77.侵入者
ラッキー7です。(関係ない)
「何だこれは?何故解除できない!?」
アルバートさんが焦った表情で身をよじらせている。アルバートさんは束縛を掛けられていると思っているのだから、焦るのも当然だろう。
「あ、今外しますよ。解除!」
「い、いったい何が起きたんだ・・・束縛なら解除できる筈!」
そろそろネタバラシするか。アルバートさんはギルドの人間だし、それぐらいは教えても良いだろう。そもそもナシヤットでもステータスがおかしいのは知られている。ニックやエスティラさんも知っているのだから問題は無いだろう。
「あー、何て言いますか、今のは硬拘束なんですよ。」
「いや、詠唱も無かったし『バインド』と言いましたよね?」
「言いました。でも、発動したのは硬拘束なんですよ。」
「ハルカは、低位魔法が上位魔法に変化するんですよ。何でかは分からないけど・・・」
テイルが補足してくれる。俺自身も転生したから、としか言えない能力も面倒なものだ。
「変化する・・・?」
「はい。例えばここでできるやつだと・・・ここの魔銅板に加重を掛けますね。加重!」
魔銅板にかかる重力が反転し、天井まで落ちていく。
「これは・・・重力反転、か・・・。どうやら本当のようですね。───そんな力を持ち、ブラッドべムのアジトを一人で潰し、暗殺班を今代の勇者と二人で倒しきる実力・・・それでDランク、ですか・・・」
アルバートさんは事実を無理矢理にでも理解することにしたらしい。
「ランクですが、私の権r・・
ピーっ、ピーっ、ピーっ、ピーっ、
「すいません。・・・はい、アルバートです。」
どうやらアルバートさんに連絡が来たらしい。通話の腕輪で話し始めた。
『支部長、ヴァシリア北門担当からの通達です。北側の壁を越えて侵入しようとした奴が居たので取り押さえた、と。』
「壁から!?まぁ法の通り対処すれば良いじゃないか。何故私にまで掛けてくる?」
ギルドは警察の様な役割も担っているのでこういう連絡も来るのか。支部長職も大変だな。
『いえ、それが・・・狼の獣人らしいのです。』
「獣人・・・分かった、私が対応しよう。今はどこに?」
『北門で拘束している、と。』
「拘束・・・急いで向かおう。」
どうやらアルバートさんは北門に向かうみたいだ。それにしても、北門で狼の獣人が壁を超えるねぇ・・・何だか心当たりがある。
「アルバートさん、俺も付いていって良いですか?」
「え?あ、別に構わないですよ。」
──────────────────
北門までは馬車、じゃなくてホーセ車に乗せて貰った。ちなみにテイルはギルドで留守番だ。北門に着くと職員が入る側に入り、一つの部屋に入る。その部屋はまるでドラマで見る取り調べを行う部屋の印象を受ける。そして、椅子に座る見覚えのある獣人が二人・・・
「やっぱりお前らかぁぁ!」
「え!?ハルカ!?」
「ハルカさん・・・」
「おや、貴方達は。」
アルバートさんも覚えているようだ。リーアとミアは気不味そうな顔をしている。耳と尻尾も垂れ下がっている。
その後少し話があったが、一度見逃したという事と、亜人迫害の風潮があるグルシュ王国に普通に入るのは無理だし、ということで、アルバートさんの権限でお咎め無しとなった。
そのままホーセ車に乗せて一緒にギルドまで帰った。王都内は俺達と一緒の方が良いということで、テイルが歩けるようになる明日までは、ギルドに泊まることになった。
ギルドの職員とはいえ、亜人には良い印象を持っていない人も多いので、テイルがいる医務室の隣の部屋をアルバートさんが空けてくれた。俺は今、借りている自分の部屋に居る。
コンコン
「ボクだけど、入っていいかな?」
「ミーア?良いわよ。」
がちゃ
「テイル、少し相談があるんだけど・・・」
「何?ハルカも呼んだほうがいいかしら?」
「あ、ハルカもできたらお願い。」
「分かったわ。ちょっと待ってね。」
ベッドで横になっていた俺の腕輪が鳴る。テイルに呼ばれて医務室まで行く。
「ハルカも来たことだし、話したいと思すよ・・・実はミアと話して決めたんだけど、二人にボク達の集落に来て欲しいんだ。―――あっ、忙しければ大丈夫なんだけど。」
俺はテイルの方を見る、と同時に目が合った。テイルもこっちを見ていたようだ。
「勿論、行かせてもらうぞ!」
「ええ。ミーア達の集落、楽しみだわ。急いで治さないとね。」
「本当!?ミアも喜ぶよ!」
「じゃあ明日にでも出発しましょう。私は速くは歩けないけど・・・」
「一応アルバートさんにも確認しておこう。俺が言ってくる。」
「ええ、お願い。」
俺は部屋を出て支部長室へ向かう。廊下を歩いていると後ろの方でミアの喜ぶ声が聞こえた。ミアにも言ったのだろう。
狼の獣人の集落に行くには森を通る、つまり魔物が居る、つまり素材が手に入り、お金も手に入る。そうだ、今日中に新しく剣を新調しておかなければだな。まずは支部長室だ。
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