1.嵐の前の静けさ?(転生前)
アイスが食べたかった。
なぜ急にアイスが食べたくなったのか。まぁ夏だもん。しょうがないよね。
藤川沙織。25歳。幼稚園教諭として3年。
両親が共働きだった私は、弟と妹たちの面倒を小学生の頃からずっと見ていて、気付いたら幼稚園の先生になりたいと思っていた。きっと自分が幼稚園生だった頃から思っていた気がする。小さい頃、初めて買ってもらったピアノでひたすら練習した。
弟や妹がいると、私が贅沢を言えない。ピアノを買ってもらってからは誕生日プレゼントを辞退して、ケーキだけにしてもらった。親には「遠慮しないで」と言われたけど、特に裕福でもないこの生活を見ていたら、ワガママなど言う気も失せた。たまに、学校で使うノートやペンみたいな実用的なものだけ買ってもらった。
共働きの両親に変わって、夕飯も何度か作った。おやつだって作った。中学校は部活が強制だったので、調理部に入り作ったものを持ち帰る。高校はバイトでひたすら働いて、家にお金を入れつつも大学のお金を貯め、奨学金制度で行けるように勉強を頑張った。
おかげで奨学金で大学に行けることになり、実家から片道2時間かけて大学に通った。
ピアノも勉強もひたすら目標のために努力し、ついに幼稚園教諭の資格が取れて、就職出来た。
とてもとても、それはもう嬉しかった。大学の卒業式には、自分がずっと頑張ってきたことが報われたんだと思った。泣いた。とにかく泣いた。これで私は夢を叶えた。一人暮らしも始めた。
子供達はかわいい。とんでもなくかわいい。泣いてても喧嘩しててもちゃんとお話しすればみんなわかってくれるし、ごめんなさいも出来る。
ただし母親たちがかわいくない。お迎えに来るのは母親がほとんどだが、なぜ私に他の母親の悪口を吹き込むのか。
そして、母親同士が仲が悪いからと言い、仲良しの子供達まで離れさせられる。
たまに父親が迎えに来れば「あそこの家庭、喧嘩でもしたのかしらーおほほー」なんて言い出す。父親が迎えに来たっていいだろうが。親だっつーの。どこのフィクションドラマだよ…。
そして今日は、子供達の発表会のことで揉めていた。
なぜあの子が主役なのか、なぜうちの子が脇役なのか、なぜうちの子は台詞が少ないのか、お宅の子はおとなしいんだからうちの子に台詞の多い役を代わってちょうだい等々。。
退勤時間を大幅に過ぎ、後日集まって話し合うことになった。
弟二人に妹一人いたので、歳が下の子の面倒を見るのは慣れている。
だが、同い年もしくは年上の女性達の面倒なんて見れないっつーの!みんな大人なんだから落ち着いてくださいよほんともう。
久しぶりにそんな胃が痛くなるような小事件があったので、疲れて帰ってきた。
昨日作りおきしていたごはんを食べ、いつものようにスマートフォンの乙女ゲームを起動する。
「やっと4人全ルートクリアした~。あとは隠しルート攻略か~。てゆーか今までスチルとか4人のルートのどこかに出てたっけ?どの人だ?」
【エターナル・プロミス~選ばれし女神~】
魔物の王を討伐し100年以上が経つ大国、フェルタール王国。
魔物がいなくなったため、人間の魔力も次第に消えてしまい、現在は国王の第一子のみしか発動しない。
最後の魔物の王を倒したときに呪いをかけられ、この国の王は35歳になる直前で死ぬ。
「魔物の王が住んでいた洞窟に、1年に1度だけ魔石が生成される。その魔石を7つ集め【治癒の力を持つ女神】を召喚せよ。その者がすべての呪いを解き放つ」という国の守り神のお告げにより、7年に一度召喚の儀式を行う。
ついに帝国歴645年、異世界から一人の女神がフェルタール王国に召喚される──────
完璧だけど心を閉ざす第一王子
周りを惹き付け、心を探る第二王子
真面目でまっすぐに生きようとする近衛騎士
才能を開花させる頭脳派宰相子息
そして隠された真実───────
あなたはこの世界で、国を救い、何を見つけ、何を信じ、誰と共に生きるのか───────
とこんなかんじですよ。比較的初心者向けよね。だから入りやすかったし見事にのめり込んだし課金した。あはは。
学園モノっていいよねー。私は青春を家族のために使っていたので、こういう学生ならではのドキドキとか全然味わえなかった。初々しいあの感じ、もうゲームでしか体験できないの悲しすぎる。だからハマってしまったのかもしれない。
攻略サイトをパソコンで開く。
ネタバレになるということで、スチルは載っていなかったものの、プレイヤーが書き込めるコメント欄には【真の王子】と多く記載されている。【何となく感じた違和感が、ここに来て理解できるとは思わなかった!】【あれがより詳しくなるから、真の王子の出現になるのかぁ】なんてコメントもある。
4人のルート攻略中は、隠し子の話なんて一切出てなかったと思うんだけどなー。何か見落としてたのかな。
そして一番重要なのがこれ。
「国王のお遊びで出来た子。そんなの乙女ゲームの中に入れないでよ……夢壊れるじゃん」
でも誰だろうなー。真の王子ってことは、なんかハッキリとしたものがあるのかな?
考えていたら何となくアイスが食べたくなった。アイス食べながらゆっくり調べよーっと。
本当にそれだけだった。
「明日休みだからお酒も買ってこよー!コンビニすぐそばだし、えーと財布とスマホと……」
家を出てコンビニに向かう。一人暮らしをしている私の家からは徒歩2分。暗い道でもないので、ちょっとした買い物をしたいときにはとても便利な立地である。
さっと買い物を済ませ、店を出たところで目の前の2つの光が私を照らす。
「えっ?!な……」
ドガァーーーーーーン!!!!