147.彼女の主張
当たり前のように部屋に入ってくるユリエを見て、私とアレクサンダーは愕然とする。きっと同じ気持ちだろう。
なぜ王宮に入れた!?!?
「ジェイク……、その者は謁見の許可を取ってないんだぞ?父上に合わせるわけにはいかない」
「んー。そうなんですが、どうしても話したいと仰るので連れてきました」
そしてジェイコブはアレクサンダーに耳打ちする。一瞬顔をしかめるアレクサンダーだったが、少し考えたのち、まさかの許可を取りに行くために国王の元へ行ってしまった。
本気ですか????
「ジェイコブ様っ!ありがとうございます。さすがジェイコブ様ですね!」
ジェイコブは無言で笑顔をユリエに向ける。何を考えているのだろう。ただでさえユリエの印象があまり良くないであろう国王に、そんな強引に会いに行ったら余計に悪印象になると思うんだけど……。
三人でこの部屋に残り、ユリエはジェイコブにひたすら話しかけ、私はそれを無言で見るというよくわからない時間が過ぎた。
そしてアレクサンダーが戻ってくる。
「許可をとった」
「ありがとうございます。アレクサンダー様が私のためにしてくれるなんて嬉しいですー。私、あなたの心の支えになりますから!待っててくださいね!」
「……。ドロレス、君も謁見だ」
「え?」
「ち、ちょっと待ってくださいアレクサンダー様!この女は関係ないです!」
「何がだ?ドロレスが君を突き飛ばしたんだろ?当事者ではないか?双方がいないと父上は会わないと言っているぞ」
「っ……わかりました……」
悔しそうな顔をするユリエと共に玉座の間へ向かった。
この間話した豪華な謁見のための部屋も王宮らしかったけど、これは……まさに漫画とかゲームで見る部屋だ。
高い位置に豪華な玉座があり、赤いカーペットが敷かれている。階段下に私たちは誘導され頭を下げている状態だ。緊張でピンと張り詰める空気の部屋。
なぜこの部屋にした???
関係者以外は全員部屋を出て、国王と王妃、そして色々と事情を知っている護衛と私達だけになる。
全員が頭を上げるよう許可が出た。
「ボドワン男爵令嬢ユリエ、何の用でここに来た」
「はい。実は今日、ドロレス様に突き飛ばされたのです。目撃者もいるのに、みんなドロレス様の味方をして私のことを陥れようとしたんです。私は悪くないのに、なぜか停学処分にさせられました!学園に言ってやってください。この女が悪いからこっちを停学にしろ、って」
そう言ってユリエは私を指差す。国王が私を目線だけで見ていたことに気づき、小さく首を横に振る。それを見た国王は視線をユリエに戻した。
「それに関してはもうすでに処分が決まっただろ」
「ですから、私は悪くないんですよ。停学なんて食らってたら私は先に進めないんですよ。私は特別じゃないですか!」
「……そなた、貴族になるときにサインを覚えているか?」
「え?あぁ、はい」
「その中に、『例外なく学園に準則であること』と記載されているのを読んだのか?今回の件は学園で起き、判断は学園がすることだ。それを守らないというのか?私に直訴するような内容ですらない。それなのにわざわざ私に会おうとしたのか?」
「だって私は……【治癒の力】を持ってるんだから……」
悔しそうにそう口にするユリエ。国王は何かを護衛に持ってこさせると、それを私達に見えるように手に持った。
「ユリエ。お前は覚えているか。アレクサンダーが毒を飲んだらすぐに【治癒の力】が発動すると宣言したことを。絶対だ、嘘はないと言っていたな」
「あっ、それ……は」
「だがどうだ?未だに君は発動していないではないか」
「それは、たまたまですよ!場所がきっと悪かったんです!違う場所だったら発動していたかもしれないのに!」
「そうか。だがお前は私に嘘をついたということだ。未来が見えるなどと平気で嘘をつく。ドロレス嬢にやってもいない罪を着せるのか?」
「いいえやりました!信じてください。そしてこの女はこれからもずっと私に対して暴力や暴言を吐き続けるんです。アレクサンダー様が私と楽しく会話をすることに嫉妬して、『私のほうがアレクサンダー様にふさわしい』って言いながら虐めるんです!」
国王が一瞬目を細めた。
「僕に、嫉妬……?誰が?ドロレスが?本当に?嫉妬?え?嫉妬?僕に?」
アレクサンダーが、横にいる私にしか聞こえない程度の声でブツブツと呟く。ついこの間婚約解消宣言してきたはずなのに、なぜ嫉妬?と言わんばかりに混乱して私の顔を見る。私は知らないフリをした。
……ってゆーか!ヒロインを虐めるのはアレクサンダールートだけの話なんだけど!!ほ、本気でアレクサンダールートに入るの?!思わずポロッと出ちゃった言葉にしては相当まずいよ!国王が目の前にいるんだから!
このままだと……まさか……。
「そして最後には、アレクサンダー様が自分のことを全然好きになってくれないから、嫉妬に狂って内緒で国庫のお金にまで手を付けるんですよ!最終的には処刑されます」
言ったーーー!!そこまで言っちゃった!
