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104.少女漫画か?

「っしゃ!」


 誰にも見られていないのを確認し、胸の前で小さくガッツポーズをした。



 クリストファー誕生祭、そして学園の前期テストが終わり、そのテスト結果の順位が掲示板に貼られている。



「ドロレス様、すごいですわ!」


 真顔ニコルがキラキラした目で私を見つめる。真顔でも可愛いじゃん。



 負けず嫌いが発動し、夏休み中も時間があれば勉強していた私は満点1位。やったね!前世でも1位は取ったことなかったから本当は叫びたい。それくらい嬉しい。



「ドロレス、さすがだな」


 後ろの方から同点1位のアレクサンダーが声をかけてくる。


「私、完璧主義なので予習たっぷり行いましたから」


 胸を張って答える。



「にしても王子と同点ってすごいな」

「そりゃ婚約者に選ばれるわけだ」


 他の生徒からもチラホラと声が聞こえる。……これは、逆に目立ってしまったのか?

 ふと視線をずらすと、アレクサンダーの横でオリバーが青い顔をしている。


「オリバー様、どうかされました?」


「まずい……非常にまずい」


「でも16位なら別にそこまで悪くないですよ?」


 深呼吸をするオリバー。


「父からは『騎士団に入るならビリでも構わない』と言われているのですが……義母上(ははうえ)から『騎士団に入ろうがなんだろうが、公爵家の人間なら10位以内に入れ』と言われていまして。入らないと説教だと。あぁ……怒ると怖いんですよ……」


 頭を抱えるオリバーに思わず吹き出してしまった。モレーナが少しずつ彼の母親になっているのを聞いて嬉しくなる。叱ることも親の役割だもんね。

 そして公爵のほうが問題アリだろ。勉強できなかったら当主の方はどうするのよ。


「まぁ、そうなのですか。でもモレーナ様の言い分は正論なので、覚悟を決めて説教を受けてください」


「ドロレス様、義母上になんとか口利きを……私は頑張って勉強していたと言ってくださいませんか……」

「言うわけないじゃないですか。私は、モレーナ様の味方ですから」


 項垂れるオリバーを尻目に、再び順位表を見る。

 ライエル、7位。

 すごいじゃないの!少し離れたところでフレデリックやウォルターとワイワイ騒いでいる。

 フレデリックも3位!すごい!貴族を押しのけて3位!?どんだけ頭いいの?!私もあの三人の輪に入って一緒に喜びたい……。


 上位はほとんどが私の知り合いだ。うふふ、私の友人はみんな優秀なんだわ。とても誇らしいな。








 最近はライエルも加わってランチをすることが増えた。

 毎回ではなく、貴族組と平民組、男子と女子に分かれたりするものの、平和な日々を過ごしている。


 ライエルは、フレデリックたちといるとき以外は常にジェイコブと一緒にいた。きっと虐めていた子息たちから守るためだろう。最近はジェイコブも寮に泊まっている。

 フレデリックたちにプレゼントしたカバンをライエルにもあげたみたいで、それはそれは丁寧に扱っていた。虐めも最近なくなったと聞いている。





 社交界パーティーも特に問題なく終わった。

 ……問題というか、私の誕生日会での王妃側妃事件はすでに貴族の耳に入っていて、その話題は触れず、それよりもいかにアレクサンダーの機嫌を損ねないかにシフトチェンジしていった。

 例の令嬢たちは社交界パーティーにも参加せず、その親たちは必死に媚を売っていた。クリストファー誕生祭は参加できなかったし、アレクサンダーの誕生祭も来るなと言われている。来年は許しをもらえるように頑張っていた。

 自由参加ではあるものの、王子の誕生祭に参加拒否されている貴族は周りから見放されてしまう。


 大変だなぁ。










 秋も深くなり、そろそろ寒さが強くなる11月。

 学園で珍しい光景を目にする。




 レベッカと、……先輩かな?

 クリストファー以外の男性と仲良さげに話しているのは初めて見た。




「あ、ドロレス様」

「レベッカ様、そちらの方は?」


 彼女の横に立つスラッと高身長の彼は、顔立ちから性格の良さを醸し出している。


「あなたがベッキーと仲良くしてくださってるドロレス様ですか。初めまして、リオライエ辺境伯次男ブルーノと申します」

「……初めまして。ジュベルラート公爵家、ドロレスと申します」


 彼女の誕生日会でも見かけなかったブルーノという辺境伯家子息は、レベッカを愛称で呼んでいる。

 でも彼女の誕生日会でも見たことなかったけど……。



「歳は1つ上でして、8歳のときから先月まで仕事の都合で隣国へ留学しておりましたの。昔から家同士で仲良く、幼馴染のようなものです」

「ベッキーはあまり笑わないけど、すぐ顔に出るからとても可愛らしいんです。嬉しくても怒ってもすぐにわかるよ」

「ち、ちょっとやめてくださいまし!」



 ハハハと柔らかく笑うブルーノに、照れながら怒るレベッカ。あれ?これは幼馴染というより恋人ではないのだろうか?レベッカにこんな人いたの?


「僕が学園に戻ってきたら婚約をしよう、っていう約束をしていましてね」

「……それは小さな頃の戯言(ざれごと)です。約束ではありません」


 え?え?待って。話がどんどん進みすぎてわからないんですけど!なに?将来を誓い合った的な人がいたの?!


