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間違って転生したら悪役令嬢?困るんですけど!  作者: 山春ゆう
第三章 〜ゲームスタート〜
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151.氷庫

「…………は?」



 ルトバーン商会を訪ねた次の日。


 目の前の彼女にサロンへと連れて行かれ、部屋の中で二人きりになる。




「クリストファー様が……婚約を解消したいという旨の手紙を私に持ってきました」


 落ち着いているように見えるが、震える声で言葉を繋ぐレベッカ。

 私は開いた口が塞がらない。


「なぜ……なぜそうなったの?!だって上手くやってたじゃない!」


 私はレベッカの肩を掴む。

 ありえない。クリストファーに限って、レベッカのことを嫌いになるはずがない!じゃあなんで?どうしてよ!



「話は内密にということで、今度会うときにお聞きする予定なのですが……何か私は彼の気に障ることをしてしまったのでしょうか?そんなこと記憶にはないのに。どうして……」


 そのまま膝から崩れ落ちた。私は彼女の背中を擦る。


「あなたがクリストファー様に何かをするとは思えませんわ。これまでクリストファー様の味方でいたのでしょう?それならあなたの問題ではないわ!」


「ではなぜ……」


 私は考える。

 クリストファーは自分がレベッカのことを好きだと自覚している。だから気持ちの面では問題ない。恥ずかしくてやめたい?そんなわけないでしょ。






 ……まさか。


 私がアレクサンダーの婚約解消を申し出たから、兄のためにクリストファーも解消しようとしてる??



 彼はアレクサンダーのことを尊敬しているんだった……ということは、私との婚約解消が成立した場合に、自分だけに婚約者がいることを彼の中ではもしかしたら許せないのではないだろうか。

 だから自分も……?


 そんな、わけないよね?でも彼ならやりかねない。




「レベッカ様。……実は」



 私は、アレクサンダーとの婚約解消を希望した話をした。それはクリストファーにとっては困る内容だということを彼女は一瞬で理解した。複雑な顔をする彼女に申し訳ないと謝る。



「いえ、それならクリストファー様の行動が理解できます。元よりアレクサンダー様を尊敬してご自身を劣らせていたくらいですから、そうなるのは仕方がないことですわ……」


「レベッカ様、それは違う。クリストファー様はクリストファー様なの。自分の兄が婚約しないからといってじゃあ自分もやめるだなんてどう考えてもおかしいわ。他に方法はいくらでもあるでしょ。彼は極端すぎるのよ。もしこれから彼と結婚して、それでもすべてアレクサンダー様に左右される人生を歩みたいの?」


「それは嫌ですわ……ですがクリストファー様がアレクサンダー様を基準として動いているのはわかっておりますのよ」


「今後アレクサンダー様が結婚して即位して、私なのか他の人なのかわからないけど王妃がもし亡くなったらどうする?彼のことだもの、『王妃がいなくなって兄上が一人だけなので、あなたも離縁してください』って言う可能性だって無くはないのよ?」


 クリストファーのことだ。そう言いかねない。兄と比べられて、兄より勝ることのないように秀でたものを無くすよう生活していたんだから。


「そんなアホなこと、あってはならないわ。今度クリストファー様に会うんですよね?!ちゃんとあなたの本当の気持ちを伝えて。仕方のないことだと諦めないで。それは全てやって駄目だったら、仕方のないことだと思っていいから!」


「うぅっ……ドロレス様……。がんばりますっ」


 涙をこらえるレベッカを、私は抱きしめた。


 彼女はクリストファーに一目惚れして、小さな頃から必死で勉強をしてきた。

 彼に、結婚しない、しても愛さないと宣言され、それでも近くにいたいと味方になった。

 なのに婚約者として、彼の横に立つこととなった。

 愛されないのに、全部彼のためだと頑張ってきた。


 それでなぜこんなツラい現実を味わわせるの?


 クリストファー、もっとしっかりしてよ!あんた男でしょ!!男なら、自分の好きな人の気持ちくらい考えてやりなさいよ!!





 私のところもレベッカのところも進展はなく、8月になって私はお父様とルトバーン商会長と共に氷庫を隠し持って王宮へと出向いた。

 予め国王に内密の物だと伝えていたため、何の疑いも持たれずにあっという間に謁見の部屋へと到着した。



「さて。今日は何を持ってきてくれたのかな?」


 なぜかワクワクしている国王と王妃に側妃。そしていつもの無表情アレクサンダーと、笑顔だが全く血の通っていない表情をしたクリストファーがいた。レベッカと何かあったな……。



「まず。今、暑いですよね?」


「ん?ああ、そうだな。夏だからな」


「そんなとき、冬のような冷たい水を飲みたいとは思いませんか?」


「その気持ちはよーーーくわかるが、無理だろ」


 そんなこと不可能に決まってるだろ何言ってるんだコイツ、的な目で私を見る国王。そんな目で見ないで。めっちゃ怖いから。



「では。こちらをぜひ」


 氷庫の上に掛かった布を取る。ただの箱に全員が頭の上にはてなマークを浮かべた。

 私は氷庫から氷を取り出し、もともと用意されていたワイングラスに入った水の中に入れる。



「それは、氷か?氷など口にできるわけがないだろう」


「いいえ。これは飲める水です。飲める水をこの箱の中で凍らせたんです」


「はぁ?!何を言ってる。その小さな箱で氷……しかも口に含める氷なんて」


 氷を口に入れる。それは、日本人が生の魚……つまり刺身や生卵を食べることと同じ。当たり前すぎて何を言ってるのかと思われるが、少し前の海外の人からすれば日本人の生魚や生卵文化に驚くようなものだ。この国の人は、それと同じ考えを持っている。

