樹海 私だった人たちへ
5話
富士乃さんに言われて少し外の空気を吸うことにした。
家の周りは明るいけれど、やはり少し離れるだけで鬱蒼と木が生い茂っている。
そしてもう少し歩けば点々と色んなものが落ちていたり、そして木にロープがかかってたりしていた。
ここでいろんな人の人生が終着点を迎えていた。
それを感じ取るのに必要十分だった。
ふと、昨日までの私を想像した。
何にも希望が持てず、ただただ自分の身を消費していく毎日。
少し何かあればどうやって死ぬのが簡単かを考えてしまう日々。
そして何より、『自分』という人間の価値の無さ。
私は色んなものに絶望していた。
そして同時にすがるものなんてなかった。
このロープは私が行くべき道の先にあった、あったはずだった。
だけど富士乃さんは見出してくれた、私の価値を『食料』としての価値を。
私は応えたい、自分の価値を見出してくれたあの鬼に。
食べた時に満足してもらえるような『家畜』として努力したい。
それがどれだけ歪んでいたって構わない、そう思ったのだ。
そう思うと涙が溢れてきた。
私は幸せだった。
価値を見出してくれる人が偶然見つかって、そして育ててくれている。
そんな今の状況が今までと全然違くて、涙が止まらなかった。
もう少し早く欲しかった、そんな私の価値を見出してくれる人。
そう思い、私は手を合わせた。
このロープの主にじゃない、この樹海に来ざるをえなかった人たちに。
ただ、ただひたすらに、『ゆっくり眠ってください』と祈りを捧げた。
私は神様なんて信じてはいない。
でももし、もしあの世というものがあるのならせめてこの世で報われなかった人が向こうで幸せであってほしい。
そう願った。
私は生き続ける。
あの人の食卓に並ぶまで、私が生き続ける。