33.治癒魔法
PC不調。救援求む。
リリーは【影武者】のスキルを使用して自分の影に隠れた。パウパティは急に消えたのが理解できなかったのか、少し戸惑った様子だ。
その隙にリリーの影はパウパティの背後にまわり込んで・・・
「超攻撃!」
超攻撃を発動して攻撃力を更に高めて放たれた攻撃は、当たればパウパティなど一撃だろう。そう、当たれば。
パウパティの死角から急に放たれた逆袈裟斬り、つまり左下から右上へと向かう一振りは、パウパティの驚異的なスピードで躱されてしまった。
まずい!反撃が来る!
ウェキィッ!―――ぶぅん!
パウパティの長い腕が振り回されてリリーを吹き飛ばし・・・ていない。リリーが一瞬のうちに影に潜ったのだ。
「良いぞリリー!」
リリーはだいぶ戦闘慣れしていそうだな。スキルの扱いも上手いし、超攻撃が使えるという事はレベル15以上ということだ。刀の扱いも・・・多分上手い。素人の俺には上手いかどうかがわからないのだ。
「―――超攻撃!」
エィキィッ!
―――カアンッ!
防御壁か。こいつは魔法が使えるタイプらしい。その後ろから振り抜かれた腕は、ギリギリで避ける事ができた。また影の中に入り、タイミングを見計らう。
―――パウパティが影を目で追っていた。
リリーがパウパティの背中側に回って、再度攻撃を試みる。影から飛び出して、
「超攻 ・・・」
ギエィイィッ!
ごすっ
「「リリー!!」」
どしゃっ
「リリー!大丈夫か!?ほら、回復薬だ。飲めるか?」
攻撃を読んでいたのか、リリーが影から飛び出すと同時に、パウパティは腕を振り抜いていた。防御体制も取らずにモロに攻撃を喰らったリリーは、俺達の横の木まで飛ばされて、
「駄目だ、息はしてるけど、意識がない・・・ハルカ君、ちょっとどいてくれる?―――癒波。」
ソフィアさんの杖から黄緑色の温かみのある魔法がリリーに向かって放たれた。黄緑色の波動はリリーを包み込んでゆっくりと点滅している。その間ソフィアさんは魔法を使いっぱなしだ。
「ふぅ、終わったわ。治癒成功よ。」
なるほど、リリーの荒かった呼吸が落ち着いているし、肌の傷も無くなっている。ただ、意識はまだ無い、というか眠っているのかもしれない。
さて問題は、リリーの治療中ずっと律儀に待ってくれていたこのパウパティだ。
「どうしよう・・・私の魔法は効かないし・・・」
「ソフィアさん、リリーを守っていてください。俺がやります。」
「無茶よ!パウパティはDランクで攻撃力もスピードもありえないほど高いの。レベル15の旅人じゃ、歯が立たないわ・・・」
「大丈夫です。任せてください。」
しょうがない。依頼のこともあるし、ここで本気を出すか。所詮パウパティだ。
俺は一歩前に出て、パウパティと向き合う。パウパティは戦う相手が出てきて嬉しいのか、少し興奮気味に戦闘態勢に入った。俺も鞘から剣を抜いて、構える。
さて、どうやって倒すか。ここから貫氷を撃ってもいいが、逃げられると面倒くさい。直接斬りに行くか。
「ハルカ君待って!闘攻。鉄壁。加速。これで能力は少し上がったはずよ。」
おぉ、これが強化魔法の感覚か。身体の内側から力がみなぎってくるような―――ん?あれ?俺ってニック戦の時のチート能力の全容が解らないから、強化魔法や治癒魔法をかけないようにしないとと思ってたんじゃ・・・まあいいや、後で考えよう。
ウェイッキィッキッキッ!
さて、攻めますか。俺は一気にパウパティに近づいていく。
―――ウェッキッ!
パウパティと俺の間に紫色の壁が現れた。おーおー、ご苦労様です。
パリン
ざしゅっ
はい。パウパティ戦終わり。素材取り出すの面倒くさいから、とりあえずこのまま無限収納に入れておこう。さて、護衛依頼の続きだな。
「よし、ソフィアさん、進みましょう。リリーは俺が受け取ります。」
「え?・・・え?・・・ちょっ、ちょっと!今何したの!?」
「何って、普通に刺しただけだけですよ?パウパティの耐久力は弱いから、一発で倒せたんです。」
「そこじゃないわよ!今パウパティの防御壁を壊さなかった!?」
「・・・・・」
「何でそんなことができるのよ!?」
どうしよう、何か嘘をついて誤魔化すか?
「あー、これはあれです。【旅人】のスキルで、必ず相手まで攻撃が通るんですよ。」
「そんなスキルあるわけ無いでしょ!」
「まぁこの説明は後でで良いですか?二人を呼んできて先に進みましょう。」
リリーはまだ眠ったままだ。呼吸は安定していて、何も問題は無さそうだな。良かった良かった。ソフィアが運ぶのは辛いと思うので、APもHPもある俺が受け取った。で、どうしようか。本当のことを言ってしまおうか・・・?
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