70.脱出
ケモミミ少女への感性は人それぞれです。
本気で走り、すぐにテイルに追いついた。獣人の二人も怪我はしていないらしく、ちゃんと走れている。ただ、まだ顔が強張ってはいるが。
「ちょっとハルカ、何なのあの悲鳴!?何やったの!?」
「ん?軽く潰しただけ。死んでないから安心していいよ。」
「安心できるわけ無いでしょ!」
「まぁそれは後だな。とりあえず一人でも外に出られたら面倒だから、急いで出入り口まで向かうのが先だ。」
騒ぎを知ってもすぐに地上に出るという行動に移している人は居らず、悲鳴について話している人達や俺達の事を見て騒いでいる人達を横目に見ながら走り抜ける。
「―――あ、あの・・・」
獣人の姉妹の大きい方の子がかすれ声で話し掛けてきた。
「助けて頂いてありがとうございます。貴方達は・・・」
まだ怖いだろうにしっかりとしているな。流石はお姉ちゃんといったところか。
「あぁ、俺達は冒険者だよ。依頼とかじゃなくて独断で動いているだけだけどな。」
「その、あの、亜人で・・・」
「何気にしてんのよ!私達はそんな考え方はしないわ。」
「そ、そうでしたか。失礼致しました。」
「細かい事は後で聞くから、今は走ろう。」
程なくして、出入り口のドアまで辿り着いた。後ろを振り向くと、流石に何をすれば良いのか分かった数十人が、こちらに走ってきている。その顔には不安、怒り、戸惑いなど色々あったが、皆武器を手にしている。
「ハルカ、ギルドで待ってるわ。この子達は私が連れて行くから、ここにいる奴ら全員動けないようにして頂戴。」
「了解した!」
テイルは二人の獣人を連れて、ドアの向こうに消えて行った。
このドアを通られると、テイル達に危険が及ぶだけで無く、俺達がここに来たという情報が漏れてしまう。もしかしたら『通話の腕輪』などの魔道具で既に他の仲間に漏れてしまっている可能性もあるが、最低でもここの奴らは行動不能にしてアルバートさんに受け渡さなければいけない。
―――邪魔だぁ!どけぇ!
―――お前!殺してやる!
―――死ねぇ!
俺はそれなりの高校に行っていたつもりだが、あいつらは発言からして馬鹿丸出しの罪人だ。といっても殺してはいけない。低位魔法が使えない俺には難しい注文だ。
「重力指t―――いや、潰すほど魔力が残っていないな。じゃあお前ら!俺のためにも死ないでくださいお願いします!閃雷!」
雷が物凄いスピードで先頭の奴に直撃、倒れることで後ろの方にも伝っていった。双閃雷の電圧とかは知らないが、俺としても生きていてもらわないと困る。
落ち着いた後には、立ち続けていられる奴は一人も居らず、俺の前には60人程が倒れている状態だ。一応近づいて息を確認すると、全員が気絶しているだけだった。一番後ろの方にはまだ少し意識がある奴もいたが、軽く叩くと意識を失った。
後は俺たちを追わずに建物の中に居た奴を探し出す。
どれだけレベルが低くても、どれだけ魔力が少ない職業でも、生き物は魔力の見え方が違う。魔力探知で隅から隅まで確認して回る。
───ぉ、見つけた。
数十歩歩いた先に一つ目の反応を確認。一応気付かれないようにこっそりと建物の中に入り、人が居る部屋まで向かう。
どうやら外から一番奥の部屋に居るようだ。ドアの前に立ち、剣を抜く。
がちゃ
「大人しくしr・・あれ?」
部屋の中には俺に敵意を向けて襲いかかって来る組員ではなく、鎖に繋がれた少年が居た。やせ細り、ぼろぼろの布を着て、身体中にあざが出来てしまっている。今までの行方不明者の中の一人だろうか。
「君、大丈夫か?今、鎖を解いてやるからな。」
鎖を壊したが、少年は動こうとしない。ずっと俺を睨んでくるだけだ。
「あー、外に悪い奴らはもういないから、安心して良い。俺は今から奥の方に居るかもしれない君と同じ状態の人達を助けてくる。それが終わったら、一緒に地上に出よう。良いね?」
それでも少年は全く反応を示さない。いや、応答やジェスチャーは無いが、殺気が消え、少し頬が緩んだ。
「じゃあここに居てくれ。直ぐに戻るから。」
俺は少年をそこに残し、他の建物も調べにいく。早く戻らなければ、またあの子が不安になってしまうと思い、それまでより速く、丁寧に、確認していく。
地下の最奥でもう一人反応を見つけた。建物の中に入ると、どうやら武器を売っているようだ。店の奥のドアを開けると・・・
「熱っ!」
つい声を出してしまった。店の奥はむんむんに熱く、すぐに汗が噴き出してきた。そのさらに奥で、たんたんと武器を打つ人が居る。集中していて俺に気付いていないようだ。
「あの~・・・すいません。」
近くで話しかけてみたが、まだ気付かない。
「あの!」
「ん?おや、あなたは・・・?」
「冒険者です。貴方を助けに来ました。」
「そうですか!いや、奴らに言われて武器を作っているのですが、打ち始めると熱中してしまい・・・」
この人も行方不明者の内の一人だろう。2人も一般人が見つかったのは良かった。
「細かい事は後にして、とりあえずここから出ましょう。奴らは今全員動けませんので、安心してください。」
そのおじさんと建物を出て、さっきの少年の所に向かう。鍛冶工場と外の気温差が激しく、鼻がしばらく痛かった。少年はちゃんと待っていて、俺の姿を見て安心したようだ。
この二人もギルドに連れて行こう。
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