96.懐かしのナシヤット
新時代の幕開けです!
令和でも、よろしくお願いします。
「ハルカさん、そろそろ夕飯の食料を採らなければいけないのでは?」
地面を走る俺に合わせて枝から降りてきたイディアさんが話し掛けてくる。
「いえ、いつでも夕飯は出現させられますよ。まぁあくまで夕飯だけで、明日の朝以降は無理ですけどね。」
「出現・・・?」
「持ってきていますので、安心して下さい。」
「え?でも何も持っていないように見えるのですが・・・」
「大丈夫ですって。」
そんな会話をしながらも進み続けた。村を出てから約6時間、43時を過ぎたあたりで一度休憩を入れることになった。
「はぁ、ふぅ、やっぱり皆さん速いですね。私も体力が付いてきたと思ってたんですが・・・」
ミアは結構疲れているようだ。それでも、よく付いてきたと思う。そもそも疲れが見えないのは俺とイディアさんぐらいのものだ。俺は最近レベルが上がってHPも大幅に増えたが、イディアさんはどうなってるんだ。
ちなみにテイルは素早い移動に集中し過ぎたのか、精神的に疲れているようだ。
無限収納から手品のように料理を出していく。勿論タネは明かさずにだ。
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集落を出た日の夜は野宿だ。タム兄弟が近くにあった木を使って、簡単な寝床を作ってくれた。凄い。本当に凄い。
まぁそんな感じで一夜を明かし、次の日の朝は移動しながら朝食の食料調達だ。木の実や果物を簡単に食べ、移動に専念する。昼前には木の間隔が広くなってきた。森の隅の方に近付いてきた証拠だ。
「もうちょっとだぞ!」
「頑張れミアちゃん!」
「ミアちゃんなら行けるだろ!」
タム兄弟には誰かが言葉を発するときに全員何か言わないといけない呪いにでもかかっているのだろうか。あの三人はリーアよりも体力があるな。あともう一つ、ミアちゃん、か。何だか可愛い。可愛いが、俺が言ったらミアに怒られそうだからやめておこう。
「テイル、ここ抜けるとどこらへんに出るか分かるか?」
「うーん・・・ナシヤットの北西辺りかしらね。」
「その、今更ですけど、ナシヤットって街は獣人でも大丈夫何ですか?」
イディアさんが少し不安そうに聞いてくる。確かに、一番近くの街は亜人迫害のグルシュ王国だし、イディアさんは見た目もゴツいし、不安になるのも分かる。
「その点については一切問題ありません。ナシヤットは亜人も何も関係ないですから。」
「そうですか。それは良かった。」
それからは1、2分で森を抜けた。少し離れたところに広めの道があり、その道と森との境には、久し振りに見たあの柱が立っている。あの道がナシヤットに続いているのだろう。
「凄い開放的な所だね。この感じ、ボクは好きだよ。」
「確かに、グルシュ王国は壁に囲まれているしね。ここは私も大好きよ。こっちに来てよかったと思ってるわ。」
うんうん。今では俺も、最初に転生した街がここで良かったと心から思える。開放的だし、自然は多いし、なにより亜人迫害などの過激な思想が根付いていないのが良い。日本を思い出す。
「ここからはスピードを出し過ぎると驚かれるから、普通に歩いて行きましょう。」
「そうだな。」
「そうですね。」
「それがいい。」
少し広めに作られた道を通り、街に着いた。懐かしい。とにかく懐かしい。ここを飛び出したときは、まだこの世界に来てから数日しか経っていなかった上に、テイルのことしか頭に無かったからな。・・・そういえばギルドの貸し住居はどうなっているだろうか。掃除が大変そうだ。
アルバルトさんに会いに行く事とお昼ご飯を食べる事。この二つを最も効率的に行うために向かうのは、勿論ギルドだ。
「ねぇハルカ。なんだか、雰囲気がおかしいわ。空気が普通じゃない。」
「あぁ。俺も感じてる。多分、ギルドから魔王軍の事に関して何か発表があったんじゃないか?家に引き篭もったり、街の外に避難している人も多いかもしれない。」
「確かに、そうかもしれないわね。」
獣人の皆は街の観察に手一杯だったので、そんな会話をテイルとしながら歩いていると、思ったよりも早くギルドに着いた。
がちゃ
ギルドの中にも活気は無く、冒険者が数人いるだけだ。この街での知り合いの冒険者といえば、護衛任務を一緒にやった、ソフィアさんとリリーぐらいだ。・・・なんかピエールとかいう変人にホーセの世話してる時に絡まれた気がするけど、悪夢か何かだろう。それよりも明後日起きる事の方がよっぽど悪夢だ。
食事の前にまずアルバルトさんを呼んで貰おうとして受付の方に向かうと、声を掛ける前に受付の人が驚き跳び上がってギルド中に大声で叫んだ。
「ハルカ様が到着したぞぉー!」
いや、これには俺達が一番驚かされた。しかもその驚きはその一瞬だけではなかった。ギルドのロビーに居た他の冒険者だけでなく、貸し住居や訓練所にいた冒険者、そして裏から職員が次々に出てきて、ギルド中が歓喜の声に包まれた。
「ハ、ハルカさん・・・?これは、一体・・・」
「ハルカ、これどうなってんの?」
「いや、俺が聞きたいぐらいだ。俺ってこんなに有名じゃなかったと思うんだけど・・・」
そして俺達の方に歩いてくる、この不可解な状況の元凶となっただろう人物が3人。
「いやぁ!タチバナ君!まさかこんなに早く来てくれるとは!」
「待ってたよハルカ。これで僕も一安心だ。」
「あんた、今回は共闘よ。よろしくね。」
満面の笑みの支部長、どこか恐怖を覚える微笑の勇者様、若干上から目線の武闘家。全く、こいつらは何をしやがったんだ。
「とりあえず、この騒ぎをどうにかしてくれませんかね?」
「あぁ。勿論だ。───冒険者諸君!たった今!ナシヤットに強大な力が集結した!魔王軍など恐れるに足らず!我らの勝利は決まったも同然だ!ということで、落ち着け!」
いやあんたが一番落ち着け。今の言葉を魔王軍が聞いてたら、問答無用でこの建物破壊されてるぞ。全く、ナシヤット支部もアルバートさんが纏めてくれればいいのに。
結局騒ぎは納まりそうもないので、俺達は裏に通された。獣人の6人とニック、エスティラさんがお互いに自己紹介をした。細かい事に関しては、明日の夜に会議を開くというので、俺達はギルド内の食事処にお昼ご飯を食べに移動することにした。
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