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189.暇つぶし

潰せるほどの暇がほしい。

 俺は会議中に襲ってきたというブラッドベムの組員の身柄をエルヴァーさんに受け渡し、様々な認識阻害魔法を何重にもかけて、こっそりと王城を後にした。


 もともと会議の終了予定時刻は36時だったが、その終わるほんの少し前に襲撃があり戦っていたので、俺が城を出た時には36時を過ぎていた。

 しかし、そんな事件があったのだから、貴族たちがすぐにそれぞれの屋敷に返してもらえるわけがない。ロンド家の屋敷に行って今日の話を聞くのは少し後になるだろう。


 ということで一度ギルドに戻って夕食を済ませ、特に理由は無いが訓練所へ向かう。


 重い扉を開けて中に入ると、何人か冒険者が居た。


「こう?こうかな?うーん・・・難しいな・・・」


 その中に一人、明らかに未成年の少年がいる。どうやら魔法の練習をしているみたいだが、掌から魔力が漏れ続けているだけで、何もできていない。


「さて、俺もなんかやるかな?」


 さっき掴捕絡結鹿(グラ・エントウィンド)を使った時、結構思い通りに蔓が伸ばすことができた。が、あれをもっと細かく、速くできるようにすれば強いだろう。その練習でもするか。


 安全のために壁に向かって魔法を放つ。


蔓振(スイナイビー)!」


 何度も何度も繰り返し発動し、どれぐらいのスピードでどうやって魔力を動かせば蔓が速く伸びるとか、そのスピードの中でどのタイミングでどうすれば思ったような形になるかを、試しながら練習していく。消費する魔力量は低位魔法と同じなので、気兼ねなく殲滅魔法を連発できる。


 何分か練習していると、後ろから声を掛けられた。


「あ、あのっ、すいません!」


 そこには、さっき見かけた少年が立っていた。


「あの、お兄さんって【魔法使い】ですか?」


「いや、違うけど・・・」


 ここはあえて【旅人】とは言わない。


「【魔法使い】じゃなくても良いです。僕に、魔法を教えてください!」


 コミュニーケーション力の塊か?いや、俺からしたらそう見えるだけで、本当のコミュ力お化けと言われる人種はこんなものではないのだろう。化け物じみた、ソフィアさんのような感じなのだろうが。


「俺で良ければ、いいよ。」


 あと2時間ぐらいはここに居ようと思ってたところだ。ちょっと教えるぐらいは別にいい。


「ありがとうございます!よろしくお願いし・・「ちょっと待って?」


「はい?」


 俺は考える。頭の隅という隅から記憶を引っ張り出してくる。何を考えているのかって?この少年、どこかで見覚えがある気がするんだよな。


「あの、どうかしましたか?」


「あぁぁ!」


「なっ、何ですか!?」


「思い出した!君、あの時の少年だ!」


 あの時の、ブラッドベムの地下施設に囚われていたところを助け出した、目つきの鋭い無言の少年だ。雰囲気が違って最初は分からなかったが、なんとか記憶の中の少年と目の前の少年が一致した。


「えっと・・・お会いしたことありましたっけ?」


「ほら、その、地下で。覚えてない?」


 トラウマになっているといけないので、やんわりと伝える。口が裂けても『ブラッドベムの、』なんて言えない。


 少年は少しの間黙っていたが、思い出したように顔を勢いよくあげた。


「あぁ!あの時の!あの時は本当にありがとうございました!」


 そんなに面と向かってお礼を言われると照れ臭い。どういう反応をしていいかも分からない。ただし今は逃げ道があるのだ。


「そ、それじゃあ、魔法の練習する?」


「そうですね。よろしくお願いします。」


「で、何を使えるようにしたいの?」


防御壁(プロティーガ)っていう魔法障壁を作り出す魔法なんですけど。」


 防御壁(プロティーガ)か。懐かしい名前が出てきたな。


「そういえば少年、名前を聞いてなかったね。」


「コウです。」


「コウ、とりあえず一回やってみてくれ。」


「はい。ふぅ───防御壁(プロティーガ)!」


 掌から魔力が流れ出る。が、紫色の障壁は現れない。まぁ体外に狙った場所から魔力を放出できるのは、第一段階突破か。


「うん、魔力は出せてるな。でも、広げられていない。出してから、障壁の形になるように魔力を薄く引き伸ばせるか、やってみてくれ。」


「魔力を動かすなんて、できませんよ・・・」


「じゃあ俺が手伝うから、力み過ぎない程度に力を入れて、イメージするんだ。」


「・・・分かりました。」


 他人の魔力に干渉するのは難しい。が、何も形作られていないものに型を与えるぐらいはできる。


防御壁(プロティーガ)!」


 魔力で枠を作り、コウの魔力が霧散しないように抑える。すると、コウのイメージの仕方が良いのか、綺麗に広がった。


「良いぞ、そのまま、力を込めて。腕じゃなくて、その先にある魔力に。圧力を投げる感じで。」


「は、はい!」


 若干魔力が揺らめいたが、なんとか持ち直し、紫色の障壁が現れた。


「なんだ、できるじゃないか!それじゃあ、補助枠を外すぞ?良いか?」


「はい!」


 俺は未だ脆い障壁に干渉しないように、ゆっくりと慎重に解除していく。


「あぁぁ・・・」


 すると、障壁は崩れてしまった。


「惜しかったな。もう少し、最初に力を抜いて、うまく形作れたかな?と思ってからできるだけ素早く適切な力を加えるんだ。そしたら保てるようになるはずだ。」


「分かりました。でも、もう魔力が無いのでまた明日・・・」


「いや?まだできるぞ?時間は大丈夫か?」


「時間は大丈夫ですけど。」


「そうか。なら便利だから覚えておくといい。手を出して。」


 出された手を握り、魔力を流していく。


「魔力が流れてくるの、感じるか?これは魔力譲渡(トランス)っていう技術だ。技術って言っても簡単で、魔力を狙ったところから出せるなら、もうできたも同然だ。」


 コウの特訓は、まだまだ続く───

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