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98.魔石の洞窟

「その……ランチの件だが、週2でも構わない。だから、今日みたいに誘ってほしい」


 目を彷徨わせながら、小さな声で私にそうお願いをするアレクサンダー。



「たまにはお誘いします。他の方たちのお食事はどうやら大変そうですしね」


「そうなんだよ!でも今日はとても楽しかった。だからまた、……今度は2人だけで」


 そういえば2人でランチしたのは一回もなかったわ。婚約者ともあろう私が2人だけでランチをしていないのは、私自身と家の評判にも影響しかねないわね。あぁ、家のことも考えなければいけないなんて。改めて思う、日本って平和!



「ええ、わかりました。今日一回使ったので、今週はあと一回ですね」


「え?なんでだ。2人じゃなかったぞ」


「2人だけで、に関しては私は了承してないですもの」


 食後の紅茶を一口飲む。


「そ、それはズルいだろ。だめだ、今日のはカウントしない」


「では週決めのランチの話自体無しで。私が声をかけたときのみ一緒にランチしましょうね」


「それはおかしい、だめだ!そうなると君は僕のことを誘わないだろ?」


「ええ。私は友人と食事がしたいので。そうなればアレク様は他のご令嬢と過ごす時間が多くなりますわよ。良かったですわねぇ。両手に華ですわ」


 ニッコリと微笑む。アレクサンダーの反論など聞かない。この世界で生きていく道しか残されていない私は、下手したら、このままだと本気で王妃になってしまう可能性だってある。絶対に嫌だけど、それならせめて学園生活くらい自由にさせてほしい。





「なっ……!……うぅ、わかった。なぜ僕は君に弱い……」


「最初から勝負などしていませんわ」



 行儀など忘れたかのようにアレクサンダーがテーブルに肘をついて頭を押さえ項垂れる。それを見て微笑みながらティーカップを持つ私。








 ……周りからどう見られてるんだ、これ。







 週2の同席ランチと同様に、王妃教育の話も落ち着いた。


 学校が休みのときに、試験……というか事前知識があるかどうかの問題用紙を渡された。王宮でそれを半日かけて終わらせる。後半なんて、わかっている問題でも書くのに疲れて何度も間違えそうになった。

 私、学園に入るまでに勉強が楽しくてめちゃくちゃ先までやっていたのよ。だって、四則計算はもう出来るし、ピアノも出来る。だから他の貴族の子供よりも実質的に覚えることが少なかったから、そのぶん他のことに余力を使えた。


 ということは。

 その問題用紙も、出来ちゃうわけで……。



「あら、あなたは知識がもう完璧ですわね!過去の王妃教育を受けた方で1番優秀だわ!私はあなたの担当になれて、とても誇りに思います!王妃にふさわしいわ!」


 って教師に言われ、過去最少の週2王宮通いになりました。

 ……まずい。自ら王妃へと近寄ってしまっていた。でも、問題が解けなかったら通う回数は多くなる。

 とりあえず通う回数が少ないだけマシだ……。


 そんな感じで王宮に通っている。通った日は疲れ果ててしまうので寮に泊まるという生活が始まっていた。





 ある日。以前フレデリックたちを見た中庭から男子生徒たち数人がコソコソと立ち去るのを目撃する。

 なんだろうと覗いてみれば、そこには地面に座って俯くライエルがいた。


 ただならぬ気配を感じ、私はライエルの方へ駆け寄る。




「ライエル、どうしたの?」


「……っ!ドロレス様……。いえ、なんでも……」


 目を合わせてくれないライエルに、彼が強く握りしめているカバンを見る。

 ライエルの母が、入学祝いとして縫ってくれたカバンだ。この貴族の学校では浮くくらい質素なものだが、最初にそれを私達に話してくれたときにはとても嬉しそうにしていた。



「!……それ、破れているじゃない。あの人たちにやられたの?」


「………」


 何も言わない彼は、その破れた部分をとっさに隠した。

 否定しないということは、おそらくあの子息たちがやったんだろう。……許せない。




「私が言ってくるわ。弁償してもらうのよ」


「えっ?!なんで?」


「?なんで、って?」


「いえ……。でも大丈夫です!ご迷惑をかけませんから!」


 学園長に報告したほうがいいのか?でもライエル自身が何も言わなければ話にならない。

 急いで立ち去ろうとするライエルの腕を掴む。彼は一瞬ビクッと跳ね、怖いものを見るような顔で私の方へ振り向いた。

 何?なんでそんな目で見るの?


「……フレッドかウォルトに言いなさい。彼らは裁縫が得意だから、すぐに直してくれるわ」


「あ、ありがとうございます……」


 ライエルは怯えている。これ以上は何も言わないようにしよう。そう思って腕を離すと、彼は大事そうにカバンを抱えて去っていった。




 一体どうしたの?なんとなく避けられているのは気付いていたけど、こんなにも怯えられるくらい私は嫌われた?私、なにかした?


