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97.習得させられました

「えっと、皆様は隣のクラスですよね?はじめまして。ルトバーン商会のフレデリックと申します。皆様のような可愛らしい方々にお声をかけていただきとても光栄です。そしてご忠告ありがとうございます」


「か!か!可愛らしいだなんて!そ、そんなことないですわっ……」


「僕も身分は充分にわきまえております……ですが学園生活をとても楽しみにしていました。3年間、僕のような者でも身分を超えて楽しく過ごしていきたいと思っております。学園に通わなければあなた方のような素敵なご令嬢にお会いすることもできませんでした。どうか温かく見守ってくださいませんか?」




 ……なんだあれは。

 私の知ってるフレデリックではない。いつの間に女性の(かわ)し方を習得したの?何あの悲しそうな顔からの微笑みは!?何?あれ何?!

 フレデリックに見つめられ、話しかけられた令嬢がポッと顔を真っ赤にしている。


「えっ、えぇ、まぁそうよね、学園は楽しまなくちゃね……。ここには身分の差もないですし」


「ありがとうございます!さすがベリンダ様は違いますね!」


 フレデリックが屈託のない笑顔を彼女に向ければ、その彼女はついに耳まで真っ赤になる。……彼の顔の周りにキラキラが見える。


「!わ、私の名前を!ご存知で!」


「ええもちろん」


 そう返せば、他の令嬢たちも止まらない。


「わた、私の名は?!」


「わたくしの名も??」


 ずっと無言だったウォルターが口を開く。


「コレット様、ティナ様、グレタ様、マーデリン様。ですよね?」


 一人ずつ名前を呼んだ彼は最後に軽く微笑む。


「まぁ!」


「ウォルター様ぁぁ!嬉しいですわ!」


 男子二人からキラキラが出ていると表現するのなら、令嬢たちからはハートがたくさん飛んでいるというのが正しい表現だろう。立場は逆転し、彼女たちが押される側になっている。


「僕たちもまだわからないことだらけですので、皆様に助けてもらうこともあるかもしれませんが、よろしくお願いします」


「隣のクラスですが、仲良くできたら嬉しいです」


「「「「「はい喜んで!」」」」」




 キャアキャアと騒いでいる令嬢たちから完全勝利をおさめた彼ら二人がこちら側にやってくる。まずい!逃げ場がないんですけど!




「あれ、ドリーどうしたの?」


「あ、え、えっと、今日は殿下とのお茶会で……」


「……そう」


 少しだけ伏し目がちになったフレデリック。その横でウォルターがため息をつく。


「どうせ見てたんだろ」


「まあ、そんなところね……」


 どう頑張ってもごまかしきれないので潔く認めた。むしろこの状況で他の言い訳が見つからない。



「それにしてもあなた達……さっきのあれは何?あんな事出来るようになったの?驚いたわ」


「なんかねー、学校に行ったらあなた達は絶対に必要になるから、って家庭教師に言われてさ。試験が終わったあとに向こうから時間を取ってくれって言われて、女性への対応っていう勉強を追加されたよ」


「あの授業が一番理解できなかったな。みっちり教えられた。俺ら平民なんだから別にいらないだろって言ったら怒られた」


「ね!平民に必要ないと思うのにさー」


「あの先生、勉強教えるのは上手かったけどさ。あの授業だけは未だに不思議だな」



 寮に向かいながら2人でフワッとした会話をしているけど……その教師、優秀すぎない???こうなること見越して、この子供二人を完璧な紳士に育て上げたってことでしょ?素晴らしすぎるわ!



「確かに貴族の人たちはみんな可愛かったり綺麗だけど、一番はドリーだよね」


「え?!……なっ?!」


 サラッと口にしたフレデリックに、私の顔が一瞬で熱くなるのを理解した。

 おそらく彼は、私をからかってるわけではない。子供の頃から見ていた、ただ真っ直ぐな言葉を口にしているだけなのだろう。自惚れているわけではないけどそれでもやっぱり恥ずかしくなってしまう。ちらりと顔を見れば、ん?何か間違ったこと言った?みたいな疑問の表情をしていた。

 ああ!そりゃ私だって好きになっちゃうわ!


「フレッド、もっと小声でやれ。誰が見てるかわからないんだから」


 あ、ウォルターいたんだった。


「事実を言っただけなんだけどなー。ま、次はちゃんと周りを見てから言うよ」


 フレデリックは頭の後ろで手を組んで、フン!、という態度をとっている。


「言わないって選択肢はないのかよお前は」


「ないよ、だってホントのことじゃん」



「「はぁ……」」



 こんな調子で私の心臓は3年間も耐えられるのだろうか。そのうち心臓が飛び出てくるのではなかろうか。


 ウォルターはフレデリックの揺るがない態度に。

 私はこの先のフレデリックとの学園生活に。

 内容は違えど不安を感じ、同時にため息をついた。









 アレクサンダーとのお茶会から2週間以上が過ぎた、ある日の昼。

 私は深呼吸して席を立った。


 そして、令嬢たちがまとわりつく彼の前で止まる。


「アレク様。本日は私の友人と一緒にランチをしませんか?」


 ニッコリと微笑みかける。



「!ぼ……私もいいのか?」


 急に目を輝かせる彼は、命が助かったかのように令嬢たちを跳ね除け私の手を掴んだ。



 ……そりゃあね。

 あのお茶会の日以降、私を誘ってくるのは変わらないけど、令嬢たちに引っ張られていく彼の顔が段々と疲れ果ててるわけよ。

 ご飯食べた?寝てる?って聞きたくなるくらい顔色が悪い。最近私は寮で過ごすことが多いから馬車でのエスコートもほとんどないし、あまり話していない。

 でもさすがにあの様子を見たいつものメンバーからも心配の声が上がった。


「たまにはご一緒してさしあげますわ」


 超上から目線のニコルだったけど、彼女からそんな言葉が出るくらいアレクサンダーは顔に出ていたのだろう。ジェイコブも心配だったらしく、みんなの許可をとって誘うことにした。フレデリックとウォルターはライエルと食べるということで別になった。