 国王はソファーから立ち上がり、箱を持ち上げた。


「こんな箱で?中を見るぞ……あ、これは……魔石か?!」


 驚く国王へ説明をする。


「仰る通りです。魔石を密閉箱の中に入れれば、3時間で氷が作れます。ぜひその冷たい飲み物を飲んでみてください」


 一応護衛に毒味をさせると、驚いた顔をしている。


「どうした?」


「これは……足りない……」



 もっと飲みたそうにする護衛にも氷入り水を用意して、みんなで飲む。

 そして、全員が一気飲みする。全てのグラスが空っぽだ。



「も、もう1杯くれ……」


「私も飲むわ」



 何という不思議な光景だろう。氷が入った水を嬉しそうに飲む偉い人とその家族。日本では日常のことなのに、初めてテレビや電話を使ったかのような感動をしている。


「あ……あんまり飲みすぎないでくださいね、まだ他のもありますから」


「まだあるのか?!次はなんだ?」


 ……今日って氷庫の説明しに来たんだよね?試食会になってない??

 まぁ、そりゃそうなるわな。


 アイスを出す。そして毒味の護衛が一口食べて目をまんまるにする。すぐに国王たちに出すよう指示された。


「まぁ!なんて美味なの?!口の中に入れた瞬間に柔らかく溶けていくわ。中に感じるミルクと甘さ!暑さなんて忘れてしまうわよ」


「この小さな箱でこんなにも素晴らしいものが出来るの?!魔法じゃないの?!」


 全員が感動した表情になり、特に王妃と側妃が思いっきり盛り上がっている。よかった、これならロレンツの店に出しても問題なさそうだ。

 私と商会長は氷庫を詳しく説明する。


「この販売の許可をいただきたく今回献上しようとお持ちしました」


 その言葉を聞いて、国王が少し考え込む。

 え、やっぱり駄目?流石に魔石をこんな使い方するのはナシだった??

 一気に不安が押し寄せる。


「今、その氷庫はどの程度作った?そして生産は時間がかかるのか?今までの手袋やルームソックスのように大量生産は難しいだろう?」


「そうですね。現状魔石数も多くはないですし、1個あたりにかかる時間は正直日数はかかります」


 ルトバーン商会長の説明をしばらく聞いていた国王は一つの決断を下す。



「この氷庫のお披露目を社交界パーティーで行いたい。それまで、世の中に出回らないようにできるか?」



 その言葉に、私も商会長も愕然とした。夏真っ盛りのこの時期、一刻でも早く販売したかった。ロレンツの店でも使いたかったのに。


「失礼ですが、なぜそのようなご意見を?」


 商会長が国王をまっすぐに見る。彼もきっと納得をしていないのだろう。


「今現在、貴族分は作ってあるのか?」


「はい。貴族分は一家に2台用意してありますので問題ないかと」


「……それで済むと思うか?」


「はい?」


「厨房はもちろんのこと、応接室、自室、寝室、食事部屋。そこに一台ずつ置きたいと言い出したらどうする?一家族5台以上希望されて、生産は間に合うのか?それ以外に料理店でも使いたいと言われたら?」


「それは……」



 確かに国王の言う通りだ。

 貴族なら、やりかねない。


「それに、魔石が大量に必要だろ?貴族が自分の邸宅にある魔石を使おうとすれば、石留を外す必要もある。その場合は……少量ならウォルターが何とかできるかもしれないが、まだ力を公表してない。王宮の専門職の人間を動かすことになる。それならば、社交界パーティーまでにある程度量産しておいたほうがいいだろう。その代わり余っている魔石をこちらから破格で出す。形はいびつなものだが、氷庫には関係なさそうだからな。私の許可で、王宮に残っている魔石をルトバーン商会に買い取らせよう」


 国王は断言した。

 さすが、というか。国王ってそこまで先が読めるんだ。言われてみれば納得することばかりだ。目先の喜ぶ人のことを考えていただけで、氷庫を制作する側の混乱を考えていなかった。

 商会長もさっきと表情が変わる。なるほどと頷いていた。


「パーティーで大々的に宣伝してやろうではないか。だから申し訳ないがまだどこへも出さずに秘密裏に作ってくれ。そして商会では数種類のサイズを用意してほしい」


「かしこまりました」



 そうだよね。まだちゃんと量産体制ができていないと駄目だ。かなりの大革命だが、そんな簡単に出してはいけない。ルトバーン商会にかなりの迷惑がかかってしまう。私たちは持ってきた氷庫に布をかけ、自分たちの手元へ戻す。




「え?」


「え?」


「……なぜ持ち帰る?」


「あの……どこへも出さないで、と」 


 ん?


「そ、それはそうだが……それは献上品だろう?では置いていけ。……あと、ゴホン……アイスの作り方も」


「……」


 自分だけ楽しもうとしてるな?


「陛下。それならば、我が家とルトバーン家族にも使用許可を」


 すかさずお父様が許可を求めた。ナイスタイミング!


「……わかった。そなたたちには許可を出す。ただし誰にも知られることのないようにな」


「もちろんです」


 ニコリとお父様は微笑み、その後社交界パーティーに向けて王宮の厨房に置く氷庫の話をまとめ、私たちは部屋を後にする。


 しかし私とお父様だけ呼ばれ、再び部屋へと戻る。





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