91.長い爪
寒暖差が激しいですね。連休を前に、体調を崩さないよう気をつけましょう。
クマの様な魔物の足は影のようになっている。つまり、地面と同化している、という事だ。ゴースト系だろうか?どちらにしろ、見た目のゴツさからは想像できない速度で移動可能だと思っていた方が良いだろう。
俺と向き合っている3体は、普通の魔物のようにすぐには襲ってこない。こちらの様子を伺っているみたいだ。面倒な事に、知能が高そうだ。
「来ないならこっちから行くぞ?閃雷!」
3体のうち、2体の胸にを天から雷が貫いた・・・?いや、当たっていない!魔法が透けたのか?とにかく、雷が効かなかったのは事実だ。
―――ゴガァァ!
今度はあっちの1体が動いた。予想通り、無い足を滑らせて物凄いスピードで迫ってきた。が、俺にとってはそこまで速くない。
長い爪が俺に向かって振り下ろされる。
「その爪、切ったほうがいいぞ?」
無限収納から掌に剣を出現させ、下から爪を斬り落とす!
ばきぃっ!
長い爪が5本、半分弱の位置で折れる。・・・が、すぐに再生した。
「本当に面倒な奴らだなぁ・・・」
ただ、剣がすり抜けなかっただけありがたい。これはつまり、物理攻撃は無効化されないという事だ。つまり突っ込めば良い!
「超攻撃!っおりゃ!」
地面を蹴って一気に3体に近づく。まずは1体、腹を横から裂k・・
どがっ!
「ぐっ・・・!」
最大スピードを出したつもりだったのに、剣が触れる前に、横から他の奴に近くの木まで吹き飛ばされた。その力は結構強く、若干ではあるがダメージが入った。―――この力で攻撃を受けたら、リーアやミアは一発で死んでしまうかもしれない。
「リーア!」
リーアの方を見ると、ミアを抱いてクマ2体から逃げ回っていた。見たところ、ミアの足には切り傷が数か所付いているが、爪や牙でやられたというよりも逃げた時に枝で傷つけた感じだ。
クマは移動は速いが、高い所に跳ぶのは苦手のようで、リーアが枝の上を走っていれば、慎重にタイミングを合わせれば簡単に爪を避けれている。2体の気を引いてくれているので、こちらは3体なわけだ。早くあっちの2体も手伝いに行かなければだ。
「お前らは確かに速い。だがな、俺も倒し切らなきゃいけないんだ。悪いが、一個試させてくれ。
全てを引き込みし地の力、我が元において反せし物と成れ!重力反転!」
今まで攻撃が無効されてきたときも、あくまで攻撃だけだった。今回はすり抜けていたから成功するかどうか怪しかったが、重力系の殲滅魔法、標定加反発を掛けてみる。重力だったらすり抜けないのではないか?という推測だ。
―――グンァ・・・?
よし!成功したみたいだ。殲滅魔法を確実に使いたければ上位魔法を使えば良い。3体の動きが明らかに硬直した。さぁ、さっさと倒させていただきましょう!
「超攻撃!」
魔力を流し続けておくことで、クマ達は一切動けない。重力指定とはまた違う、固定する魔法。魔力消費が多すぎる。
ざくっ
ざしゅっ
ざくっ
3体の心臓部を突き、一発で終わらせる。恐らく殺せたのだろうが、空間座標が固定されている為動かない。魔法を解除すると、一気に倒れ込んだ。何だか呆気ないな。さて、リーア達を助けに行くか。
残りの2体はリーアとミアに夢中なのか、俺が後ろから近付いても何の反応も示さない。そのままのスピードで、一瞬で心臓部を貫く。力の抜けた2体は、前に倒れ込み、リーアたちが乗っている木の幹に激突する。
「うわぁぁ!」
クマが当たった振動で、ミアを抱いたリーアが落ちてきた。緊張が解れたのと、自分と同じぐらいの体格のミアを抱いているからだろう、バランスを崩して落ちてきた。
「よっと。」
剣をしまいながら、落ちてくるリーアを両手で受けとめる。膝と背中を持ち、二人を同時に捕まえる。
「あ、ありがとう・・・」
「いや。大丈夫だったか?ミアも、怪我とかしてないか?」
「ボクは大丈夫。」
「私は、少し枝で傷が付いたぐらいかな。心配してもらわないでも大丈夫ですよ?今はちょっと腰が抜けちゃってますけど・・・」
それなら安心だ。足が歩けない状態だったらどうしようかと思っていたが、腰が抜けただけなら大丈夫だろう。
「悪かったなミア。危ない目に合わせちゃって・・・」
「そ、そんな!何でハルカさんが謝るんですか!助けに来てくれて、ありがとうございました。」
「お姉ちゃんにもちゃんと感謝しないとだぞ?」
「はい。お姉ちゃんも、ありがとう!」
よし、一件落着かな。それじゃ、あいつらの死体を回収して集落に戻るか。
「じゃあリーア、ミア。帰るか。」
「・・・・・」
「どうしたリーア?この世の終わりみたいな顔して?」
「えーっとね、そのぉ・・・後ろを見てくれないかな・・・?」
不思議に思いながら後ろを振り向・・
ざくっ
「ぐぁぁっ!」
「ハルカ!」
「ハルカさん!」
俺の背中には、前にスレム大森林で黒豹、レオムストロフに付けられたような切り傷が入った。背中に激痛が走り、血が流れている。一瞬何が起こったか理解に戸惑ったが、そんなものは見れば分かる。
クマが5体、俺を睨みつけて立っている。
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