エターナル・プロミス 〜side.ユリエ〜
ユリエのサイドストーリー。
この世界が舞台とされているゲーム、『エターナル・プロミス』の詳細が出ます。
読んでも、あえて読まなくてもいい回です。
これで大丈夫……。私がアレク様ルートに入ればいいのよ。
そうすれば万が一のときにはウォルタールートだって入れる。とにかく誰かのルートに入らなきゃ。
あの悪役令嬢はちゃんとシナリオ通りに動いてくれないから困る。なんで私のことを虐めないの?アレク様ルートでは必須でしょ?
だったら先にドロレスを潰せばいいんだわ。そうすれば他の攻略対象者だって順調にいくんだから。
【治癒の力】だってたまたま発動しなかっただけじゃない?別のタイミングで発動するはずよ……。だって私ヒロインなんだから。だけどショックすぎて学園を1週間休んでしまった。部屋を出られなかった。
アレク様はなんで治ったの?もしかして私が治した?でもゲームで見た光は出てない。じゃあなぜ??
あ、もしかしてバグった?私が力を発動しなかったから、ストーリーを進めるためにシナリオ補正のような感じで強制的に無事治っちゃったのかしら。それならラッキーね。改めてゲームを再開できる。
早く証拠になるものを見つけてウォルターを連れてこなきゃ。そして私は神のように崇められるの。早いうちにドロレスを処刑してもらうんだ。だってこのままじゃアレク様が私に興味を持ってくれない。
ま、流石に殺すのは可哀想だから平民に身分を落として国外追放とかで許してあげてもいいしね。いや別にいいか。ゲームでは処刑なんだから。
王妃になったら毎日楽しそう!美味しいもの食べて、ドレス着て、アレク様とラブラブで!日本じゃ考えられないお金持ちの妻になれる。
でもどうすればいいの?王子を見つける力が鍵なのに。
アレク様だって今はドロレスとしょうがなく一緒にいるかもしれない。だけどこれから私が彼の支えになれば、彼は私のことを好きになる。
とにかく、アレク様ルートを最優先で攻略しよう!
なんてったってここはエターナル・プロミス。何回プレイしたと思ってるの?これからみんながどう動くかなんてわかりきってるんだから!
全部私は知ってるの。だから私がヒロインと同じに動かなくたって、結局ゲームなんだからストーリーは進んでいくのよ。今の所ちょっとだけ遅れてるのをなんとかしなくちゃ。
そんなことを考えていると、横にいるジェイコブ様が話しかけてくる。
「大丈夫ですか?」
さっき国王陛下に約束をしてもらったあと、外までジェイコブ様がついてきてくれた。
女装させても気付かないだろうと思うほど綺麗な顔で私のことを覗き込む。う、美しい……。アレク様の顔も好きだけど、彼の顔も相当美形だ。
ジェイコブ様はおそらく相当好感度が上がってる。彼だけはいつも私の話を聞いてくれてるんだから。今日だって、私のために王宮に入れてくれて、国王陛下に会わせてくれた。
それって、私のことが好きだからでしょ?
「大丈夫です、国王陛下とも約束できたし私は未来を必ず当てますから」
笑顔を見せれば彼も笑顔で返してくる。んーーー!ジェイコブルートも同時にクリアしたい!
「その未来……の話なんですけど、もしよろしければ僕にだけ全部教えてくれませんか?ユリエ様は陛下やアレク様の前でも宣言されることが多いですが、それってこの国では命を落としかねない危険も兼ねているのですよ?」
「えっ?!な、なぜですか?!」
そうなの?!だって私はこの国をいい方向に導こうとしてるのに?悪役令嬢を処刑して、国王の呪いを解いて、幸せに暮らせるはずなのに?!
「以前僕は、どの程度まで見えるかの質問をしましたよね?それでユリエ様の見える範囲はわかりました。だけどもしユリエ様が他のところで未来を見えると言ったらどうなると思います?」
「どう……なるのですか?」
「ユリエ様が他で一言でもそのような発言をされれば、それがたとえ短い期間しか見えないとしても、そんなこと関係なくなります。『未来が見える女』として人身売買や、塔に閉じ込められて予言をするだけの生活、一生外出できず、未来が見えないとわかれば殺される可能性だって充分あります。どんなに親しい間柄だとしても、その人が他で一言ポロッと喋れば瞬く間に広がりますよ」
「……あ…」
そんな……。そんな大変なことなの?命の危険なんて、日本じゃ全然考えられなかったから……。話したらまずいんだ。だから国王も、箝口令を出したのか。
危ない。王妃になる云々の前に、そもそもゲームどころじゃなくなる。
ジェイコブ様の表情を見れば、その重大さに気づいた。
「この国で魔力があるのは国王とその第一子だけですから。それ以外の存在がいたら……国への反乱に使われてしまうかもしれないですよ?そうすればあなたは反逆者。問答無用で処刑です」
「嫌です!ジェイコブ様、助けてください!」
嫌だ嫌だ嫌だ!せっかくゲームに入れたのに、誰も攻略しないまま死にたくない!!
