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110.突然の決定

 相変わらず婚約解消のチャンスもつかめない私は半ば諦めモードになっている。


 諦めてはいない。

 だけど、じゃあどうすりゃいいんだ、って話よ。一度決まった王子との婚約なんて解消する方法なくない??


 王妃教育に関しては、今後自分がこの世界で生きるための勉強だという気持ちで受けている。じゃないと心が疲れてしまうからだ。



 答えが見つからないままランチをしていると、エミーから話しかけられる。


「ドロレス様、リンさんが下位貴族の令嬢に何度か絡まれるんですよ」


「えっ?!そうなの?」


 なんだって?!またあれか?平民のくせに云々的なやつか?



「リンさん、結構言い返すみたいで、絡んできた令嬢のほうが逃げていくそうです」


「あ、そう……。ならいいわ」


 ……心配する必要なかった。リンは生きていくのがギリギリを彷徨っていたから、それ以上の絶望や恐怖なんてなく、令嬢たちなんて怖くないんだろうな。


「それがですね……。その令嬢たちが、ドロレス様がリンさんの悪口を言ってる、って言ってきたそうなんですよ。リンさんは『絶対にない!ドロレス様の名前を使って言葉を捏造したら規則違反で停学だ!訴えてやる』と言うと令嬢たちは逃げていくそうなんですが、数日経てばまた同じような状況に……。絶対ありえませんよね?」


「……」


 それ、去年もあったよね?

 ライエルも、同じようなことを言われた、って……。

 何?なんでまた同じようなことが起こるの?


「それ、どの令嬢だかわかります?私、調べてみますわ」


 エミーに教えてもらった数人の名前を紙に書く。

 一体、なぜ私の名前を使ってそういうことをするのだろう。私に恨みがある人なの?去年も今年も……なんなのよ!







 そして気づけば6月になっていた。


 わぁ、……あと一ヶ月ほどで【召喚の儀】だ。信じられない。本当に、人が召喚されるの?そんなことって実際に存在する?

 とは言っても、私が【治癒の力】持ってる時点で信じられないけどね。






 そんな中、いきなりの出来事にみんなが驚く。




「こ、婚約者に決まったの?!」


 いつものメンバーでお茶を飲んでいるときに、思いもよらない展開にむせそうになった。


「ええ。月末には婚約式があるそうです」


「ああ、あれか……私の存在を消されるやつ……」


 ここにきて、急にレベッカとクリストファーの婚約が決まったのだ。

 通知が来てから婚約式までの期間短くない??私のとき、4ヶ月くらいあったけど……。

 【召喚の儀】がもうすぐだから、シナリオ補正とかでそうなるの??


「でも良かったじゃないですか。レベッカ様はクリストファー様と婚姻を結びたかったのでしょう?」


 サロンを貸し切っているので、ニコルは久々に可愛い顔で笑っている。



「……わかりません」


「どうしてですか?」


 あれだけクリストファーと一緒になりたいと願っていた彼女が、悩んでいる。


「ブルーノ様、ですか?彼のことを……」


「いえ、お慕いしているのはクリストファー様のみです」


「なら、なぜ……」


 ブルーノに気持ちがないのなら、何も問題はないはず。それなのに悩む理由は何があるのだろうか?




 レベッカは深呼吸をすると、まだ知らない人たちのためにクリストファーとの今の関係性をここにいるメンバーに細かく話した。



「そんなことが……」


 私も軽くしか聞いていなかったため、その経緯や詳細に驚く。レベッカの気持ちを知ってるが故に、みんなはなんともいえない気持ちになる。




「私は彼をお慕いしておりますし、そう望んでおりました。ですが『婚姻はしない、政略結婚でもその人は愛さない』と断言されているのです。そんな彼の気持ちがわかっているのに、実際そうなってしまうとどう喜べばいいのかわからないんです」



 俯くレベッカに、誰もかけるが言葉見つからない。



「婚姻をしないのなら、それで良かったのです。ですが、まさか私と……しかもこんなに急な話で来るとは思っておりませんでしたので。わかってるんです。そういう覚悟で彼の側にいると決めたのは私ですから。……あまりに突然で頭が理解できていないんです」