 その後、考えてみても真相は全くわからなかった。







 学園生活に慣れてきた6月。

 アレクサンダーとのお茶会で、興味深い一言が放たれる。


「来週、父上と裏の洞窟に魔石を取りに行く」


 そうか、前回の召喚の儀が7月だったから、毎年この時期に取りに行っているのか。

 にしても裏って……。庭感覚の場所にあるってこと?


「王宮の後ろの方に大きな山があるだろ?あの奥の洞窟にあるんだ。王宮管轄だから他の者は入れない」


 へぇ!だから今まで、入ったことがある人の話を聞いたことがなかったんだ。


「ドロレスも行ってみるか?」


「えっ?!いいんですか?」


「ああ。取りに行くのは別に王族じゃなくても許可が降りれば行けるし、……興味あるだろ」


「あります!」


 うわぁ!魔石の原型が見られるってこと?すごい!ってことは国王の【魔力制御】も見られる。ええ!すごい!ゲームでこんな詳しく説明されてなかったから嬉しい!

 アレクサンダーの婚約者になって初めて嬉しいと思った。

 彼は食事をしながらニコニコとしていた。




「洞窟の中は寒いから、冬の装いで来るように」


「わかりました」


 鍾乳洞とかも寒いもんね。羽織るものを持っていこう。






 そして当日。

 私とアレクサンダーは同じ馬車に乗り、洞窟の近くまで来た。


「国王陛下、参加の許可をいただきありがとうございます」


 あとから到着した国王に挨拶をし、頭を下げた。堅苦しいのは今は無しだと言われ、頭を上げる。


「君なら大歓迎だ。そんな大したことはしないんだが、今後のためによく見ておくように」


「はい」


 その今後が来ないことを心の中で願い、歩いて洞窟の中へと入る。





 …………………………寒っ!!!




 いやいやいや、寒すぎるでしょ!

 羽織るものは持ってきたけど、これ、この国の真冬より寒いわ!

 国王をはじめ他の人たちは全員ルトバーン商会の手袋をしている。そ、そんなに寒いとは思わなかったよ……。


 ガッチリと着込んだアレクサンダーの横で、冬初めくらいの装いな私はブルブルと震える。


 突然、首元の寒さが和らいだ。


「大丈夫か?」


 アレクサンダーが、自分のつけていた分厚いマフラーを私にかけてくれていたのだ。


「あ、これではアレク様が寒くなってしまうので」


「いい。ドロレスの方が心配だ。女性は寒さに弱い人が多いと聞いたからな、使ってくれ」


「ありがとうございます……」


 彼の心遣いに感謝し、そのまま奥へと歩みを進めた。






「これが、魔石……」



 段々と冷たい空気が強くなり、ついにその場所へとたどり着く。そこには巨大な、そして青白く強い光を放つ魔石が浮いていた。直径は2メートルほどある。


 この国で魔法が使えるのは、もう国王と第一子だけだ。それ以外は日本と同じ普通の人間。だからこそ、この不思議な輝きを持つ魔石は異質だと感じさせる。それほどの見た目なのだ。


 光というか、魔石を囲むように分厚いオーラが放たれているような感じで、私達が近づいたらそのオーラに埋もれてしまいそうなほどだ。




 その巨大で岩のような魔石に、国王が近づいていく。


 えっ?大丈夫?あの光に埋もれちゃうよ!本当に大丈夫なの?!

 ソワソワが顔に出てしまったようで、アレクサンダーに心配された。


「大丈夫だ。ここから先は【魔力制御】のある者しか近づけない。……私もいずれ、この柵の先に行きたい」


「アレク様……」


 事実を知っている私は、フォローの言葉をかけられなかった。彼は絶対に出ない。そうエピローグにもちゃんと明言されてるんだから。そんなことを構わず、気休めだけの声をかけても彼のためにはならないだろう。


 気が沈みかけたとき、国王の体がオーラに完全に飲み込まれた。

 本当に大丈夫????


 すると、国王の体がはっきりとわかるほどの金色のオーラが浮き出てくる。

 国王はそのまま魔石に近づき、それに触れるように両手を掲げた。




 ピカッ!ーーーードスッ。



 一瞬、周りが見えなくなるほどに明るくなり、思わず目を瞑った。少しずつゆっくりと再び目を開けると、目の前にはくっきりと形がわかるほどにオーラが消えた魔石が横たわっていた。




 これが、【魔力制御】の力。

『マジカルコントロール!』とか叫ぶのかと思ったけど全然違った。アレクサンダー曰く、頭の中で強く【魔力制御】って考えながら触れば発動するそうだ。

 だけど、それでもこの魔力の神々しさに対してすぐに理解が出来るほどに凄まじい光景だった。

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