサンダー殿下をお連れいたしました」
父上がアレクサンダー殿下と数人の護衛を連れて誕生日会場にやって来た。全員が頭を下げてお辞儀をする。私達の緊張が強くなる。誰かが息を呑んだ。
「アレクサンダー・ランド・フェルタールだ。今日は王子としてきたわけではない。歳の近いものが集まるということで出向いた次第だ。あまり気を使わないでほしい」
ついに来た。メイン攻略対象者、アレクサンダー・ランド・フェルタール。
王道の金髪碧眼。前髪は斜めで分けそのサラサラヘアを風になびかせる。堂々とはしているが、嫌味がない。性格も根本的に良いのでさすがメインヒーローなだけはある。幼い頃から英才教育をし、次期国王としての全ての能力を完璧にこなす。
ただし、国王の第一子のみに発動する【魔力制御】が発動しないことにより、自分は王族の人間ではないのかと心の中で闇を宿し、誰にもその苦しみを打ち明けられない。
そんな苦しみをヒロインに打ち明け、ヒロインが励ますことにより、自分の本来の次期国王としての実力を自信に変える。そうして、ポジティブになれたきっかけを作ってくれたヒロインと結ばれるのだ。
アレクサンダー殿下はまだ7歳。7歳でこの威厳を出す。さすが次期国王だ。一応今回は王子としてではなく同世代の一人として、という事だ。そこまで本人から聞けたのなら、あとは大丈夫だろう。
一歩前に出る。
「お会いできて光栄ですアレクサンダー殿下。お初にお目にかかります、ジュベルラート公爵長女、ドロレスでございます。本日は私めの誕生日会にお越しくださり、ありがとうございます。お茶やお菓子をご用意しておりますので、ぜひお楽しみください」
「ありがとう、君がジュベルラート公爵令嬢か。君の父親には王宮で世話になってる。ダニロ共々、今後も何かと関わることがあると思うが、よい付き合いをしよう」
関わりたくないでーす。お兄様は次期当主なので関わると思いますが、私は必要最低限しかお会いしたくありませーん。そんなことを思いながら、顔は微笑みの仮面を被ってますからね私。どれだけ幼稚園のママさんたちに鍛えられたと思ってるんだ!悟りを開いたレベルだよ!
心の中で拒否をしていたら、後ろから明るい声が聞こえた。
「アレク様!お久しぶりです、ジェイコブです。前回のお手伝いから時間がたってしまいましたね、また来週行く予定です」
「ジェイクもいたのか。仕事は君がいるととても助かるよ。また頼むな」
おおーーっと!ここにきて愛称で呼ぶ二人?!もう二人は知り合っていたのね。そうか、宰相の子供ならお城でアレクサンダーの手伝いはするだろうし、さっき長男が何もしないって言ってたから、きっとそれでジェイコブに任せているのか。
ギルバートといるときのジェイコブが別人のように、明るく可愛らしい笑顔をアレクサンダーに向けている。か、かわいい。
他のメンバーも一通り挨拶をする。令嬢たちはもうそれはそれはゆでダコ状態で瞳はキラキラ宝石のようだ。「素敵……」とため息混じりの言葉が聞こえる。
王子は他の令嬢たちに任せよう。私は別の人とでも話してみようかな、あっ、ジェイコブと話してみようっと。
プリンを食べていたジェイコブに近づき、話しかける。
「ジェイコブ様、そちらのプリンはいかがですか?」
「ドロレス様!とても美味しいです。こんなに美味しいお菓子を食べたのも初めてですし、こんなにゆっくりたくさん食べられるのも初めてです!」
【普段はギルバートに取り上げられ、自分が食べる暇もないほど連れ回される】という意味にしか聞こえないよ……。同情するわ。
「あと、先程はお兄様の件でご迷惑をお掛けし申し訳ありませんでした。公爵家という立場が邪魔をして、誰も咎められなかったのですが、さきほどのドロレス様の強いお姿に思わず見とれてしまいました!お陰で僕も普段の嫌な気持ちがかなり減りました。本当にありがとうございます」
ジェイコブ……。私は画面越しにしか理解していなかったけど、こんなにも苦労をしていたんだね。そしてなんてしっかりした子なの!守れるなら私も全力であのバカ長男から守ってみせるわ!
「ジェイコブ様、もし家にいてあのお兄様といるのが嫌になったら、いつでもお手紙をくださいまし。美味しいお茶とお菓子を用意してお待ちしておりますわ。たくさんお話いたしましょう!」
「はい、ドロレス様!ありがとうございます!」
パアッと明るい笑顔をするジェイコブ様はとてもかわいい。ストレスが溜まったら美味しいものとお喋りで発散よ!
「ドロレス様、さきほどのあのギルバート様への言葉、最高でしたわ!」
「あの男、見目は素晴らしいのにそれ以外がとても残念すぎて呆れておりましたの!ドロレス様のあの怒濤の攻撃!心酔いたしましたっ!」
すごい尊敬の眼差しでエミーとニコルが駆け寄ってきた。
「エミー様、ニコル様。あれは私がすごいのではありません。私はありのままをお話ししただけで、そのありのままが素晴らしすぎるのがあのギルバート様ですわ」
「まぁドロレス様。お口が過ぎますわ。ふふふ」
横でジェイコブが申し訳なさそうにしている。申し訳ないと思いつつも、3人で微笑み合って会話が弾む。あぁこの二人はとても居心地がいい。仲良くなれそうだ。
ギルバートに騒ぎ立てられ、アレクサンダー君臨。やっと落ち着いて女の子と話が出ると思ったのもつかの間、ジェイコブの一言によって再び私だけがサーーーーっと青ざめる。
「そうだ!アレク様と一緒にトランプやりましょうよ!」




