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間違って転生したら悪役令嬢?困るんですけど!  作者: 山春ゆう
第三章 〜ゲームスタート〜
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122.なんとかなるのはゲームだけ

 


「お待たせいたしました」


 部屋に入れば、それは私の知っているゲームと同じ風景があった。


 黒目黒髪の少女、それを囲むように四人の攻略対象がいる。少女の両隣にはアレクサンダーとクリストファーが立ち、さらにその外側にオリバーとジェイコブが三人を挟むように立っていた。

 すっごい。ゲームだ。めっちゃゲーム!!


 そんなことを思いながら、私とレベッカはカーテシーをする。部屋の中の執事に促され、ソファーの方へ進んだ。それと同時に王子二人がこちらに来ようとするも、少女の一言で場の空気が一変した。




「え?私がいるのにアレク様もクリス様もそっちに行くの?」




 レベッカの眉毛が一瞬ピクッと動く。だけど表情には出さなかった。


 あの少女はいつの間に、王子を愛称呼びするようにしたのだろうか?いや、誰が許可をしたのだろうか?王子二人も、無言ながら何かを察しているような顔だ。



「王子殿下のことを愛称呼びするのは禁止と何度も教えましたよね?おやめください」


「でもいずれ許可は出ますよ?」


 当たり前に許可が下りるような顔をして、少女は首を傾げる。


「出ません。ユリエ様、今後そのように呼ぶようでしたら王子殿下とお会いになることはできません。あなたの希望する学園にも許可が下りません。わかりましたか?」


「……はい……」


 あの子はユリエって名前なのか。っていうかおそらくあの斜め後ろにいる女性はユリエの教師だろうな。しかもめっちゃ苛立ってる。言葉は丁寧だけど、その節々に怒りが見える。




 そして。

 この子はゲームを知ってるな。愛称呼びの許可が出るっていうのは、この先のそれぞれのルートに進んである程度好感度が上がったときだ。


 しかも、ちょっと面倒くさいヒロインなりきり系ではないだろうか……。発言からして、テンプレな動きをしそうにない。気をつけて見ていないと。




 全員が席につく。婚約者の隣にそれぞれ王子が座る。



「こちらが私の婚約者、ジュベルラート公爵令嬢、ドロレスだ」


 私は立ち上がり、再度カーテシーをする。同じようにクリストファーもレベッカを紹介した。


「そしてこちらが【治癒の力を持つ女神】として召喚されたユリエ殿だ。彼女は私達と違う世界から来ているため、慣れないこともあると思うから温かく見守ってほしい」


「かしこまりました」


「ユリエです。まだ力は出ていませんがいずれ使えます」


 自信がえげつない。ヒロインはそんなんじゃなかった。

 淡々とした挨拶が終わると、私たちは用件が終わったために部屋を出ようとした。するとアレクサンダーから声をかけられる。



「ドロレス、倒れたと聞いたが見舞いに行けずに悪かった。そしてエスコートの件はすまない。ジェイコブにお願いしてもらう」


 切ない顔をして私にそう話しかけ、軽く頭を下げた。ヒロインがいるんだからそうなるのは当たり前であって、私は何も思わない。


「いえ、大丈夫ですわ」


「それと……ダンスも踊りたいと言われた。僕と踊ることになる」


「え?……そうなんですか。わかりました」


「すまない……」


 彼に謝られるも、私は一緒に踊れないことに驚いたわけじゃない。

 ゲームではこのパーティーで踊るようなことが描かれていた。

 だけど、あれはゲームの話。日本の中学三年生が、貴族の社交ダンスを踊れるの?って意味で驚いたのだ。社交ダンス経験のある中学生の率なんて相当低い。しかも曲だって、日本にない曲だ。大丈夫なのだろうか。下手すれば初っ端から笑いものになってしまうのではないか。


「ユリエ様は……踊れるのですか?まだ来たばかりですし、出ないほうがよろしいのでは」


「彼女は踊れると言っている。それに今、教師にダンスを教わっているからな。彼女は踊らなくても座ってるだけでいいんだが、ユリエ殿の希望ということだ」


「そうですか……それなら大丈夫です……よね」


 私達の会話を聞いたのか、ユリエが話に割って入ってきた。後ろにいた教師が止めていることなど気にもしていない。


「絶対に踊れますよ!なんとかなりますから気にしないでください。あなたは関係ないじゃないですか」


「ユリエ様、そちらの方はアレクサンダー殿下の婚約者で次期王妃のドロレス公爵令嬢です。本来ならアレクサンダー殿下はドロレス様と踊るのですよ。言葉は選んでください」


「……すいません」


 鬼のような顔をした教師に怒られ、ムスッとするユリエ。


 しょうがない。わかるよ、いきなりこんなところに召喚されて、パーティーに出ろって言われ、厳しい教育させられて大変なんでしょ?ゲームのヒロインはゲームだからこそやり遂げたわけで、実際の無知識の人間が覚えるのは相当苦労する。だから別にあなたのことは責めないわ。

 同じ歳の子に様をつけるのだって、日本にいた頃じゃ考えられないもの。



 ただ、気難しい子が来てしまった事実に心の中で頭を抱えた。本来ヒロインはそれにも耐えて、学園に通っても問題ないほどに礼儀は身につけたけど、……ユリエは大丈夫なのだろうか。この時点で王子の愛称呼びとか呼び捨てとかで怒られるとは、問題が山々だわ。



「では私達はこれで」


 名残惜しそうな顔をするアレクサンダーと、レベッカの方をじっと見るクリストファーを残し、オリバーとジェイコブにエスコートされて部屋を出た。ユリエの顔はこちらを見ていなかった。





「【女神】とは程遠いですね」


 まさかのオリバーからそんな言葉が飛び出した。え、意外とユリエに対して厳しい?


