61.試合開始
どうにも時間が定まらない・・・
ムーディさん、アイリスさん、ヘイルさん、テイル、ルイル、そして俺。皆が一つの部屋に入り、ある瞬間を待っている。
コンコン
「失礼致します。」
がちゃ
「ニック様、エスティラ様が到着致しました。」
ニックのパーティーメンバーの女性はエスティラ、というらしい。
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ここは鍛練所と呼ばれている部屋だ。壁や天井、床には物理攻撃にも魔法攻撃にも完璧な無効効果を持ち、ちゃんと広さもある。半地下になっていて、何かあった時はシェルターとしても使えるようにしてあるらしいが、今までシェルターとして使ったことは無いらしい。良い事だ。
前回ニックとの模擬戦時に使用した魔道具と同じものを使い、観戦者を戦いから護る。
模擬戦には大怪我をしないように木製の武器を使う。俺はスミさんの時と同じ、魔法適性のある木剣を選んだ。
ニックは魔法適性は無いが、少し重めの木剣。エスティラさんは何も武器を持っていない。素手で戦うのだろうか。
ちなみにエスティラさんの容姿についてだが、歳はソフィアさんと同じぐらいだろう。地球で言えばアジア系の顔で、長い黒髪を結んでいる。筋肉がところどころ目立ち、身長も高い。
俺達は向かい合い、開始の合図を待つ。だがその前に、軽く会話をして緊張をほぐす。
「ハルカー!負けたら承知しないわよー!」
「ハルカ君、君の実力、しっかりと見させてもらうよ。」
「ハル兄、頑張れです!」
テイルの為にも負けるわけにいかない。いかないのだが、相手がおかしい。そもそも1人vs2人の勝負を決定する辺り、ムーディさんとアイリスさんは酷い。しかも相手は伝説の勇者の孫の孫と、そのパーティーメンバーだ。
「ハルカ、君とまたこうして戦う事になるとはね。」
「お手柔らかにお願いしますって感じなんだけどな。」
「僕達も依頼なんだ。二人で一人を倒す、というのは、少し罪悪感はあるけれどね。」
どうやら俺は倒される前提らしい。そして俺はエスティラさんにも話しかける。
「エスティラさん、ですよね。ハルカといいます。よろしくお願いします。」
「えぇ、こちらこそ。ニックが【勇者】という事は知っているわよね?私の【職業】を言っておいた方が良いかしら?」
職業は知っておくと、大きなヒントになるのだが・・・良いのだろうか?
「私は【武闘家】。だから武器は使わないの。ハルカ君の【職業】も教えてもらって良いかしら?」
【武闘家】、か。近接攻撃なのは対処がしやすいからありがたいな。で、俺の職業か。
「ニックから聞いていませんか?俺は【旅人】です。」
「・・・もう一度言って?」
「【旅人】です。」
「エスティラ、ハルカの職業は旅人だ。」
「じゃあ何?私達はあんな弱そうな旅人一人を倒すためだけに呼ばれたの?」
おっとぉ?急に態度が変わったぞ?エスティラさんは旅人見下し派閥なのか?
「おいエスティラ!」
「もう良いわ。さっさと始めましょう。」
「はぁ・・・すまないね、ハルカ。」
「いや大丈夫だって。」
「そうだ、さっき言い忘れてしまったのだけれど、今日の僕の服は、前回の模擬戦の時に僕が着ていた魔法無効の服じゃないからね。魔法を撃ってきても効くから、安心していいよ。」
あーそういえばそんな事もあったな。魔法が効くとなればガンガン撃たせていただきましょう!
「それでは、審判は私、当館の執事でありますスミが行わせていただきます。両者、位置について。」
俺は魔力探知をフル稼働させ、剣を構える。ニックやエスティラさんも表情が引き締まり、物凄いオーラを出し始めた。特にニックからは凄い威圧を感じる。聖燈威圧というやつだろうか。
「では、始め!」
試合が始まった。まずは相手の動きを慎重n・・・っ!
ぶぅん
とっさにしゃがんで正解だった。既に俺の後ろには回し蹴りを放っているエスティラさんが居る。だが、俺も冷静に、軸足を狙って剣を振る。
すかっ
避けられた!?どんな筋肉と体幹を持っていたら、回し蹴りの途中に軸足一本で後方に跳べるのだろうか。
───っ!後ろ!
がきっ
「気付かれたかい。」
「あぁ、なんとかな。」
そうだ。ニックもいるのだ。二人を同時に相手するのは本当に厳しい。何とか防いだが、ニックも力が強い。後ろからエスティラさんも攻撃を仕掛けようと凄いスピードで近づいて来ている。
腕の力を少し抜いてニックの剣を横に流す!で!後方貫氷!そしたら横に跳んで逃げる!
氷の柱が真下から出現したせいで、エスティラさんは攻撃を中断して回避行動を取る。ニックは俺を追って掌を向けてくる。
「詠唱破棄!双閃雷!」
ばちっ
どん!
「あー、ニック?学習能力が足りていないぞ?」
俺に双閃雷は効かない。さらに、炎獄、貫氷、流波はルイルが使えたので喰らっておいた。チート?そうさ、俺は異世界から来たチート持ちだ。事前に対策して何が悪い?
「閃雷!こっちにも閃雷!」
ニックとエスティラさんに双閃雷のプレゼントだ。ニックには双閃雷で相殺されたが、エスティラさんは魔法が使えないのかモロに喰らっていた。
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