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114.伝えられぬ想い

 説明を一通り終えると、私は紅茶に手を付ける。

 三人とも黙ったままだ。……誰か口を開いてほしい。気まずい空気が流れる。



 最初に話しだしたのはジェイコブだった。


「ドロレス様。疲れすぎて夢と現実の区別がつかなくなっていますので、早くお休みください」


「え?!」


「と言いたいところですが、先程のを見ましたので、もう信じる以外に選択肢がありません。それにしてもドロレス様が【治癒の力】を持つとは……ありえない……だけどさっき見たのは間違いないし……」


 ジェイコブは考え込んでしまっている。

 それもそうだ。私はただの公爵家の人間。それが、本来召喚してくる人が持つはずの【治癒の力】を持ってしまったんだから。もしここが日本で、親友からいきなり「私、魔法使えるんだ」って言われても信じられるはずがない。



「あの……。私は信じます。ドロレス様に命を助けてもらった以上、私はあなたのことを疑うなどしません」


「俺も。ドリーの話は信じる」


 テレンスとフレデリックはハッキリと告げた。


「いや、僕も信じてないわけじゃないですよ?どうしてそうなったのか不思議でしょうがないんです」



 んー、乙女ゲームの詳細まで話したほうがいいのかな?でもややこしいよね?今話したことだけでみんな頭がいっぱいになってるし。

 ウォルターの金のオーラに関してはとりあえず今は言わないことにした。



「とにかく、誰にも言わないことですね。テレンスもフレデリックくんも。絶対守ってね」


「はい」


「もちろんです」


 ということは、私は囚われることはない、のかな……?少しだけ安心する。


「【召喚の儀】がついに成功か……。本当に人が来るなんて……。ドロレス様に【治癒の力】が付いたので、召喚された人が使えるかはわからないんですよね?」


「ええ。発動するのは……あっ」


 そうだ、毒事件だ。


「どうしました?」


「アレクサンダー殿下が毒を口にして倒れる事件が起きます……。そのときに発動するんですよ」


「な!アレク様が?!」


 目を見開いて立ち上がるジェイコブ。将来の国王に毒を盛るなど、ありえない話だ。


「時期が明確ではなく申し訳ありません。在学中だというのは確かです。ただ、そのときに【治癒の力】が初めて発動するのでアレクサンダー様は助かります」


「それでも、アレク様が大変な目に遭うのは側近として許しがたいです。警戒は強めておきますので。ドロレス様はこのことを他の人に言わないでくださいね。流石に王族に毒を盛るなんて予言、よろしくありませんから」


「そうですね。もちろんです」


 ただ、毒事件が起きなかったらヒロインは力を発動させられるのかがわからない。そこがヒロインの大きな分岐点であり、全ルート共通の出来事なのだから。


「ドロレス様と同じく、未来の予言みたいなのは出来るんですか?」


「それはわかりません。でももしかしたらその可能性もあるかもしれないですね。ただ、私と同じく学園卒業までだと思います」


「もしそのような雰囲気を出してきたら、僕がそれとなく確認しておきますよ。これは僕たちだけの話として、アレク様たちには黙っておきましょう。下手に広まると、ドロレス様が危険ですから」


 


 今回の件については明日話を聞かれるみたいなので、私達は話を合わせ、ジェイコブとテレンスは先に部屋を出た。


「ドリー、もう平気?怖くない?」


 部屋から見送るとき、顔を覗き込むようにフレデリックは心配そうな目で私を見る。


「大丈夫よ。……あのときはありがとう。フレッドのおかげで落ち着いたわ」


「それならよかった。どうしても心配でつい手が出ちゃって……」


 私から顔をそらす彼を、私が今度は目で追いかける。


「いいのよフレッド。抱きしめてくれたから気持ちが落ち着いたの。感謝してる」


「……そっか」


 悲しそうな顔で笑う彼に心が痛んだ。


 フレデリックはまだ……私のことを好きでいてくれているのだろうか。私がアレクサンダーと婚約したから、もう友達としてしか見てくれていないのだろうか。


 私も……あなたのことが好きなのに。


 どうして、こんなにもはがゆいのだろう。


 私はなんで……悪役令嬢のドロレスなんだろう。



 考え込んでいると、髪に温もりを感じる。


「すぐ考え込んじゃうんだから。たまには何も考えないでゆっくり休んでね」


 彼の手で優しく撫でられ、苦しい気持ちがすっと消えていく。泣きそうになるのを堪え、笑顔で見送りをした。






 夕食を食べながら、テレンスへのお礼をお父様と話していると、廊下から誰かが走ってくる音がする。


「し!失礼します!お食事中のご無礼をお許しください。で……殿下が……、アレクサンダー殿下がお越しです」


 ハァハァと息を切らしたメイドが顔を青くしてそう告げた。


 あの男たちは王宮に連行されたわけだけど、アレクサンダーは今忙しいんじゃないの?学園も終わったらすぐ王宮に帰るじゃん。しかもこんな時間に……。あ、私が怪我したのを聞いたのか?


