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間違って転生したら悪役令嬢?困るんですけど!  作者: 山春ゆう
第三章 〜ゲームスタート〜
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145.王子の証拠

 帰りの馬車の中。



「しかしドロレスはすごい才能を持っているじゃないか。ただでさえ第一王子が別にいて騒然としているのに、それをお前の力で一瞬で見つけられるんだから。これだけ王族に貢献して、こっちに見返りがないのは割に合わない。ドロレスが婚約継続を望む気持ちがないならそのまま貫くんだぞ」


「ですが……それは公爵家にとって良いものではないですよね?私のせいで家にまで迷惑がかかると思って今までずっと諦めようと思っていました。だけど二度とない機会を逃したくはなく、お父様に何も言わずに婚約解消の話を出してしまいました。申し訳ありません」


 せめて、家にはお咎めなしにしたい。私のことはどれだけ悪く書かれてもいい。将来独り身でもいい。それなら孤児院で働くから。

 そう考えこみ、下を向く。するとお父様は無言のまま頭をなでてくれた。


「もう子供じゃないのですよ」


「いつまでたっても、ドロレスは私の子供だ。たまには甘えなさい」


 お父様はいつもの優しい顔で微笑んでくれた。私もそれに笑顔を返せば、お父様は馬車の行き先を変更する。


「今からルトバーンに行く。ウォルターくんと商会長に話をしよう」


「え?!」



 急遽決まった訪問に慌てる。まずい、彼と握手したのは7歳の時だ。それがバレたら話が全部おかしくなってしまう!!


 不安で緊張する気持ちをグッと飲み込み、商会へと到着した。

 部屋に案内されたあと、お父様が商会長と話すために部屋を出て、すれ違うようにウォルターが先にやってきた。神様最高!ベストタイミング!!


「急にどうしたんだ?」


「今から言うこと、全部話し合わせて!」


「えっ?なに?」


 過去の握手でのオーラの話は一切なかったこととし、3日前の寮でたまたま私が転んで助けてもらったときにオーラが出たこと、魔石を石留無しで触ったことを伏せること、もしそれをやれと言われたら初めての反応をすることなど必死に彼へ訴えた。

 ウォルターは混乱していたが、何度も私が同じことを言うもんだから最後のほうには私の後に復唱していた。



 大人たちがやってくる。

 部屋には私とウォルター、お父様と商会長の四人だけになった。



「よほど重要なことですか?」


 書類を片手に持ちながら、私達に問いかける商会長。なんの連絡もなしにやってきた私達を嫌と言わずに受け入れてくれただけでも相当ありがたい。仕事の途中なのに。



 私は深呼吸する。ついにこの真実を告げる日がやってきたんだ。





「ウォルターはこの国の第一王子です」



 バサッと書類の落ちる音だけが部屋に響く。商会長もウォルターも目をまん丸に開いて唖然としていた。

 少し間をおいて、商会長はソファーの背もたれによりかかる。


「ドロレス様、冗談は良くないですよ?そんな冗談言うために商会にいきなりやってきたんですか?」


「そ、そうだよドロレス様!俺が王子なわけないだろ!金髪でもないんだぞ?」



「証拠を見せます」


「?」


 商会長は首をかしげるが、私は続けて説明する。



「一つ、魔石を持ってきました」



 今日王宮から帰るときに、証拠として魔石を使えないかと相談した。

 理由が理由なので国王からはもちろん許可が下り、ここの籠の中に石留のない魔石が1つ入っている。



「これを触ってもらいます」


「待て!それで怪我した人を何人も見ている!そんなもの触らせるわけにはいかない!」


「商会長、おそらく大丈夫なはずだ。今は見ていてほしい」



 私はその箱を開けた。透き通って輝く魔石が小さな箱の中で存在感を示す。


「俺、触ってみます」


「ウォルター!」


 止めようとする商会長を(なだ)め、ウォルターはゆっくりと魔石へと手を伸ばした。彼と目が合う。大丈夫だ、というように頷いてくれた。


 そっと触れる。そしてその魔石をつまんだ。


「な!なぜだ?!なぜ触れれる?!」


「何も痛みは感じません」


 驚いて口をパクパクさせながら商会長はソファーにのけぞった。

 ウォルターも初めて触ったような演技はしているものの、これがまさか自分が王子だということを証明するとは思っていなかったため動揺が隠せない。


 詳細は王宮で話すこと、誰にも知られないことなどを説明し、私達は部屋を出ようとする。するとウォルターに引き止められた。お父様たちの許可をもらい、二人で部屋に残る。


「本当に俺は王子なのか?未だに信じられない。魔石を触れるのだって、なにか別の力なんじゃねーの?」


「いいえ。あなた、金色のオーラが出るじゃない。あれが何よりの証拠なの。国王とあなたしか出ないものなのよ」


「信じられねぇ……。おれ、王子になるなんて嫌だぞ?!どうすりゃいいんだ?」


 未だに動揺を隠しきれない彼は、なんとかならないかと私に訴えかけてくる。だけど王族の問題を私一人でなにかできるわけがない。


「ごめんなさい。私の力ではなんにもできない。だけど国が大々的にウォルトを探し始めてしまえば、あなたの命の危険だってあるの。だからそうなる前に、先に知らせるのよ。もしかしたら何か言われるかもしれないけど、ウォルトはウォルトのしたいことをちゃんと言うのよ」


