日常への帰還
「んじゃ、またな、タウ。元気でな、ベネット」
「じゃあね、クシー」
「お嬢様もお元気で」
τ105地上コロニー居住区百五十六号ステーション、低速昇降機前。ガードナーの修理が終わり、巨額の報酬も受取り、そしてそこまでお見送りに来てくれたのである。
釧井海が目覚めた時、いきなり名も知らぬ老人に泣いて謝りだしたので(それも大分親しそうだったので)、ガードナーはかなりの肩透かしをくらった格好となった。
その上、依頼人ともいつの間にか親密になっている様子で、ガードナーとしては訳が解らない。
「いいですか」
ベネットと名乗った(だが何故か名刺には別の名前が記されていた)この老人は、自らを釧井海の養育兼世話係と言った。この老人をじいやと呼ぶ海の懐き方からみてそうなのだろう。
だが、ガードナーは出会いの最初っからこの老人が苦手だった。
「来月のお誕生日でお嬢様は十八歳になられます」
初耳だ。キルスは海の事をずっとチビだとかガキだとか言っていたが、ガードナーもそちらの認識だった。
「ですが、お嬢様は大変お身体が弱く、また世間を知らずにいらっしゃいます」
身体が弱い。そりゃ二十回も肺炎やってて強いはずが無い。
世間知らず。この爺さん絶対海を純粋培養しやがったな。
「ゆめゆめ、間違いなどおこそうとは思いませんよう」
一回目、海が目覚める前に言われた時は吹き出すかと思った。
ホバークラフト内の二回目。今回は三度目なので、流石に免疫が出来ている。
それにしても、この手の爺さんはこの手の台詞を言わないと気が済まないのか、とも思える。
「行くぞ、ガードナー。何をしている」
昇降機待合室の前で言う海に、へいへい、とガードナー。
ベネット老人の鋭い視線を感じるが気にしない。
もう一度二人に笑顔で手を振る海を横目で見て一言。
「何で俺ん時だけそんな無表情かねえ」
返答があったのは昇降機に乗ってからだった。
「そ、それはだな」
「あ?」
一瞬何の事か解らないガードナー。
「あの、ほら、……ガードナーとは、ずっとこんな感じだったから、その、変えづらくてな……」
何かもごもご言った後に、
「……駄目か?」
上目遣い。ちょっと泣きそう。
吹き出した。ホントに十八か、こいつ。今はまだ十七か。
「……何がおかしい」
ちょっと赤い。いや、思いっきり赤い。
「いや」
地下コロニーは近い。
それでも、空に空はある。例え、見えなくても、だ。
「やっぱり、お前は馬鹿な奴だな、と思ってさ、」
思う。紅き星に散った戦友。
どうだろう。自分は未だ“守護神”なのだろうか。
「相棒」
解らないが、確かなことも、ある。
"AKAKIHOSHINO-SORANOSHITADE" is over.
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最後まで読んでいただき、有難うございました。