「とにかく迎えよう」


「ええ」


 私達家族は急いで玄関へと向かう。すでに馬車を降りて建物の中に入っていたアレクサンダーはこちらに気づいて頭を下げた。私達も慌てて頭を下げる。


「こんな時間にすまない。……少しだけドロレスと二人で話してもいいだろうか?部屋は用意しなくていい。馬車の中で話すから」


 アレクサンダーは早口でそう伝える。疑問系ではあるが、肯定の返事だけを待っているようだった。


「ドロレス、平気か?」


「大丈夫です」


 お父様から小声で話しかけられ、どっちにしろ断れない状況の中、私は馬車へと向かう。



 馬車の中に入り、アレクサンダーと隣同士二人きりになると腕を掴まれ、そのまま彼の胸へと引き寄せられた。キツく、だけど優しく。彼の手が私の髪を撫でる。



「アレク様?」


 突然アレクサンダーに抱きしめられ、びっくりして声が裏返ってしまった。


「心配した。大きな怪我がなくて本当に良かった……」


 かすれるような声で何度もそうつぶやく彼に、私は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

 たとえ政略結婚だとしても、一応は彼の伴侶となる存在だ。そんな相手が攫われたのだから、多少なりとも心配するだろう。それが次期王妃とならなおさらだ。


「アレク様、もう大丈夫ですから離れてくれませんか?」


「……あっ……すまない」


 この状況が無意識だったと言わんばかりに、慌てて離れたアレクサンダー。反対側を向いてしまった。


「これ、指輪だ」


 顔は反対側のまま、私が男に盗られた婚約指輪を渡してきた。よかった……私の首が飛ばずに済んだ。



「あの……話は聞いてると思いますが、私を攫った男たちはどこかの貴族の雇われ者のはずです」


「ああ。すぐに取調べを始めたが、一向に口を開かないんだよ」


 きっとその雇い主から固く口止めされているんだろう。だけど、私と会話をしているときは結構話すタイプの人間だったと思うんだけどな。



「私、会って話をしたいんですけど」


「そんなこと許可するわけ無いだろ!」


 こちらを向いたアレクサンダーから怒号がとんだ。馬車の外にいる護衛がざわめく。初めて聞く、彼の怒りを込めた声だった。


 本当は私だって、行きたいわけじゃない。もう平気だと思うけど、会えば恐怖が蘇るかもしれない。


「ですが、私といるときは彼らはよく話す人たちでした。私が行けば何か話してくれるかもしれません」


「何を考えているんだ!あの男たちに何をされたかわかっているのか?!」


 感情をあらわにするアレクサンダーに驚きつつも、必死で冷静さを忘れずに私は話す。


「私は何もされていません。この顔の小さな怪我だけです。それに、牢の中ですよね?私が行っても平気ですよね?」


「そりゃ牢の中なんだから何もできるわけないが、だからといってドロレスが行く必要などないだろ。今日襲われそうになったんだ!それに、傷をつけた時点で重罪だ!」


 頑なに私を行かせようとしないアレクサンダーをなんとか説得する。


「必要ありますよ。あの男たち、何て言ったと思います?『人の男を取った貧乏貴族』って言われたんですよ?アレク様には想い人がいるんですよね?その人があの男たちに頼んで私をキズモノにしようとしたんですよきっと。私はその依頼主に直接会って話をしたいんですよ!そのためにも彼らから話を聞きたいんです!」


 そんな小賢しい真似しないで堂々と正面から言ってくれれば、喜んで婚約者を譲ったのに!やり方が卑劣極まりないんだよっ!こんなんじゃどっちにしろアレクサンダーの婚約者にはなれないだろうけど。


「想い人?僕の想い人があいつらを雇ってドロレスを攫った?そんなことあるわけないだろ」


「いいんですよ隠さなくても。だから、彼らから話を聞く時間をください!お願いします」


 前のめりになってアレクサンダーにお願いした。何度もしつこく言い争いをし、ついに彼のほうが折れる。


「わかった……。『僕の想い人』が誰かも気になるしな。ただし僕も立ち会う、その条件が飲めないなら駄目だ」


「ありがとうございます」


「それは私も立ち会うぞ」


 馬車の外からお父様の声が聞こえた。


「ジュベルラート公爵、盗み聞きは良くないぞ」


「盗み聞きではありません。途中いきなり殿下の怒号が聞こえたと思ったら、そこからお二人の声が大きすぎて、ここにいる人ほとんど聞こえています」


「えっ」


「……それは失礼した」



 さっきの言い争いが丸聞こえだったとは……。恥ずかしい。アレクサンダーも口元を抑えて恥ずかしそうに俯いた。こんなに王子と争っているのに、よく誰も扉を開けなかったな……。


 馬車を降りてお父様と予定を確認、さっそく明日に男らのところへ行くことが決まった。


「アレク様。【召喚の儀】のことがあってお忙しいのですから平気ですよ。お父様も一緒についてきてくれることになりましたから」


 さすがにどれだけ忙しいかは最近の彼を見ていれば一目瞭然だったので、遠慮する。


「大丈夫だ。【召喚の儀】は解決するまで遅らせることになった」





 え?

 今なんと???






 【召喚の儀】を遅らせる????





「ち、ちょっと待ってください!【召喚の儀】を遅らせるのはまずいのではないですか?ああいうのって、きっとタイミングが合ってこそ召喚されるのではないですか?」


 遅らせるなんてとんでもない!そんなゲームスタートから私が狂わせるのは責任が重すぎて嫌だ!

 絶対嫌!!


「父上がそう決めた。次期王妃を狙う貴族がいるなど、放ってはおけない。この件が終わるまでは遅らせる。決定事項だ」



 嘘でしょ????

 そ、そりゃあ私、結構やりたい放題やってたから言える立場じゃないことはわかってるし申し訳ないと思ってる。……だけど、だけども!

 流石にそこは変えたくないよ!!!私のせいで【治癒の力を持つ女神】来なかったらどうするの?!





 あれ?でもゲームで日付って出てない……。

 それなら少しはズレても平気?




 いや、それでも駄目でしょ。




 まずいよまずい。

 これで来なかったら内容全部ひっくり返ってしまう!!


 こうなったら、なんとしてでも解決して終わらせなきゃ!!!


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