「未来が見えていても、なかなか人に話せない。それはおつらいでしょう?なので、僕にだけ話してください。そうすれば気持ちが楽になりますよ。僕なら王族でもないし下位貴族でもない。次期宰相という一番公平な場所にいます。だから、あなたの不安を全部ぶちまけてみませんか?」
な、な、なんてかっこいいの!!顔も性格もイケメンとか何?!私のことが好きなのはわかるけど、ゲームと全然違うじゃん!めちゃくちゃ優しいじゃん!!え、私アレク様ルートに進むのに……ジェイコブ様ごめんなさい。私はアレク様と結婚するから、失恋になってしまうよね?
だけど彼にだけ……二人だけの秘密があるのもいいじゃん。それはそれでアリだ。
だけど、ゲームだなんて言っても信じてもらえるかな?
「あの……とても難しい話になりますが、いいですか?」
「もちろん。ちゃんと聞きますよ」
彼の笑顔があまりにも綺麗すぎて、顔が熱くなった。
モテるって、つらい!!
ジェイコブ様は王宮の部屋を手配してくれて、二人きりになる。ドキドキと心臓が早く打つ。こんなにもイケメンと二人で部屋の中だなんて、落ち着いて話せるかな……。
「未来が見える、というのはですね。この世界がゲームなんですよ」
「ゲーム?」
私はまず、乙女ゲームの説明をする。そしてこの世界がその仮想の中だということも話した。アレク様たち四人が最初の攻略対象者だということも。
ジェイコブ様は少し驚くような顔をしていたものの、私のことを馬鹿にしたりせずに静かに聞いてくれた。そのおかげで私も落ち着いて話ができた。
「それでアップデートという……えーと、そのゲームの中の情報を追加するようなことをして5人目の隠しキャラが現れるんです。実は……ウォルターなんですよ。彼は、第一王子なんです」
「なんと!彼がそうなのですか?」
彼は冷静な声だけど、驚いていた。そりゃそうよね、孤児が実は王子だなんて誰が想像するのよ。
「でも彼の攻略はとても難しくて。最初にウォルターのルートを選択するんですが、ほぼアレクサンダー様を攻略しなければいけないんです」
「ウォルタールートなのにですか?」
「はい。アレクサンダー様の好感度を最大にし続けると同時に、ところどころ出てくるウォルターの好感度を上げます。一番大きく変わるのはログス山の近くで道に倒れている孤児を助けるんです」
アレクサンダーの好感度がないと、ウォルターと対立してしまってハッピーエンドに進めない。だから難しかった。そのためにはウォルターとログス山へ行き、協力してその子を助けて、私のことを見直してくれるの。そしてウォルターメインの攻略が始まる。
「だけどその後が難しくて……。結末が4種類あるんですけど、ハッピーエンドは平民のまま私と結婚して幸せになるんです」
「……へぇ。そうなんですね」
ここまで離しても、ジェイコブ様は真面目に聞いてくれた。私の話をちゃんと聞いてくれる。私と結ばれないことを申し訳なく思った。
「【治癒の力】はまだ私発動してないんですけど……。アップデート後はここに召喚されるときに神様と話をするんです。【王子を見つける力】を授けました、って。それがウォルターを王子だということを示す証拠になるんですが、どうやらこの世界はアップデート前なんですよ。私、神様に会わなかったので」
「それは、残念でしたね」
そうなの、だからきっとウォルタールートのイベントが上手くいかないのよ。
「だけどウォルタールートを全部攻略すれば、もう一つルートが開放するんです。同じくキャラ選択してもウォルターと同じように、途中までアレクサンダー様を攻略しなければいけないんですよ」
「6人目?」
私も途中までしか進んでいなかった。だけど難しいウォルタールートをクリアすれば、その後はとても楽しいと攻略サイトに書いてあった。
「そうです。アレクサンダー様たちのルートを全て攻略して、ウォルタールートも全て攻略して……そしてたまたま【王子を見つける力】をその6人目に見られて、そこから本格的に攻略が始まります。それがフレデリックなんですよ」
フレデリックルートは、アレク様とウォルターの好感度を最大にしつつ、ところどころ出てくるフレデリックも攻略する。ウォルターは特に好感度を上げておかないと信頼関係が築けないのよ。
そして例の力を見たあとから本格的に攻略が始まるんだけど、同時に3人を攻略するようなもので、四角関係……だけど1対3のモテモテ状態になるのだ。
王子と真の王子に求愛されつつ、平民を選ぶという流れで、大商会で幸せに暮らすの。