「どんなイメージをしていたんですか?」


「ニコル様のようなお方です」 


「ジェイコブ様はどうでした?」


 オリバーのことは無視することにした。


「僕も、もっと柔らかい性格の女性かと思っていましたが、アレク様とクリス様にべったり過ぎて若干引いています」


 ジェイコブもなにか思うところがあるみたいだ。てゆーか王子狙い?そりゃあのイケメン兄弟だからわからない気もないけど、オリバーもジェイコブもめっちゃかっこいいけどな。

 王子と一緒にいたいならもう少しマナーを勉強してほしいとは思う。より努力しなければいけないのはゲームでわかってるはずなんだけど、そういうのって詳しく描かれていないのよね。『私は厳しい教育にも耐えた』とか一文だけで終わらせちゃうパターンだもん。



「ドロレス様……」


 レベッカが心配そうに私の方を見た。きっとクリストファーの気持ちがユリエに行かないか心配なのだろう。


「大丈夫ですよ。だってそれはあなたが一番知ってるじゃないですか」


「はい……」


 私たちはそのまま歓迎パーティーが始まるまで二人で待機することになったが、ジェイコブから呼ばれ、別部屋で話をすることにした。




「率直に、ユリエ様はどこまで知ってると思いますか?」


「私と同じような知識があると思います。それと、実は」


 私は神託が来たことを告げ、ユリエに力があるかどうかわからないことも告げた。


「なるほど。力の発動がまだだから、今の段階ではわからないですよね」


「そうなんです。あともう1つ……あ……」


 言いかけて悩んでしまった。ゲームの話はしていいのだろうか?もしあのユリエがジェイコブルートにしようとするのなら、それは言わないほうがいいよね?


「どうしました?」


「…………」



 いや待てよ?私、ジェイコブルートのイベント潰したんだった。ってことはジェイコブの好感度上げにユリエは関われないのでは?

 ……ジェイコブだけには、話そうかな。私一人で背負うには重すぎる。そのせいで倒れるくらいのストレス抱えていたんだから。

 よし話そう。お兄様もアレクサンダーの側近だし、時間を合わせて集まってもらおう。

 ユリエ、ごめんよ。王子にしか興味なさそうだったから1人お借りしますね。



「少し複雑な話になるので、後日話します」


「わかりました。気負わなくていいですよ?僕、言ったじゃないですか、ドロレス様の味方だって」


「ありがとうございます」


 あのドSからこんな優しい言葉が聞けるなんて。あ、それはゲームのキャラ設定か。






 そして時間は過ぎ、パーティーが開始される。


 王子たちの婚約者である私とレベッカが、別の人にエスコートされて会場に入ったことに少しどよめきが起きた。だけどその後に紹介されたユリエの方にみんなが注目する。


「ついにこの国に【治癒の力を持つ女神】が召喚された!皆、盛大な拍手を」


 国王の掛け声で、歓声拍手が会場を埋め尽くし、落ち着いた頃にユリエがたどたどしいカーテシーながらも堂々と挨拶をする。

 

「はじめまして。私が【女神】です。よろしくお願いします」



 ん………?


 なぜ『私が女神です』って言い方にしたんだろ。誰がそう言うように指示したんだろう……。ゲームはそんな台詞じゃなかったはずだけど。

 合ってるけどさ、合ってるんだよ?でも『私が女神です』って、なんかこう、なんというか……うん。詳しく言うのはやめておこう。





 音楽が流れ始める。壇上ではアレクサンダーがユリエにダンスの申込みをしていた。

 わー、本当にあのゲームの中にいるんだ。さっきからずっと興奮しっぱなしの私とは逆に、アレクサンダーが昔の無表情に戻っている。あれ?ヒロインの前ではああなる設定なのかしら。

 彼から誘ってるってことはこれどっち?アレクサンダールートってこと?


 彼の横を歩くユリエは、それはそれは自信満々の歩みで、ダンスホールの中央へと進んでいく。あの感じだったら、もしかして日本でダンスをやっていたのかもしれない。私もジェイコブから誘われ、近くまで行った。アレクサンダーが私の方を見ていたが、ユリエがずっと話しかけ、顔を元に戻していた。


「見ものですね」


 悪そうな顔をする目の前のジェイコブに私は一応ヒロインを助ける。


「ダンスが日常にないところから来てるかもしれませんから、今日は大目に見ましょうよ」


「優しいですね、ドロレス様。僕は楽しみでしょうがないですよ」


 そんなあなたも攻略対象よ?ユリエにアプローチ仕掛けられるかもしれないんだからね?




 ダンスが始まる。そして会場がまたしてもどよめく。













 ユリエ。

 全っ然踊れていない。





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― 新着の感想 ―
[一言]ヒロイン踊れてないの草さっきまでの自信はどうしたんだよw
2025/05/10 19:03 さくらもち
[一言] もうちょっとまともな召喚物なら主人公に助けてもらえただろうにぃ…… (引っかき回される未来に笑いが出るやら、ドキハラするやら(; ・`д・´) そして踊れてない!!(あ、主人公が頭抱えてる…
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