12.初めての遊びを始めましょう
翌日。
ルトバーン商会長とフレデリック、そして数人の作業員を連れた一行は我が公爵邸にやってきた。
……多くない?
「こんにちは、ドロレス様。ご希望のものをお持ちいたしました。ハンコも昨日フレッドが作ってまいりましたので、ご確認をお願い致します」
箱を開ける。………完璧だわ。さすが大商会。カードは厚みもあるし、後ろから透けて見えないのも最高!
「ルトバーン商会長、最高ですわ!こんなにも非の無いものを用意してくださりありがとうございます!フレッド、あなたのハンコも完璧な大きさよ。あなたはとても手先が器用なのね。素晴らしいわ」
目線をフレデリックに合わせると、普段誉められることに慣れていないからなのか、目線をはずし頬を赤くして照れながら頭をかいている。
「必要経費は払うし、もちろん上乗せも私のお小遣いからお入れいたしますわ。おいくらでした?」
「その件なのですが、公爵様、ちょっとお話がございます。ドロレス様にも聞いていただきたいのですが」
どうしたのだろう。なにか稀少品が紛れ込んでいたのだろうか?そうなると私のおこづかいで足りるのかな。
「今回に関してはお代はいただきません。その代わり、この【トランプ】を販売してみたいのです」
「……へ?」
おっと思わず情けない声が出てしまった。
「これは遊ぶものだとお伺いいたしました。しかも大人も子供も関係ないと。こういうものは世の中に出回っておりません。出来れば、我がルトバーン商会で販売をしたいのです。あっもちろん売り上げの一部を開発者であるドロレス様にお支払いたします」
おお、そんな話になっちゃうのね。私個人としては家族や将来の友達と遊べればそれだけでよかったのに。。
「ですので、今回は10セット分のカード、予備も含めて550枚を用意いたしました。ドロレス様とフレッドはご自身のトランプを作っていただければ結構です。それを我が作業員に覚えてもらって各自で1セットずつ作り、自宅に持って帰って家族や友達と試しに遊んでもらって意見を聞こうと思ったのです」
なるほど、モニターか。
それなら売る前の評価もわかるから、売れるかの賭けに出ずに済む。そしてそれを遊んだ人が良い評価であれば、それを買ってくれるということね。さすがだわ。この会長には頭が上がらない。
「わかりました。遊び方はあとからお伝えしますので、先にトランプを作りましょう。作業される皆様、どうぞこちらへ。フレッド、行くわよ」
「うん、今行く!ドリーこれ持って」
笑顔で駆け寄ってくるフレデリックは、もはや忠犬である。フワフワの頭を撫でまわしたい。
その後ろでルトバーン商会長が顔を真っ青にしている。会長大丈夫よ、私が許してるから。
隣の部屋に移動し、あらかじめ汚れないようにテーブルの上には紙や布が置いてある。
「では、私が見本をお見せいたしますので、この通りにハンコを押してください。そして、こことここに1~13の数字を入れてください。あと、余ったうちの2枚には、数字を書くところにジョーカー……いや……魔物と書いてください」
私が1セット作り終わると、他の作業員も同じようにハンコを押し始める。
私はフレデリックの横で作業の様子を見る。
「それにしてもフレッド、あなた本当に手先が器用なのね。クローバーとかスペードとか、大変だったでしょう?」
「へへ……難しかったけど、完璧に作ればドリーの喜んでる笑顔が見られるかなと思って頑張ったんだ」
フレデリックは屈託の無い笑顔を私に向けてくる。
ずっきゅーん!
あぁまずい、こんなにまっすぐな言葉を聞いたの久しぶりすぎてドキドキしたわ!
落ち着け私!相手はまだ年齢一桁だ!法律云々の問題じゃないぞ!わきまえろ!
「ドリー、これどうやって遊ぶの?」
「遊び方はね、たくさんあるのよ。だから1セット出来たら今日はみんなでトランプ大会するのよ!楽しいわよ!」
「へぇー、たったこれだけの作業で出来るものなのに、遊び方がたくさんあるなんてすごい商品になるな!いや、1つのものでたくさん遊べたら買う回数が減るな……」
なんかフレデリックがぶつぶつ言い始めた。さすが商売人の血を受け継いでいるのね。考えることがメリットとデメリットなんて、どれだけ商売の教育を受けてきたの……。
「こちら終了しました」
「こちらもおわりました」
他の作業員たちもハンコも数字入れが終わったことを確認する。
私が作ったカードが乾いているのを確認して、早速1セットを集め、お父様やルトバーン会長のいる部屋に戻る。
「さてさて皆様。私が今から教えるのはバ…違った、【魔物抜き】です!この【魔物】と書かれたカードは1枚だけ入れて、他のカードと一緒に裏返して混ぜ、皆様に配ります」
お察しの通りババ抜きです。
参加者はお父様、お母様、お兄様、ルトバーン会長、フレデリック、作業員1名での6人だ。作業員は罰ゲーム並に冷や汗をかいている。そりゃそうだ。会長と次期会長、そして公爵家と席を共にしている。落ち着いていられないのだろう。
私は指導役にまわり、カードを配る。
「2人からでも遊べますが、より楽しくなるのは3人から8、9人です。多すぎると、一人あたりのカードの配分が少なくなるので、早い人はすぐに終わってしまい、待ちぼうけになっちゃいます」
「まさに家庭向けだな」
ルトバーン会長がニヤリとする。頭の中商売しかないんだろうな。
「では配られたカードを誰にも見られないように手元で見てください。あっ、どこかに【魔物】がいます。でも絶対に『自分が持ってる』と言わないでください。そのカードが最後に残っている人が負けになるゲームです」
って説明してるところで「ぬぅ…」とルトバーン商会長が呟く。丸分かりである。
「それぞれハート、スペード、ダイヤ、クローバーの模様がありますが、模様は関係なく同じ数字のものが2枚あったら前に出してください。そのカードはもう使いません」
ここにいる人は数字が読めるので教えやすい。私が全員の手の内のカードを見渡し、指導していく。
「では、始めます。隣の人のカードを順番に1枚ずつ抜いていき、同じ数字になったらそのカードを前に出してください。そして【魔物】を持ってる人は相手に取ってもらえるように、【魔物】を持っていない人は自ら取らないように引きましょう。じゃあお父様、お母様のカードを1枚引いてくださいませ」
「誰が【魔物】をもっているんだ?」
「お父様、それじゃ意味がないのですよ……」
元も子もないですよ、お父様。