アレクサンダールートに入るためにわざわざあの突き飛ばし芝居を起こしたの?確かにあんなシーンあったけど、ゲーム的に言うならアレクサンダーの好感度は今マイナスだからね??そして力を発動してないのにどうやって先に進めるわけ??
……だけどこの場にいる全員が大きく反応することはなかった。
「これからドロレス嬢がアレクサンダーのことで嫉妬するのか?」
考え込むような顔をする国王と王妃。彼らもまた私の婚約解消宣言を聞いたばかりだ。頭の中がごちゃごちゃになっているのではなかろうか。
私がアレクサンダーに嫉妬するっていう時点でもはや誰も信じていないとは思うけど……。
「それは間違いないのか?」
「はい。これからそうなっていきますよ。それに私、この間メイドの人が言っていた王子、見つけることができますから」
えっ。まさか魔力を持つ人に反応するあの力を持ってるってこと?【治癒の力】は発動しない代わりにそっちは授かったの?!
今週末に私がウォルターを王宮に連れて行くんだけど……。
「そうか。ならばその者を連れてくるがよい。ただし!証拠をすべて揃えてから来ることだ。証拠がなければ虚偽の発言とみなす」
「えっ……証拠……は」
この反応を見ると、金のオーラの力はなさそうだ。
「ないのか?ならば論外だな」
「いえ、なんとか見つけてきます!ですからそのときは……そのときは!私を王妃にしてください!」
その言葉に全員がユリエの顔を見る。
言った……この子言ったよ……。
「ボドワン男爵令嬢、何を言ってるんだ?私にはドロレスがいるのだぞ」
いやそれも解消する気満々ですけどね!
「大丈夫ですよアレクサンダー様。私はあなたの味方ですから」
ニッコリとユリエがアレクサンダーに微笑む。その笑顔を受けた彼は怖いものでも見たかのように青ざめた顔をした。
「未来が見えるのは本当です!先程この女のことについて言ったのも事実です。もしそれが本当に起こって、私が隠し王子を最初に見つけて、ここに連れて来たら私をアレクサンダーの妻にしてください!そして私を特別な存在に戻してください」
「いいだろう」
あっさりと答える国王。
「父上?!なにを?!」
信じられないといった表情で国王を見るアレクサンダー。
「いいではないか。証拠を揃えて王子を探してくれると言ってるのだから。護衛よ、今の言葉はすべて書き留めているよな」
「はい」
端のほうで何やら紙に文字を書き続けている護衛がいた。え、護衛ってあんなことまでやるの??
「ユリエ。言いたいことはそれだけか?お前がここに来た目的は学園の規則に関してだったが、その件は今の話とは別だぞ?学園の規則には従ってもらう」
「っ……わかりました……。ですが先程の約束は守ってくださいね」
「もちろんだ。必ず守るとしよう」
ユリエは玉座の間を出ていこうとすれば、ジェイコブが送ると言い出し、二人で出ていった。
残された私、アレクサンダーと国王、王妃。
ドアが閉まると同時にアレクサンダーが国王に詰め寄る。
「父上!なぜあのような約束を!私の気持ちは無視ですか?!あのような令嬢と婚姻などしたくありません!なんとしてでもドロレスとの婚約は解消しないでください」
えっ?!それとこれとは別でしょ!思わず睨むように、彼の方を見てしまう。やめて!ユリエに王妃になってほしくはないけど私も王妃にはなりたくない!
国王はアレクサンダーを黙ったままジッと見続け、話し始める。
「本当にそのようなことが起こると思うか?」
「それはわかりませんが……でももし万が一のことがあれば」
動揺しながらも、可能性はゼロではないだろうと国王に訴えかける。
「お前は近くでずっと見ていて、嫉妬云々はさておき、ドロレス嬢が国庫に手を付けるような人だと思うか?」
「!……そんな人ではありません」
ハッとしたような顔をし、その後に小さな声で国王の問いかけに答えた。そして気まずそうにこちらを見る。国王から信頼されているような言葉を受け、私は内心驚いていた。
「すまないドロレス」
「いえ。それに嫉妬もしませんし、する予定もないので」
「……」
苦虫を噛み潰したような顔をするアレクサンダー。絶対にしませんのでご安心を。
続けて王妃も口を開く。
「アレク、よく考えてみなさい。万が一ドロレスがあの娘の言ったことをするとして、ここで『内緒で国庫に手を出す』って宣言されたら確実にそこには手をつけるわけ無いでしょう?国庫の管理が厳重になるのは目に見えてるんだから、手を付けたらすぐにバレるわよ」
「「……確かに」」
私とアレクサンダーはハモる。今から窃盗するっていうのに、先に場所の情報が警察に漏れたら行くわけがない。
「それに、もうウォルターという者を最初にドロレスが見つけてるだろ。その時点であんな口約束すでに無効だ」
ああ、そういうこと。
すべてが出来レースだったのね。その上でずっとユリエの話を聞いていたのか。
「なので安心して週末にその者を連れてきてくれ」
王族の人たちは先程までの出来事が何もなかったかのように普通に会話をしだした。
「かしこまりました」
こうして私は玉座の間を後にした。
明日7時にサイドストーリー、17時に本編を1話ずつ更新です