「アレクサンダー様、私との約束は……」


「今日はわたくしとではないのですか?」


 あまり強く出られない令嬢たちが、彼への言葉を私に向けて話す。私に言われても……。


「そもそも約束などしていない。勝手に君たちが一人で話していただけだろう。私はドロレスから誘われれば彼女が優先だ」



 低い声でそう言い放てば、令嬢たちの悲しみは嫉妬へと変わり、矛先が私へと向く。よくあるパターンですねぇ。



「私のほうが声を先にかけたのに……」


「婚約者だからって生意気ですわ。まだ婚姻されてもいないのに」


「他の方の食事も許さないなんて心の狭い女性ですこと」


 なぜそういう思考になるかわからない。理不尽という言葉の意味を理解する。女の敵は女とはまさにこのことだ。

 ヒソヒソのつもりなのか大声なのか、確実に私に聞こえる声で会話をする令嬢たちを無視し、みんなでレストランへ向かう。




 レストランに到着すると、それぞれがメニューを頼む。立派なメニュー表は高級レストランをイメージさせるほどに豪華だ。


 アレクサンダーがね、それはそれはめっちゃ楽しそうなのよ。歯を見せて笑っている。学園に入ってからあんなに笑ったの、初めて見たかも。いや、入学前だってそんな笑い方をしたのは数回だけだ。そんなに嫌だったのか……反動が凄まじい。



「他のご令嬢とのお食事はどうでした?楽しかったですか?」


 あえて口にしなかった話題をジェイコブがニコニコと話しかける。すると一瞬にしてアレクサンダーの笑顔が消えた。


「……全く食事できなかった。香水やら化粧やらの匂いで食事は不味く感じるし、一方的に話されて僕はほとんど話していない。今日初めてこのレストランの味を知った……」


「ほとんどではなく『一言も』です」


 横からオリバーが正確な情報を伝える。アレクサンダー、大変だったわね……。食事の手が止まり、シュンとしている。たまには誘ってあげよう。


「では、また一緒に食べましょう。他のメニューも美味しいですから」


「ドロレス……ありがとう」


 潤んだ目で見つめられ、目をそらす。さすがに推しキャラのこの顔はやめてほしい。スチルにないこの画を私のスマホに永久保存したいくらいの美顔だ。スマホがもうないのが悔やまれる。

 ……フレデリックに見られなくてよかった……。



「私は、あの料理店にまた行きたいです。は……義母上(ははうえ)……も、ロールケーキが食べたいとずっと言ってます」


 オリバー!い、今なんて言った?!モレーナを、義母上って!!

 嬉しい!彼女ともちゃんと話が出来たんだ!あの家族は男たちが頑固すぎるから、モレーナによってうまく回るはず。また時間があったら公爵邸に行こう。きっと楽しい愚痴が聞けそうだわ。

 オリバーも恥ずかしそうにしているが、元々気遣いもできるくらい優しいのは知っている。いずれモレーナとオリバーが2人で出かける日も来るのかなぁ。うふふ、そんな日が来たら私も嬉しい。



「私も久しぶりに行きたいですわ」


「エミー様は一人だけ入学していないですからきっと寂しがっていると思いますわよ。お誘いしましょう」


「そうね、今度学園終わりにでも行きましょう」


 お茶会メンバーの中で唯一年下で来年入学ののエミー。私が学園に入る少し前からルトバーン商会の折り紙教室をまかせている。

 私のきつい顔よりもエミーの柔らかな笑顔のほうが向いてると思ったし、彼女と以前一緒にやったとき、本当に楽しそうにみんなに教えていた。お願いすると伝えたときも喜んで受けてくれたので安心して任せることができたのだ。



「僕も行きたい。ちゃんと平民の服を用意してるからな、いつでも言ってくれ!」


 アレクサンダーは自分が豪華な服装で行くと何か言われるのはわかっている。だからいつでも用意できてるぞ、と自慢げに胸を張り宣言するアレクサンダー。

 だがしかし、ジェイコブによってその言葉をかき消される。


「今度はみんな制服で行きましょうよ!僕、授業終わりに制服を着てみんなで出かけるの楽しみにしていたんです!」


「まぁ!学園生活でしか味わえないですものね」


「学園帰りならカフェタイムに行けますね」



「ジェイク、お前ほんと……」


「なんですかー?あぁ!アレク様も来ます?今回は制服で行きましょうねー」


 あの……一応この人王子なんですけど。そんな扱いでいいんですか?アレクサンダーとジェイコブが揃うと完全にアレクサンダーがイジられ側になる。この関係性でいいの?ほんとに?ゲームのキャラどこいった?ゲームでは描かれてないところなのか??

 




 食事が終わると、少しだけ話がしたいとアレクサンダーに言われ、2人だけがテーブルに残る。




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[良い点] 未来の王と宰相の漫談はいつ見ても面白いです♫ [一言] ランチ地獄でアレク、可哀想に(´;ω;`) そしてアレク、婚約者守れてないぞ('・ω・')っツン 相思相愛なら守り合ったり対策会議…
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