「だけど国王から言われなら反論できないだろ……」


「国王からだからといって怯んでは駄目。あなた、小さい頃に約束したわよね?孤児院を守りたいんでしょ?それが出来なくなるようなことをしろと言われたら言い返してやればいいのよ、『俺は第一王子だぞ!俺の話が聞けないのか!』って」


「アホか!!ったく……。とりあえず色んなパターンの返答を考えておく。……なぁ、そういえば前に聞いたこと。王妃になりたくないっていうのは変わってないのか?考え直したりはしないのか?」


「何よ急に。……気持ちは変わってないわよ」


「そうか……それならいいや」



 考え事をするようなポーズで黙ったあと、「了解」と言いながら彼は部屋を出た。なんだ?何を聞きたかったんだ??



 商会を出ようとすると、明るい声で呼び止められる。


「あれ?ドリーじゃん!来てたの?」


 振り返ると笑顔の彼がいた。その笑顔によりかかりたい気持ちをぐっと抑えて返事をする。


「そうなの。お父様の付き添いで」


「お茶でも飲んできなよ!あ、ウォルトもちゃんと呼ぶからさ。待ってて、今部屋用意する!」


 早速商会員を呼び止めようとする彼を私は止めた。


「ごめんね、今日はもう遅いからまた今度にしましょう?」


「あ、……そっかもうこんな時間か。最近あまり一緒にいられなくて寂しいけど、今度時間があるときは放課後誘ってね!」


「うん、もちろんよ」


 そう言って短い会話の後、商会を出た。


 本当は私も寂しい。生徒会が始まってから放課後、特に私とアレクサンダーは忙しくてほぼ毎日生徒会室にいる。そして王妃教育もあってなかなかみんなと遊んだりお茶をする時間がない。


 今日あったことを話したい。勇気を出して婚約解消を伝えたんだ、って語りたい。

 喜んでくれたりするのかな?

 もしかして怒られるかもしれない。……怒られたらちょっとショックだな。

 進展なんて望めない。一緒に話をしてるだけで充分幸せなんだ。私は拳をギュッと握りしめ、ゆっくりと会える時間を作れたらいいなと思いながら帰宅した。








 休み明けの学園は、ユリエが来ていた。寮に閉じこもっていたらしい彼女。おそらく、力の発動がなかったことにショックを受けているのだろう。……私も少しだけ申し訳ないと思いつつ、心配していたのだが……それは杞憂に終わる。



「ウォルター、あなた今日私と王宮に行くわよ!あなたには会ってもらわなきゃいけない人がいるの!」


「だから、会う人なんていない!」




 朝から揉めている。


 もしかしたらだけど……力の発動がなかったことで、それ以外のゲームシナリオを進めたいのか、ウォルターが王子だということを報告しに行きたいようだ。



 私は攻略サイトに書いてあったコメントを思い出す。


【なんとなく感じた違和感】

【あれがより詳しく】


 この言葉の意味が、やっとわかった。


 アレクサンダーの毒事件は四人の段階でも必ず起こる。だけどなぜ毒を飲まされたのか、誰が飲ませたのかの詳細がなかった。だから違和感があったのだ。あくまで、【治癒の力】を発動するきっかけにしか過ぎなかった。


 毒を飲む必要性。それは5人目のウォルターの存在が発覚する理由。


 あれだけ彼と行く場所を指定してるユリエを見ていれば、それがウォルタールートのイベントなんだと理解できた。ログス山もイベントの1つなのかも。



 にしてもめんどくさそうな状況。

 ウォルターごめんよ、そちらはなんとか自分で対処してくれ。

 そう思いながらちらっとだけ彼の方を向く。


 バチッ。 


 目が合ったーーー!!!何というタイミング!!



「ドロレス様!探してたんだよ!」



 そして呼ばないでくれぇぇーー!!あの子と関わるとろくな事ないんだから!!


 ウォルターが駆け寄ってくる。

 それにユリエもついてくる。最悪……。



「や、やぁドロレス様。あー、えーと……そ、そうだピアノの練習に付き合ってほしいんだよ!今日生徒会ないだろ?ほら、音楽室行こうぜ!」


 彼女から逃げたいが如く、無理やり予定をねじ込むウォルター。私の後ろへ隠れる。しかしなぜ今日生徒会がないのを知ってた?!……あ、ユリエか。




「ドロレス様。邪魔しないでください。私は彼との予定があるんです」


「だから行かないって言ってるだろ。何度行ったらわかるんだ」


「ユリエ様、彼はそう言ってるのですよ。無理やり連れて行くのはよろしくないですわ」


 彼女は歯を食いしばるような顔をした。だけどその時、一瞬何かを思い出したような表情で突然叫んだ。



「キャア!!何するんですか!?」

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