49.交渉
絵が描けないから文を書く。なのに文すら上手くない。
「スミ、ここに呼んでくれ。アイリスも時間が空いていれば来るように伝えるんだ。」
「承知いたしました。」
えっ!?いつからこの部屋に居たのだろうか?全く気が付かなかった。あの執事、さっき俺をこの部屋に連れてきた年長の方の人だ。俺の後ろ、扉の横に立っていたとはいえ、全く気配がしなかった。───魔力探知の精度を上げないといけないな。・・・でも、あの執事も凄いのだろう。門番などの兵士より執事やメイドの方が戦闘能力があるなんて話も面白い。
少しすると部屋の外から声が聞こえてきた。
「急になんですかスミさん。私は魔法の練習を・・・」
「テイル、まだそんなこと言っているの?お父様がお呼びなんですよ?」
「どうでも良いわよそんな事!」
「テイル!言葉づかいに気を付けなさい!」
「お、奥様・・・お嬢様も、落ち着きください。」
アイリスさんも来たようだ。俺はさらに浅く座りなおして、立つ準備をする。
がちゃ
「何なの?急に呼び出して!」
「テイル!お客様の前で!」
「アイリス、落ち着くんだ。」
俺は急いで立ってアイリスさんに挨拶する。アイリスさんの横には不満そうな顔のテイルが居る。
「アイリスさん、ハルカです。護衛の時以来ですね。」
「あぁ、ハルカさn・・「ハルカ!」
───だきっ
───え?
「あ、あの///?テイルさん///?」
「あっ!ごっ、ごめん・・・」
「い、いや、大丈夫。少し驚いただけだから。」
急に抱きつかれるのは俺も想定外だった。今のテイルは冒険者の頃のような格好では無く、綺麗な白のドレスを着ている。ムーディさんとアイリスさんは前に会った時も高級そうな服を着ていたので違和感が無いが、テイルは雰囲気がだいぶ違う。それに、凄い良い匂いがする。香水なのか、石鹸みたいなものの香りなのかは分からないが、完全に貴族のお嬢様と言った感じだ。
「アイリス、村人の対応は?」
「任せてあるわ。それと、テイル?振る舞いを正しなさい。」
「はいはい。うるさいなぁ。」
「テイr「アイリス。」
「・・・はい。」
二人がムーディさんの隣に座り、俺も座る。テイルは俺が来たことが余程嬉しいのか、ずっとソワソワしている。それに比べて二人は、可愛い娘が俺に抱き着いた事で、俺に物凄い視線を向けている。俺は何も悪くないのに・・・
「アイリスさん、ムーディさんも、何故テイルを連れて行ったのか、お話して頂けませんか?」
「話して、どうなるの?」
「テイルを連れて帰るかどうかを決めます。」
「君は、両親の前から娘を連れて行く気なのかい?」
「それは、まだ分かりません。でも、テイルはここに居るのを嫌がっています。同じパーティーのメンバーとして、見過ごせません。」
自分で自分の緊張を痛いほどに感じる。言葉一つで、状況が大きく変わるのだ。慎重に行こう。
「───話し合うまでもないですが、どうせなら言わさせていただきます。テイルは・・・娘は、この家の跡取りであり、貴族です。勉強をし、貴族として生きていく必要があるのです。」
「ですので、冒険者などという職に就かせるわけにはいかないのです。」
「嫌よ!私は冒険者になりたいの!跡継ぎならお姉ちゃんが居るじゃない!」
「言葉づかいに気をつけなさい。跡継ぎで無くても、貴族が冒険者などというものをやるなんて・・・」
なるほど、そういう事か。立場的な問題で、冒険者になられては困る、という事か。というかお姉ちゃんが居たんだな。テイルの意見もあるし・・・
「テイルの意見は、聞いてやらないんですか?」
「こんな子供の意見はただの我儘でしかありません。」
「もう立派な大人ですよ?」
「そうよ!自分の事は自分で決めるわ!」
「いいえ、駄目よ。冒険者なんて・・・」
「・・・もしかして、冒険者が危ないから?危ないからやらせてくれないの?」
「「・・・・・」」
「危なくは無いわよ?ハルカが居るから。ね?」
───え?俺?
「───本当はそうなんです。貴族という立場もそうですが、それ以上に私たちは、娘に危険が及ぶ事が怖いんです。」
「ハルカさんは娘とパーティーを組んで頂いているのですよね?はっきり言って、低ランクの冒険者と二人というのは、私たちは許しかねます。」
そうか。確かにそりゃそうだ。可愛い娘が死の危険がある仕事をするなんて、許す親の方が少ないだろうな。テイルの場合は貴族として生きていくこともできるのだから、尚更だ。
「お父さん、お母さん?ハルカが居るのよ?危険なわけ無いでしょ?」
「何を言っているの?魔物を倒して私たちを助けてくれた事は分かっています。でも、それだけでは娘を任せられません。───本当は私たちもテイルの意見を尊重したいのですが。」
「では、どうすれば良いですか?僕がテイルの事を守れると分かって頂ける方法はありますか?」
「あなたは本当にテイルの事を連れていきたいようですね。・・・そうですね。では、私たちの信頼する冒険者の方2人と模擬戦をしていただく、といのはどうでしょう?」
なるほど、それで勝てばいいと。というか2人か。辛くないか?
「それでは、それでお願いします。」
「スミ、ギルドに連絡だ。できるだけ早く、ここに集まれる日程を確認してくれ。」
「承知いたしました。」
「では、ハルカさんは折角のテイルのお友達です。ここからは気を抜いて、楽しく話しませんか?」
おぉ・・・急に張り詰めていた空気が緩まったな。それにしても良かった。一時はどうなる事かと思ったけど、二人がテイルを大切に思っている事も分かったし、テイルも俺も満足のいく結果になった。テイルは少し不満、いや、不安そう?
「それで、ハルカさん。娘とはどこまで?」
「・・・は?」
「お父さん!?」
こんこん
「失礼いたします。奥様、村の方がお礼を申し上げたいと。旦那様、出費と要求の紙のご確認をしていただきたいのですが。」
「あ、あぁ分かった。ハルカさんすいません。仕事がありますので・・・」
「あ、大丈夫です。急に来て、すいませんでした。」
「いえいえ、それでは、テイルの相手でもしてやってください。」
若い方の執事に呼ばれて二人とも出て行ってしまった。ずっと応接室に居る訳にもいかないと思うが、その模擬戦の日時を聞くまでは宿屋に行く事も出来ないな。
「あー、ハルカ。とりあえず私の部屋、来て。」
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