28.第三
花粉症が飛び始めるとテンションは地面に降りていく。
「こんなのがあったわ。重力反転。一定の空間の重力のかかる向きを逆にする上位魔法よ。」
「へー、都合良く見つかるもんだな。じゃあテイル、それやって。」
「いやいや!上位魔法なんて無理よ!ハルカがやってよ!」
「でも俺がそれ発動すると、なんか変な事になって、ここら辺が重力で押しつぶされたり別空間に隔離されたりしたら不味いし・・・」
「じゃあ下位魔法で似ている奴を探せばいいわけね。───これは?加重。一定の範囲の重力を大きくする魔法よ。」
重力を大きくする魔法が強化されて重力を反転させる・・・ありえるな。でもなんだか反転させるだけって弱い気もするけど。
「じゃあそれ一回試し打ちしてみよう。」
テイルに言葉で教わりながら、描いてあるイラストも参考にして魔力の流れを形作っていく。───周りから中心に集めていって、正四面体を逆様にして様な形に纏めて、
「加重!」
今目の前の紫色になっている空間が、魔法発動区域だろう。集中していないと途切れそうだが、魔力を流し続けていればずっと保っていられそうだ。
無限収納から雑草を一握り取り出して、紫色のところに投げてみると・・・
「おおぉぉ!」
「やったわハルカ!成功よ!」
手から離した雑草は、空へと落ちて行った。まさか本当に重力反転に成るとは・・・でもこれで勝ち筋が見えてきた!
「よし、じゃあ早速万年緑に掛けよう。」
「ええ。加える熱は、私の塊炎で良いわね?」
「外すなよ?」
「分かってるわよ!私に任せなさい!」
俺達は万年緑の射程ギリギリのところに立って魔法を発動する。
「加重!」
万年緑とその周りが魔法の発動で紫色に包まれる。これで今万年緑は逆様の状態のはずだ。ここにテイルが熱を加える。
「塊炎!」
テイルの狙いは狂う事無く、炎は真っすぐに飛んでいき・・・氷へと変わった。
「は!?」
訳が分からない。あれは重力の向きを変えるだけじゃないのか?───なにやらテイルが魔法辞典を読み直している。
「分かったわ。あの空間の中では魔力による環境への干渉も、逆にしちゃうみたいよ!」
「えーっと、つまり?」
「熱は+から-に。電流や磁場も逆になるって事。」
なるほど。だから塊炎の温度が同じ絶対値を持つ負の数に変化して、周りの水分を凍らせたわけか。
「じゃあ射氷を撃てばいいんじゃないか?」
「そうね。熱を加えればいいのだから、炎よりも安全ね。」
「じゃあもう一回いくぞ。加重!」
先ほどと同じように、万年緑が紫色の揺らめきに包まれた。
「一本で良いわよね。射氷!」
氷は一瞬で蒸発して、こっちまで熱波が来た。熱波が来たという事は、熱を加えられただろう。・・・近づいてみるか。
俺は剣を構えて、ゆっくりと射程内に入る。攻撃は・・・来ない。
一歩ずつ、一歩ずつ、慎重に、注意しながら近づいていくが、動いてこない。
ついに根元まで何事も無く来れた。これは死んでいるか?万年緑を握っても反応が無い。
「無限収納解放!」
───
──────
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───入った。
「やった!成功だ!」
あとはこのまま帰るだけだ。時間はまだ30時。急げばもう一つ依頼を受けられるかもしれない。
「すいませーん!スーさん!」
「はーい。はいはい。どうされましたか?」
「終わったので確認をお願いします。」
「まあ!もう終わったの?二つとも?」
「ええ。」
「はい、確認は終わりました。丁寧にやってくださったみたいで、ありがとうございます。」
「いえ、それじゃ、俺達はこれで。」
「お疲れさまでした。」
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ギルドに着いた時には時刻は31時を回っていた。
「───スーさんから連絡を頂いております。こちらが、今回の報酬になります。」
「ありがとうございます。それと、Eランクで依頼を受けたいんですけど。」
「はい。───Eランクの依頼はこちらになります。」
さて、長くても8時間ぐらいに抑えて文字の勉強がしたいな。テイルはどれを選ぶのか・・・俺も読めれば簡単そうなのを選べるんだけどなぁ・・・
「ハルカ、こんなのがあるわ。」
内容:カルプイルの討伐、場所:中央公園、依頼主:ギルド、報酬:一匹につき200シェル
「魔物の討伐か。よし、やろう。」
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