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出会い 偶然か否か

1話


鬱蒼と生茂る森の中。

ここは富士の樹海、自殺者が多発する自殺の名所。

そんなところに私、日野刹那は立っていた。

戻る道なんてなかった。

私はこれからここで死ぬ、首を吊って、この世から退場する。

生きたくない、でも死ぬのが怖いとずっと思っていたが、そのラインを私はどうも超えてしまったらしい。

死ねばそれでいい、死んだらそこで終わりなんだから何も気にすることはない。

親も何も思わないだろう、なら何も気にすることはない。

ロープとかとりあえず調べて必要なものは揃えたはず、きっと今回でしっかり首を吊れる。

私はそんな淡い期待を持ちながら樹海の奥まで進んでいく。

途中途中で人が木にぶら下がっていた。

とてもこの世のものとは思えない表情で、きっと事切れたのだろうと私は思った。

それを見て一抹の不安を覚えたのも確かだった。

「首吊ったら辛そうだな」

まるで他人事のように呟いてしまう。

首を吊るのはとても辛いと分かっていても、私には引き返す場所がない。

もう前に進むしかない。

どこで首を吊ろう、どんな木がちょうどいいかな。

そんな考えを張り巡らせながら歩いていると、ふと樹海の先に光が見えた。

珍しい、日のあたる場所があるんだ。

そう思ってその光に吸い寄せられるように私はそこへ向かっていった。


「おぉ、なんじゃお前。ここに生きた人間が迷い込むなんて珍しいのう」


そこに立っていたのは10歳くらいの長い髪をした少女、紫色の髪が特徴的だった。

「なんじゃ、お主もどうせ死ににここに来たんだろう?しかし若いのう」

「・・関係ないじゃないですか、そんなの貴方には」

「いや、それが関係あるんじゃよ。なんせお前は


ワシが食うからな」


食われる宣言をされた私は思考が一瞬止まる。

食われる?私が?

この女の子は人間を食べるのか。

それはヤバい、逃げなきゃ。

後退りをした瞬間に少女は私に声をかけた。


「あーすまん、それだけ聞けば怪しむのも当然じゃな。ワシが言いたいのはこうじゃ。


『主が自らの命を断つ時、ワシが協力して眠るように痛みも何もない状態で殺してあげよう。その代わりその亡骸はワシに譲ってくれ』


という話じゃ。ワシとしてはお主と『うぃんうぃん』の約束を取り付けたいのじゃが」


食べられる、この人に食べられるのは決まりきったことらしい。

でも、首を吊るより楽に死ねるなら、私はこれ以上とないチャンスなのではないだろうか。


「主を無理やり殺すことはしない、主の意見を尊重する。ダメか?」

「分からないことがあります」

「ん?」

「貴方はさっきから私にメリットのある話しかしてません。それをして貴方は一体何がしたいんですか」


そう聞くと少女はそこらへんの石に座って話し出した。


「とある美食家が言っていた。この世で一番美味い食材は人間であると。そしてワシもそう思う。この樹海にはいくらでも死体が放置されている。腐敗の進み具合によっては難しいが、新しければ新しいほど人間というのは美味いのだ。そこにまだ生きているお前が現れた。ワイとしてはお主を育てて最高の食材にしたいのだよ。主もそれで死ぬことができる、ワイは最高の食材を手に入れることができる。どうじゃ?『うぃんうぃん』の関係だろう?」

「・・」


その話を聞いて、特に何も言い返せなかった。

結局彼女が欲しいのは新鮮な私の死体。死ぬ時も痛みもなく殺してくれる。これは、確かに私にとって理想の自殺方法なのかもしれません。


「ん、主の目が変わったな。どうだろう?とりあえずお主がいい感じに肥えるまではワシと一緒に暮らさないか?」

「すぐに食べるわけじゃないんですね」

「ワシにも好みがあるからな。いい感じに肥えたところで食べるさ」


それを聞いてなんか「この人だったら自分のその後を任せていいかもしれない」と思うようになった。


「分かりました、ついていきます。どうかよろしくお願いします」

「そういえばまだ名前を聞いとらんかったの」

「あ、私は日野刹那って言います」

「刹那か、いい名前だ。ワシは富士乃童子、この樹海に住む鬼じゃ。よろしくな」

「はい、よろしくお願いします」


こうして人を食べる鬼と死を待ち望む女子高生の生活が始まろうとしていた。

その先に何があるのか分からないけど、私はただこの鬼娘を信用してしまっている部分があって、少しちょろいなぁって思ってしまったことは認めます。

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