だけどこれは攻略サイトのネタバレ情報で、私はそこまで進められずに死んでしまった。
「フレデリックルートでの大きな問題は……ジェイコブ様のお兄さんの事件があって……でもそれってどうなってますか?お兄さん、なにか事件は起こしました?」
そういえばどうなったんだろう。学園にはいないから詳しくわからない。それにゲームでも顔が出ていないから誰がギルバートだかわからない。
「うちのことは大丈夫ですよ、それよりフレデリックルートとウォルタールートのことをもっと詳しく知りたいな」
そう微笑まれ、私は嬉しくて再び話し出す。
ウォルターが街で助けた孤児は孤児院に移されて、他にもログス山にいる子供たちを助けること。そしてウォルターと一緒に孤児院へと足を運んだり、そこで段々と距離が縮まること。
フレデリックは大商会の息子なので街にも顔なじみが多く、よくヒロインをデートに誘ったこと、最初のほうでお揃いで買ったものがその後の好感度に大きく影響することなどを話す。
「フレデリックルートはとにかく女子たちが悶絶です。キュンキュンするような甘いセリフを言ってくれるんです!他の対象者は大きなイベントがあって、悲しみとか苦しみを乗り越えるようなものなんですけど、フレデリックだけは最初からラブラブでひたすら二人の距離を縮めるのがメインなんです。とっても情熱的で!なんで私、途中までしかやってなかったの?!って今でも後悔しています」
「キュンキュン……ですか」
ほんとそうなのよ。攻略サイトでのあの盛り上がりを見てたからめちゃくちゃ楽しみにしてたのに、なんで途中で死んだの私!フレデリックルートだって最後までやりたかったのに。
他の攻略対象者と違って彼は平民だから距離感がとても近い。貴族のように一歩引いた付き合い方じゃなくて、日本の一般人みたいな付き合い方ができるって書いてあった。
だから、アレク様を攻略しつつもウォルターとフレデリックを同時攻略しようと思ってたのにさ……。あの二人、全然私のこと見てくれないし。力が発動しないから、二人が私に興味持ってくれるきっかけが出来ないんだもん!
「まさか僕たちまで関わったゲームとやらが存在するとは思っていませんでした。……それで、これからユリエ様はどうするおつもりなのですか?」
真面目な顔をして聞いてくるジェイコブ様に、私は息を呑む。
アレク様と結婚して王妃に、それが万が一叶いそうになければ、その流れで同時攻略可能なウォルターかフレデリック。さらにこの三人が駄目でもジェイコブ様がいるから、この四人の誰かとなら結婚できるでしょ。
だけどそんなこと口にしたらさすがに引かれるかもしれないから、ここは一番王道ルートで行こう。
「私は……アレクサンダー様と結婚して王妃になろうと思っています。やり方はわかっているのですが、どうしてもドロレスがシナリオ通りに動いてくれないんです。このままだとドロレスは処刑されないんです。……あ!ジェイコブ様、私の計画に協力してもらうことって出来ますか?お願いします!ドロレスが国庫に手を付けたら教えてほしいんです。わたしはそれをアレクサンダー様に伝えますから!」
私の必死の訴えに、彼はうーんと唸りながら顎に手を当てた。
なんとかして手伝ってほしい。協力者がいてくれたら私もストーリー通りに動ける。
「わかりました。ドロレス様が国庫に手を付けたらすぐに教えますね」
「あ、ありがとうございます!!」
やった!これで私の味方ができた!
「それならやってほしいことがまだあってーー」
「ユリエ様」
静かに私の名前を呼ぶジェイコブ様。美しい顔で微笑みながら答えてくれる。
「申し訳ございません。協力したいのは山々ですが、なにせ立場が次期宰相。誰かの手伝いは出来ないのです。ですがユリエ様、あなたは自分の信じる道を突き進んでくださいね」
「……はい」
そうだ、そうだよね!だって彼はこれから偉くなるんだから。うん、大丈夫。私は大人だからちゃんとわかってる。彼も手伝いたいのに我慢してくれているんだ。
「今日話したこと、ユリエ様は他の人に話してはいけませんからね?未来のことを予言することが一度でもあれば、命の危険がありますから」
「はい、大丈夫です。もう絶対に言いません」
それに、話したくなったらジェイコブ様を誘えばいいんだもん。こんなところで死にたくないし!
彼に王宮の門まで見送られ、徒歩で学園の寮へと帰る。
そうだ明日から停学だ。
何しようかなー。街に行って遊ぼうかな!ウォルターとフレデリックを誘おうかな。
私は鼻歌を歌いながら歩いた。
17時に本編を1話更新します




