125.新キャラ
「ドリーがそのヒロインに……王子のことで嫉妬するの?」
疑わしいような目で私のことを見るフレデリックに頷く。
「【ゲームのドロレス】はそうです。アレクサンダーのことが大好きですから。でも私は別の人の記憶が鮮明に入っていますのでそんなアホなことはしません。むしろ関わりたくないですね。だって、ヒロインがアレクサンダールートに入れば私、ハッピーでもバッドでも処刑ですから」
「なに?!」
「そんなっ……!!」
全員が驚いた顔をする。ここ最近貴族の処刑は行われていないため、その結末に信じられないといった様子だ。
「そんなの絶対許さない!」
「まあまあ、落ち着いてくださいお兄様。それはあくまで悪いことをしたら、の話です。私がそんなことをするわけないじゃないですか。ルトバーン商会で儲けているのにわざわざ国庫に手を出すなんてそんな面倒な」
「否定の方向が違うだろ……」
「えへ」
お兄様とふざけたやり取りをしていたが、ジェイコブはずっと考え込む。
「これって、誰かを指定して進んでいくんですよね?」
「そうです。選択して、その人の好感度を上げていくのですよ」
「そうですね。イベントがあってそれをクリアすることで好感度が上がるんですけど、……私が関わってしまったものがいくつかあります」
先ほどそのイベントに関しての説明はしたが、ジェイコブとフレデリックにはむしろ感謝された。
「ですが、現時点で誰か一人に絞った雰囲気がないですよ。四人均等に接してますよ、あの人」
そこなんだよ。ジェイコブにあの人呼ばわりされるユリエの考えてることがわからないのだ。いわゆる逆ハールートはないし、なぜ一人に絞らないのか。
「もしかしたら、全員に好かれたくて規格外の行動に出ているのかもしれません」
「じゃあ三人、ということにしてください。僕のイベント終わったんですよね?なら問題ないです!」
ニコニコとしながらジェイコブは話しているけど、あなたも今後どうなるかはわからないんだからね?
「あとは例の毒事件で、彼女の力の有無がわかりますから。それまではなんとも言えません。……かなり複雑な話でしたけど、なかなか頭では理解できないですよね?」
「すでに【治癒の力】を見ているしな、理解できるできないではなく、そうなんだと思うしかない」
「僕もです」
「俺も」
普通なら納得するのだって難しいと思うわ。私がそっち側の立場なら確実に理解できないもん。
「あの。この力に関して、1つ提案があります」
「ジェイコブ様、なにか思いついたのですか?」
顎に手を当てて悩んでいた彼が、思いついたように告げる。
「ドロレス様が力を授かったのは、ユリエ様を召喚された日ってことにしませんか?」
「それはなぜ?」
お兄様が問いかける。
「今後のことを考えれば、それが最善策だと思います。今度どんなことが待ち構えているかわからない状況で、一番言い訳のしやすいタイミングはそこだけです。ユリエ様が召喚されると同時に力を分け与えた、というのが自然でしょう」
「なるほどね」
「ですが……、私は以前にも神託を受けているので、それは難しいかと」
「詳細は大司教様に言いました?」
「いえ」
「この間も寝ているときに神託らしきものが来たんですよね?その時は大司教様にも来たんですか?」
「それは言ってなかったです」
この間の孤児院に行ったときに大司教様に神託が来たかを確認したけど、否定された。ということは私にしか来ていないのだ。
ジェイコブは目を伏せて少し黙ったあと、ひらめいたように顔を上げた。
「それでしたら、1回目の神託は『7年後に』とだけ言われたことにしませんか?その一言だけです」
「だけどそれじゃ、いざ何かを問い詰められたときになんと言えば?」
再びお兄様が疑問を口にする。
「よく考えてください?ただの令嬢が神託を受けたのは前代未聞の事実だとしても、たったその一言を言われただけで何を意味するのかわかりません。そしてその7年後に、ドロレス様だけに神託が来ました。しかも夢の中に。それをいちいち王族に報告する意味あります?夢の中の話を重要事項として話したとして、誰が信じるんです?」
