63.決着
そろそろ4月・・・学校では入学式、会社では入社式ですかね。
「ハルカ、本当はこんな姑息な手を使いたくはないんだが、僕らも勝たなければいけないのでね。
陰隠。視光断!」
んっ!?視界を奪われた。でも問題ない。テイルやスミさんと一緒に磨いて精度の上がった魔力探知を使えば、二人の動きぐらい簡単に・・・分からない。
「どうだい?僕とエスティラは今、気配と魔力の流れを殆ど感じさせない。この状態で戦えるかな?」
何だよそれ!クソ過ぎるだろ!というかそんな魔法、使えるようにしたいじゃないか。つまり今頼れるのは、触覚と・・・嗅覚と味覚と・・・勘?
この魔法がいつ解除されるかは分からないが、とりあえずそれまで凌ごう。
「射氷!」
とりあえず自分の周りを氷で囲む。気配は消されていると聴覚が使えないが、氷を割るには音が出る。その瞬間が狙い目だ。
「あなた、自分から相手に力を貯める時間を与えるなんて、死にたいの?」
エスティラが右手を構え、力を入れる。すると、腕が紫色に輝きだし、回りの空気が揺らめき始めた。
「うぉぉぉ!超攻撃!近接増強!
代々伝わる最強の技、喰らいなさい!奇爆波壊拳!」
エスティラの拳が氷柱に当たった瞬間、その場にあった貫氷10本以上をすっぽりと包む程の大きさの破壊の波が生まれた。一度のパンチから生まれた衝撃波は凄まじく、一瞬で氷を破壊し、ハルカを吹き飛ばした。
どん・・・
「す、凄いなエスティラ。僕も初めて見たが、その、何というか、素晴らしい。」
「でも・・・私ももう限界よ・・・」
「大丈夫だ。流石に今の攻撃を受けて立ち上がれるわけが・・・無いよな?」
「───いやー死ぬかと思った。でもHPも結構削られたし、あんまり良くない状態だよ。」
俺のHPはまだ残っていた。氷はクッション材の役割を一切果たさなかったが、単純にBPとHPの数値の暴力だ。心と体を休ませているときに回りごと吹っ飛ばされた時はどうなるかと思ったが、ここの壁が崩れないお陰で、凄いスピードで壁に当たっても瓦礫の下敷きになる事は無い。
おっ、視界が元に戻った。光がまぶしく感じたが、直ぐに慣れた。どうやら技の為に体力を消耗したらしく、エスティラさんは膝に手をついて肩で息をしている。ニックも、残りの魔力量が少ないと予想している。
「魔動弾!炎!」
「苦し紛れの魔法は通用しないぞ?」
俺は意図せずルイルから炎の魔力が付与された魔動弾を貰っている。剣を持っていない左手を突きだし、少し格好つけながらかき消す。
ニックが剣を構え、突っ込んできた。まったく、ニックらしくない戦術だ。冷静に対応しつつ、俺の剣先が下を向いた瞬間!ここだ!
「射氷!」
どん!
「ぐぁっ!」
ニックが氷に押し上げられて宙に浮いた。そのまま追撃だ。
「超攻撃!おりゃぁぁ!」
ばきっ
「もう一丁!」
ばきっ
ふぅ、ニックはもう動けなさそうだ。後は・・・
「待て!雷磁砲!」
───ぐっ!
ニックの奴、まだ動けたのか。いや、手だけこちらに向けているが、倒れている。模擬戦では負けた、という扱いだ。で、エスティラさんにプレゼントだな。
「塊炎!」
「くっ・・・ぁぁぁああ!」
火柱がエスティラさんを包んだ。エスティラさんは何の抵抗もすること無く、倒れた。
「そこまで!勝者、ハルカ様!」
よし、何とか勝てた。試合の後は皆で仲良く回復薬で乾杯だ。
エスティラさんは特に俺の事を褒めた、というよりは【旅人】=弱いという認識を改めるという趣旨のどっちでも良い話だったが。ニックも前回とは比べ物にならない、と言ってくれた。それは単純に前回が弱かったんじゃないかとも思ったが、黙っておいた。
少し話した後、簡単に風呂に入った。といっても汗を流す程度の物だが。
ニック達は帰って行った。忙しい奴らだ。自室でゆっくりしていると、扉を叩く音がした。
「ハルカ君、ちょっと・・・」
俺はヘイルさんに呼ばれて、応接室へと移った。応接室にはムーディさん、アイリスさん、テイル、ルイルが居た。俺が入るギリギリまで何か話していたみたいだったが、扉が開いた瞬間に声が無くなった。
「あ、ハルカ君、座ってくれ。」
「はい。」
俺の横にはテイル、その横にルイルが座っている。机を挟んだ反対側には、ムーディさんを中心にアイリスさんとヘイルさんが座る。
「ハルカ君、君の実力は、さっきの模擬戦で見させてもらった。」
「あなたは本当に強い、という事が、素人の私たちにも十分伝わりました。」
「それで?私は冒険者をしても良いのよね!?」
テイルが机に手を突きながら身を乗り出す。
「ハルカ君、君は、テイルを守ると約束できるかね?」
「はい。任せてください。」
「・・・そうか。ではテイル、お前の門出を祝わなければいけないな。」
どうやら許してくれたみたいだ。これで明日から、また冒険者が出来る。そして、俺の責任も大きくなった。
「テイ姉、良かったです!」
「テイル、あなたも貴族なんだから、そこは忘れてはいけませんよ?」
「分かってるよお姉ちゃん。ハルカ!ありがとうね!」
「おう。」
感想、誤字報告、ブクマ登録、高評価、お願いします。