「でも君に婚約者はいないじゃないか。まぁ、ゆっくり考えてほしいな」

「それは何度もお断りしているではないですか……」

「でも僕は本気だから。ではドロレス様、失礼します」


 彼は軽く頭を下げて立ち去る。姿が見えなくなって、私はレベッカをサロンに誘った。








「レベッカ様、あのお方は………どういう関係なのですか?!」



 まずい。冷静を装っていたのにめっちゃ興奮がおさまらない。




 だって!!

 幼馴染と王子の三角関係とか!!

 興奮するしかないでしょ!!

 少女漫画!!



「幼い頃、近くにいた歳の近い男の子に『将来お嫁さんになる』的なアレですわよ。彼はあくまで友人であり、恋慕ではありません。ただ、私もいずれ婚姻せねばなりませんので、もしかしたら最終的にはそこに嫁ぐかもしれませんが……」


「でもあのブルーノ様はレベッカ様に惚れているではありませんか!」


 あの態度、確実にレベッカを一途に想ってたわよ!

 聞けば、手紙のやり取りもプレゼントも贈り合いしてたとか………付き合ってないの?!恋人じゃないなら何なのよ!


「それはあくまで家同士が仲良いので贈り合ってただけですわ」

「でも向こうは違うかもしれないわよ」

「ブルーノ様の気持ちはわかりませんが………。私が想いを寄せているのはクリストファー殿下だけです」


 そうはっきりと断言する彼女。

 ブルーノ、なんかごめんなさい……。でもゲームではクリストファーの婚約者はおそらくレベッカなわけなので……私のせいじゃない。私のせいじゃないもん!



「それって、ブルーノ様には伝えてるのですか?」

「いいえ。政略結婚になりそうな家の方に、私の気持ちを明確に示しては失礼になりますから」

「そうですか……」


 クリストファーとの婚姻が絶望的の中、他の男性に揺るがない想いがあることを知った上で婚約の申し出をする男性は少ないだろう。だからこれからもレベッカはきっと自分の気持ちを私たち以外には言わないつもりってことだよね。


 クリストファーとくっついてほしい願望はあったけど、レベッカが幸せになれる道を選んでくれればいいな……。












 12月に入り、アレクサンダーの誕生祭。私は去年と同じく壇上にいる。笑顔の仮面を被り、ひたすら貴族がアレクサンダーに挨拶するのを立ったまま見ていた。


 私気づいたの。足元なんてほとんど見えないじゃん!

 というわけで、去年と同じように送られてきたドレス一式の中から、靴だけはいつも履いてる使いやすいものに変えました。どうせ誰もわからないだろうしね。



 順番に挨拶が終わる中、ブルーノがレベッカに駆け寄る姿が見えた。わぁ、ブルーノは本気でレベッカを狙っているな……。

 すると、私の後ろから、服が擦れたような音が聞こえた。後ろに座ってるのは確か……クリストファー?彼もレベッカの方を見ているのだろうか。でもレベッカのことをなんとも思ってないんだから、ただ動いただけかな。


 その後も前回と同じように挨拶を回ったり、アレクサンダーとダンスを踊ったりしたけど、特に面倒な事は起きずに無事に終わった。

 平和なのはありがたい。でも私はどんどん外堀を埋められていて苦しいけど。




 帰りの馬車。


「僕のあげた靴は気に入らなかったか?」



 え?!なんでわかるのよ!!見えないように歩いたじゃん!


「……なぜですか?」

「高さが違うだろ」



 そういうところに気がつくんだ、この人。


「好みではなかったのか?」


 純粋な疑問として聞いてくるアレクサンダーに、遠回しで言っても余計めんどくさそうになるので、私は直球で返す。



「あんなピンヒールで何時間も立ち続けるのは無理です。アレク様は履かないからわからないでしょうけど」

「そうか。……………すまない」



 拍子抜けするほど素直に謝る彼に、キツく言ってしまった私は申し訳なくなってしまう。

 べ、別にいいのよ。嫌われて婚約解消できれば万々歳なんだから。

 だけど、明らかにシュンとしてしまった彼を見ると心が痛む。ドロレスは彼と同じ歳だけど、中身の私からしてみればまだ彼は子供。そんな子にツラく当たるのは職業柄苦しい。しかも好意でプレゼントしてくれたものなので、余計にややこしい。あーもう!


「アレク様。今後誰かにプレゼントを渡す場合は、何に使うのか、どういう状況なのか、その人の好みなのかをちゃんと調べてから渡したほうがいいですよ」


「……昔、クリスにも言われた」


 あら、そうなんだ。たしかにクリストファーはそういうの上手そうだもんなぁ。


「ドロレスの欲しいものは何だ?」




 婚約解消の権利です!って言いかけてやめた。こんなところで言ったってどうにかなるわけでもないし。




「新しい調味料です」

「ふっ」

「何がおかしいんですか?」

「ドロレスらしいなと思って」


 なによ。私は日本で食べていた料理を再現したいのよ!日本の制作会社なんだから絶対どこかにあるはずなんだからね!



 公爵邸に馬車が到着する。



「明日から冬休みだな。いつも君との手紙は業務連絡しかしていないから………。つまらないことでもいい、日々の出来事でいいから手紙をくれないか?」


「ええ。気が向いたら」


「ブレないな、ドロレスは」


 口角を上げて、困ったようにほんのり笑うアレクサンダー。彼は公爵家の出迎えてくれた人たちにも礼をし、馬車へ再び乗って王宮へと帰っていった。






 これから約一ヶ月半の冬休みだ。雪が積もればお茶会も開けなくなるし、ひたすら勉強でもやるかぁ。




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