「それもそうだな……」
私と同じくお兄様も納得している。
「そして今回の夢の中の神託で『あなたに力を授けました』って言われたことにすればいいんですよ。その衝撃で倒れたのなら心労の理由にもなりますしね。もしドロレス様に小さな頃から力があるのなら、そもそも手間をかけて召喚の儀をやる必要がないのです。なのに黙っていたことを責められたらドロレス様に非難がいきます。このタイミングになぜか巻き込まれて授かったことにするんです」
それならなんとかやり過ごせそうかも。心労の原因はほぼその事だし、間違っていないもんな。私が欲しくて授かったわけじゃないし。
お兄様とフレデリックも納得し、話をまとめ始めた。
「ーーーというわけで、フレデリックくんは公的には知らないことにしてくださいね」
「わかりました、必ず守ります」
決意の目でフレデリックはジェイコブに返事をした。
そして解散する。
ほんの少しだけ肩の荷が下りる。ウォルターの件はまだ言ってないけど、それでも充分すぎるくらいに心が軽くなった。
ジェイコブはユリエの行動を注視すると言っていたし、私が普通にしてれば問題ないでしょ。
夏休みが終わり、学園が再開する。
ユリエの編入は9月末のテスト後ということで急ピッチで彼女の教育が行われているらしい。
そして私も王妃教育が再び始まった。私、次期王妃だったんだ……。急激にテンションが下がる。
レベッカも夏休み明けから王族の妃教育のため度々訪れているらしい。
王妃教育が終わる頃にはいつものようにアレクサンダーがいる。今日は他の人がユリエ担当なのか。
再びアレクサンダーとのお茶会も再開されるし、面倒な時間が増えるのかーなんて思っていたら、今日はいつもと違っていた。
「あっちからは逃げたのにこっちで捕まってしまった……」
疲れ果てた様子のアレクサンダーの後ろには、それはそれはお人形さんのような美しくて可愛い女の子が二人いた。もしかして。
「ドロレス様ですか!お会いしたかったです!第一王女カトリーナと申します」
「私もです!第二王女、リューディナです」
二人とも今年9歳の年で、以前聞いた話と見た目からしてカトリーナがアレクサンダー、リューディナがクリストファーの妹だろう。私も慌ててカーテシーを行う。
「とても愛らしい王女様ですね!お二人が可愛すぎて笑顔になってしまいますわ」
「まぁ!そんなことないですわっ!」
「でもとても嬉しいわ!ありがとうございます!」
「ドロレス。妹たちは最近騒がしくて大変だぞ。あまり褒めるな。ついこの間も廊下を走っ……!いてっ!」
あれ?今カトリーナ、確実にアレクサンダーの足踏んだよね?ドレスの裾で見えなかったけど100%踏んだよね????
「私、ずーーーーーっとドロレス様にお会いしたかったんですの。お兄様がドロレス様の話をするとき、とぉーっても楽しそうなんですよ」
「カトリーナ、余計なことを言うなっ!」
慌てる彼の横でリューディナも口を開く。
「ええ!そしてトランプ、とても好きになりましたわ!遊びの時間があると、勉強がとっても捗りますのよ!カトリーナといつも勝負していますの!」
可愛らしい笑顔でそう言ったあと、スッと二人は悲しそうな顔に変える。
「私たち、来年社交界デビューをいたしますの。お兄様方は8歳から誕生祭をされるので他の方々との交流があるのですが、私たちにはそれがないのです。とても悲しいのですわ」
「社交界パーティーに出て、付き合いある家の令息令嬢とお茶会を開いて、親に決められた男性と婚姻を結ばなければならないのです。……でもせめて、私は……私たちは、家など気にせず、楽しくお話ができるお友達がほしいのです」
「……」
自分で言うのもどうかと思うけど、私の直感は鋭い。嫌な予感がする。
「「ドロレス様!私達のお友達になってください!」」
やっぱりそうきた!!途中から予感はしていたよ!そんな予感が!ひしひしと伝わってきていたよ!