 自分が結婚したいと思っている男性がいて。

 その男性から、『あなたを愛することはない』と言われていて。

 だけど、その男性の親から決定事項として結婚しろと言われている。



 こんなに虚しい結婚なんてあるのだろうか。


 政略結婚だとしても、多少は歩み寄ろうとするだろう。

 だけどクリストファーは、そういう気持ちがない。いくら好きな相手だからって、そう断言しているのがわかっているのにその人と結婚なんて喜べない。

 最初から向こうにその気がないんだから。



 自分は好きなのに。

 相手が好意を寄せてくれる日は一生来ない。




 レベッカも相当苦しいのではないだろうか。


 でも、今回クリストファーとの婚約内定の知らせが来た。



「とにかく、婚約式に出ますわ。もともと結婚なんてそんなものだと思っておりましたから」


「レベッカ様、あまり無理をなさらないでくださいね?」


「そうですわよ、話なら聞きますわ!いつでも呼んでくださいませ!」


「皆様……ありがとうございます」


 私達はいつだってレベッカの味方だから。

 そう口にすれば、彼女は膝の上にあった手をギュッと握りしめていた。










 そして無事に婚約式が終わった。これでレベッカは正式に婚約者になった。



 そりゃ当然のことながら、学園の令嬢たちがレベッカに対する目が変わる。いい意味でも、悪い意味でも。






 廊下を歩いていると、ヴィオランテの取り巻きたちと鉢合わせする。タイミング良く現れるところがこれまた乙女ゲームっぽい。


 そういえばアイビーは久しぶりに見た。学園に入ってからあまり見かけなかったけど……あれ?それ以外のメンバー変わってない??私の誕生日会にいたメンバー、一人もいなくなってるじゃん……。ヴィオランテが切り捨てた?



「あら?アレクサンダー様の婚約者のドロレス様、ごきげんよう。今日も高みからの見物ですか?」


「レベッカ様はいいですわね、ドロレス様の(つて)でクリストファー様の婚約者になれて。羨ましいですわ〜。どうやって取り入ったのでしょう?」


 出会い頭に嫌味をぶちかます令嬢たち。


 だけど、私の取り巻きたち……って表現は嫌だな……友人たちは、学園に入ってから大人になりましたのでそういう挑発には乗りません。


「私は皆様に用はありませんので」


 レベッカはそう一言だけ言うと、立ち去ろうとする。


「まぁ!婚約者になった途端に傲慢になるのかしら!」


「ホントですわ!二人揃って嫌な性格ですわね」


「だからドロレス様は平気で平民の子の悪口を言うのかしーーー」


「ルティナ!」


 一人の令嬢の名前をアイビーが呼んだ。


 ルティナ?リンを虐めたメンバーにそんな名前なかったけど……なんで、私がリンの悪口を言ってるというデマをあなたが知ってるの?あれはリンと、虐めていた子たちと、話を聞いたエミーしか知らないはず。表沙汰になってないもの。


 振り返って彼女の方を見ればルティナは少し震えている。その横で、彼女の話を制止したアイビーは何事もなかったかのように私達の方を見ていた。



「皆様。こんなところで騒ぐのは他の方に迷惑になります。行きましょう」


「ヴィオランテ様?ですが……」


「行きますわよ」


 無表情のまま、彼女は取り巻きたちを連れて立ち去っていった。他の令嬢の悔しそうな顔と、睨みつけるアイビーの顔だけが印象に残った。



 ルティナ……。あの子も虐めに関わっているのかしら。

 ジェイコブに相談してみよう。










「ふーん、そんなことがあったんですか」


 サロンでジェイコブに事の経緯を話す。


「しかし、ライエルくんのときと同じですよね?またなんか恨みでも買ってます?」


「私が王子と婚約してる以上、ほぼ全員の令嬢から恨まれているんじゃないかしら」



 こんなに私が巻き込まれるとは思わなかったわよ……。



「ライエルくんを虐めていたトーマスの家は、どうやらディグス侯爵の傘下なんですよ」


「アイビー……の家?」


 なぜそこにアイビーが出てくる??


「ディグス侯爵家は夫人が早くに亡くなっていてアイビー様しか跡継ぎがいません。トーマスの話だと、アイビー様との婿入り婚約を(ほの)めかし、その代わりドロレス様の評判を落とすという条件があったそうです。婚約なんて嘘に決まっているのに、トーマスも馬鹿だからそれを信じていたようですね」


「な……、馬鹿なの?それに、私の評判を落とす意味がわからないんですが」


 あれ?でもレベッカから聞いた話だと、ヴィオランテを王妃にして自分は側妃に、って話してなかった?なのに婚約?


「結局トーマスと婚約するつもりはないのよね?」


「そうです。ディグス侯爵家は第一王子派ですし、アイビー様にも特に親しい男性はいないので、最初は王妃狙いだと思っていました。でも彼女、側妃狙いなんですよね?」


 ジェイコブも情報は手に入れていたらしい。


「そうなのよ。侯爵はトーマスをそそのかして、実際はアレクサンダー殿下との婚姻を結ばせようとしてるってこと?そのために私が邪魔だった?」


「まだ侯爵本人からは聞いていませんが、違う可能性があります。その婚約の話、トーマスが言うには侯爵ではなくアイビーから言われたそうです」


「え?」

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