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間違って転生したら悪役令嬢?困るんですけど!  作者: 山春ゆう
第一章 〜出会ってしまえば事件は起こる〜
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11.散歩以外の選択ってこの世界にはないの?

 暑い。

 孤児院から帰ってきて10日は過ぎたかな。ひたすら家庭教師による勉強をしていた。歴史や土地に関することは全くの無知のようなものなので覚えることが大変だった。でも教えられる側はやっぱり楽しい!だって教える側って、事前準備や知識を詰め込むのがめちゃくちゃ大変だもの。今さら学校の先生を尊敬し始めたよ。

 特にピアノはもう完璧。だって子供の頃から幼稚園の先生になるのが夢だったから、結構いろんな曲練習したよ?コンクールでもそこそこの成績取ったよ?内申点上がるんだもん。あっ、さすがに今ベートーベンの月光とか弾き始めたらまずいのはわかっているので、今は与えられた課題を卒なくこなしているだけですよ。ふふふ。


 今はバイオリンを練習中。日本ではバイオリンなんて買う機会も触れる機会もなかった。一度は憧れたバイオリン。普通に家においてあるこの公爵家には感謝しかない。初めてバイオリンに触れることができてとても楽しい。


 あとね、計算の勉強もしてるんだけど。私もしかして天才かもしれない。

【12+4】の問題を解いたら家庭教師の先生が「すばらしい!その歳でこの問題が解けるなんて!さすが財務担当のご令嬢!わたくしはあなたの家庭教師になれてとても光栄です!!」って言ってくれるの。





 すいません言い過ぎました。

 どうやら計算をはじめ文字の読み書きなどは、【必要がある人】しか習わないそうだ。王族やそれ関係はもちろんだけど、それ以外には筆記の必要な仕事や商売関係の人が使う程度。そういう仕事につかない人は特に勉強する機会もないらしい。貴族の子供は学園で細かく習う予定だけどね。




「あぁ。今日も朝からたくさん勉強したなー。疲れた!」


「お嬢様、ティータイムにいたしますか?」


 リリーがワゴンで待ち構えている。


「んー、なんか遊びたい。遊ぶものってある?」


「遊ぶもの……ですか?刺繍とか?」


 それは遊びじゃなくて作業なんですけど。


「……トランプって、ある?」


 いやまさかね、日本の製作会社が作ってるんだからトランプくらいあるよね。数日過ごしてみてわかったけど、息抜きは刺繍と散歩くらいしか選択肢がないのよ。さすがにあるよね?だってキングとかクイーンとかいるのよ?


「とらんぷとはなんですか?」


 ハイ出たー。なぜ無い?!日本なら当たり前のように存在するトランプを何故に取り入れなかった?!

 あ、そんな細部まで作るわけ無いか。


「このくらいのカードに1~13までの番号と4種類のマークで描いてあって、あとジョーカーもあるの。このカードがあれば、いろんな遊びが試せるのよ!」


 自分の小さな指でトランプの形を作る。名称が違うだけで、もしかしたら存在はしているのかもしれない。


「そのようなものは見たことがありません」


 そっかぁ……そうだよねー、あったらとっくにやってる気がする。




 作ったらみんな遊んでくれるかな?


「ねぇリリー、このくらいの大きさの紙を、えーと予備も含めて……55枚作ろうとしたらお父様に頼めばいいかしら?」


「そうですね、数が数なのでもしかしたら商会にお願いした方が揃ったものを用意できるかもしれないです」


 そうか商会か!お父様に頼んでみよう!





 次の日。お父様は今日は邸宅にて書類整理をしていたので、忙しくなさそうな様子を見て部屋に入ってみた。


 コンコン。


「失礼します、お父様。あの……」


 書類の山を紐でまとめたお父様は私に気づくととても華やかな笑顔で迎えてくれた。


「ドロレス!君がノックをして入ってくるなんてはじめてじゃないか!お願いとはなんだい?是非教えてくれ」


 今までノックもせずいきなりお父様の仕事部屋に入っていたのか。ごめんなさいお父様。私がやった訳じゃないけど。


「あの、全く同じ大きさの……えーと、このくらいのカードが55枚欲しいんですの」


「全く同じ大きさなら、商会に頼むか。すぐに用意させるけど、一体何に使うんだい?」


「えーっと、、お父様やお母様、お兄様ともっと遊ぶ時間が欲しいので、私が遊ぶものを作りたいんです」


 日本でもこんな甘えたおねだりしたこと無いわ!でもせっかくなのでやってみた。効果あるかな?


「おぉ!ドロレス!!君は何てかわいいのだ!!私と妻とダニロと遊ぶ時間がほしいと!それならお父様に任せなさい!すぐに商会に連絡を取ろうではないか!!なーに、うちの領の商会はとても大きいんだ!そしてうちがひいきにしてるかな!すぐに呼び寄せるぞ!」


 頑張った効果があったようだ。部下たちの制止を逃れ、速攻でその商会に使者を送っていた。

 使者を送ったのが午前。そして領内、いや国内でも1、2を争う大商会、【ルトバーン商会】の商会長が午後イチでやってきた。



 早すぎでしょ。瞬間移動という魔法の存在を疑うわ……。




「こんなにすぐ来ていただけるとは思いませんでした!さすがルトバーン商会長!」


「なーにを仰いますかジュベルラート公爵様!あなた様からお呼びあれば、例え地の中でも空の上でもすぐに駆けつけますよ!ハッハッハ」


 本気でそう思っているのか、腹の探り合いをしているのかよくわからない。二人とも満面の笑顔で会話をする。うーん、もっと貴族的なことを勉強しよ。



「今回はお嬢様のお願いということで、ご挨拶させていただきます。改めまして、わたくしルトバーン商会の会長をしております。デニス・ルトバーンと申します。以後、お見知りおきを」


「初めまして。ドロレス・ジュベルラートです。本日はお忙しいところお越しいただきありがとうございます」


 お父様とルトバーン会長がビックリしたように目を見開く。

 あれ、なんか言葉間違えたかな?