「あ、でも、お兄様と結婚したらお姉様ですね!」
ズン!と重石を乗せられた。
なぜ次々と外堀が埋まるんだ、私。もう外堀がどこだかわからないんだよ。それくらい埋められているのよ。
っていうかこんな目で見られたら断れるわけないじゃん!そもそも王女たちのお願いを断れないじゃんか!!このゲームさ、子供が大好きな私に合わせてコントロールしてませんか???ねぇそうでしょ???
ま、まぁ友達になるくらいはいいわよね……?たまにお茶する程度だもんね……??
「……こちらこそ、私なんかでよければなりーー」
「ありがとうございますドロレス様!では私のことはカトリーナと!」
「私はリューディナとお呼びください!ではお友達になった記念に今からロールケーキのお店に一緒に行きましょう!」
「え?!」
もしかしてそれが狙いだったのでは……。
「カトリーナ、リューディナ。ワガママを言うのはやめなさい」
アレクサンダー、そうだその調子でなんとか有耶無耶にして!
「ドロレスは今から僕とのティータイムなんだ」
そっちかい!
私は軽く深呼吸する。
「カトリーナ様、リューディナ様。今の時間から行ってももうロールケーキの時間は間に合いませんわ」
ハッとした顔で二人が目を見開く。
「そ、そうなのですか……それは知りませんでした」
「食べたかったです……お母様もお父様もお兄様たちもみんな食べたことがあると聞いて、私たちだけまだなんて……でもしょうがないですわ」
んんんーー!この状況は私の性格上、耐えられない。王女の存在なんてゲームに出てこなかったのに、実際のあまりに可愛らしい二人に私はすでに虜になっていた。なぜ……私は子供に弱いのか。
「ではお休みの日に行きましょう?ですがそこは平民の店なので、ドレスは行けないのです。それでもいいですか?陛下や王妃様、側妃様にも許可は取れますか?」
「もちろんです!」
「もうすでに許可も服も用意済みです!」
用意周到だな。ダメだ、どうやっても行くしかない。
「……では予定を合わせて行きましょう」
「「はい!」」
可愛い満面の笑みで私を見る二人は天使のようだった。ああ可愛い。母親は違うのに誕生日が近いからか、双子のように、親友のように仲良く手を取り合って喜んでいる。
「その日は僕もなんとか調整していくよ」
「は?お兄様は来ないでください」
「来ないでください。クリストファーお兄様も来させませんわ」
一瞬で真顔になる二人。
「何を言っている。ドロレスは僕の婚約者だぞ?それにお前たち、そもそもデビューしてないんだぞ?」
「デビュー前にご令嬢の誕生日に行った王子様もいらっしゃるのに?」
「……」
アレクサンダーが無言になる。……妹が勝った。
「私たちはドロレス様の友達ですから。あ、ドロレス様!レベッカ様もお呼びください!他のご令嬢で仲の良い方がいらっしゃったらぜひ誘ってくださいませ!」
「は、はい……」
「それでは、すぐに予定を確認して手紙を贈りますわ」
「すっごい楽しみにしてます!」
綺麗なお辞儀をして二人はあっという間に去っていく。姿が見えなくなったあと、フッと緊張が解けた。
だいぶ強烈な……いや、天真爛漫な王女様たちだったな。全部手のひらで転がされている感じがした。
横でアレクサンダーが大きな息を吐く。
「いつもあんな感じなんだよ。上手くやり過ごすから僕たちも何も出来ないし、父上たちも甘い。貰い手がいてくれることを願うしかないな……社交界パーティーが心配なんたよ……」
私も大きくため息をつく。
ゲームに出てこない強烈なキャラはこれ以上増やさないでほしい。