「ハッハッハ!こんなに美しく礼儀正しいご令嬢だったとは!公爵様、誰にも見せたくなくて箱入りにしておられたのですね!」


「ドロレスが……人を気遣う言葉をかけるなんて……なんて素敵なレディーなんだ……お父様はお前のことを誇りに思うぞ!」


 あーあーまた泣きそうになってるよ。もうそろそろ入れ替わったドロレスに慣れてほしい。いや無理か。今までが強烈すぎたもんね。



「そうそう、うちの跡取りの一人息子を紹介しようと思いまして。連れてきたのですよ。ほれフレッド。挨拶しなさい」


 後ろに立っていた男の子が緊張した顔で1歩前に出る。


「はっ……はじめまして。フレデリックです。今年8歳になります。よろしくお願いします」


「まぁ!私ももうすぐ8歳になるの。同じ歳なのね!うちの領内と聞いているわ。仲良くしましょう」


 勢いよく喋ってしまったせいで一瞬フレデリックが引いていた。でも同じ歳って聞いたからかパッと目を大きく開いたあとはとても笑顔になり「はい!よろこんで!」と体育会系みたいな返事をしてくれた。

 明るめの茶色いウェーブのかかった髪の毛は襟足より少し長くのびて、後ろを紐でくくっている。くっきりとした目は、黒寄りのダークブラウン。パッと見ただけでも性格の良さを表すような笑顔だ。


「フレッドは一人しかいない跡取りなのでな、小さいうちから店番を頼んだり仕事をさせていたりで、歳の近い子供とほとんど遊ぶ機会がなかったのですよ。ドロレス様、定期的に公爵邸に伺っておりますので、お時間があればこの愚息と仲良くしてもらえますか?」


「もちろんですわ!私も歳の近い人と遊べるのは嬉しいです」


 ルトバーン商会は支店もいくつか持つ大きな商会。平民なのに下手すれば男爵や子爵よりお金持ちかもしれない。そんな会長を継がせるには普通の教育では無理なのだろう。フレデリックに申し訳なさを感じつつも商会を維持し続けなければならないため厳しく指導しているのだ。親としても商会長としても大変な立場である。



「さて。今回はドロレス様のご要望とお伺いいたしましたが、どのようなものをお探しでしょう?」


 先程お父様に伝えたことと同じ説明をする。


「そして、出来れば赤いインクが欲しいです。ありますか?」


 黒のインクはうちにもある。筆も余っているので、ハートとダイヤのマークを書くための別の色がほしいのだ。赤がなければ別の色でも構わない。


「カードはちょうどいいものがありますので、明日お持ちいたします。赤のインクもございますよ。今回遊ぶものを作るとお伺いしております。もしよろしければ我が家でも一度試してみたいと思いますので、公爵様の家の分と合わせて2セットお作りしていただくことは可能ですか?」


「大丈夫ですよ。ただ1枚1枚手書きになるので少し時間がかかりますのよ」


「なっ?!申し訳ございません!手書きとは知らず、ドロレス様のお手を煩わせることをお願いしてしまい───」


「あ、大丈夫ですよ。同じものをひたすら書くだけですので」


 さすがにKやQの絵は描けないし、10や9になると書くのも大変なので、カードの対角線上の部分にそれぞれ数字とマークを2個ずつ入れる予定。普通のトランプの、真ん中の絵柄無しだ。


「同じもの……とは、同じ大きさですか?」


 ルトバーン会長が何かを考えている。コピー機みたいなのでもあるのかな?



「ハンコはどうでしょうか?フレッドならすぐ作れると思います」




 判子!!!印鑑!!!

 なんと!こんなところに存在していたのか!

 これなら1個ずつ書く手間も省けるし、真ん中にもマークが細かく描ける!J、Q、Kに関しては頑張って詰め込もう。縦に4、5、4で押せば13になる!

 急に貴族の大仕事を任され一瞬戸惑った素振りを見せたフレデリックも「やる!明日までに絶対持ってくる!」とやる気に満ち溢れた顔をしている。


「素晴らしいですわ!そうしましたら、えーとカードがこのくらいなので……これくらいの大きさで、この形のハンコを2つずつ作ってくださいませ。フレデリック、あ、フレッドと呼んでもよろしいかしら?明日うちで一緒にやりましょうよ!私のことはドリーでいいわ」


「わかった!明日つくって持ってくるよ!よろしくドリー!」


「バカ!貴族様に愛称の呼び捨てなどするなフレッド!そして敬語を使え!申し訳ございませんドロレス様!」


 ルトバーン会長はフレデリックの頭の上に拳を落とし、部屋の中に鈍い音を響かせる。冷や汗かきまくりのルトバーン商会長、痛みに耐えられず泣きそうな顔のフレデリック、そしてそれ以外のメンバーは苦笑い。


 こうして、トランプ製作が始まった。









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