179.事件
そろそろお盆ですか・・・
昼間の暑い砂漠を抜け、グルシュ王国の最外縁の壁が見えてきたのは41時。日が沈むと同時にぐんぐん気温は下がっていき、今では寒いぐらいだ。俺には関係無いが。
特に他に人が居るわけでもなく、俺とテイルは門へ。リーアは門から行っても獣人という事で捕まるだけなので、違法ではあるが壁を跳び越す。
門番に魔銅板を見せて入国の許可をもらう。
「はい、大丈夫です。ようこそピルネへ!ようこそグルシュ王国へ!」
ピルネ?ピルネ?・・・あぁ、この街の名前だっけか。───とかそんなことを呑気に考えていられたのは、それまでだった。
ビビビビビビビビビ!
俺が先に入り、テイルが認証を受け終わった時、門番の付けていた指輪が振動とともに大きな音を発した。
「何!?私何かしちゃった!?」
「いえ、あなたは大丈夫です。どうぞお入りください。」
テイルは通されたものの、門番小屋のような建物から、何人も鎧を身に付けた人たちが武器を持って飛び出してきた。一体何事だろうか。
「いたぞ!あそこだ!」
「人間?いや、獣人だ!」
「獣人だ!」
「取り押さえろ!」
「・・・なぁテイル。」
「ハルカ、私も同じこと思ってるわよ。」
「「リーア!?」」
俺たちの視線の先には、壁を越して降りたところを門番たちに取り押さえられているリーアの姿があった。
「大人しくしろ!」
「亜人だなんて・・・汚らわしい。」
「おい・・・仕事中だぞ・・・」
リーアは地面に座り込み、大勢の門番に武器を向けられていた。
「リー・・むぐっ!」
俺が走り出そうとすると、テイルに口を塞がれて止められた。
「テイル!なんてことするんだ!」
「今出ていったら、ハルカも犯罪者よ。」
「じゃあリーアはどうするんだ!」
「今はどうにもできないわ。今私たちにできることは何もないわ・・・」
「くそっ・・・!」
何故リーアが捕まったのだろう。勿論壁を超えるというのは違法行為だろうし、捕まるのは当然だ。だが、そういう事を言っているのではない。恐らくリーアが壁を越えた瞬間、前回は作動しなかった何かが作動し、侵入がバレた。問題はそこなのだ。
リーアは手錠を掛けられ、一度俺達の方を振り向いてからどこかへ連れていかれた。俺達は、それをただ見ている事しかできなかった。
──────────────────
俺達はピルネの宿屋で一晩部屋を借りた。
「・・・これからどうする?」
「多分、リーアは裁判にかけられてから、・・・まぁ亜人だから処刑でしょうね。」
「なんでだよ!」
「だから!それを止めに行くのよ!」
「どうやって。」
「それは・・・。」
テイルの勢いが止まった。止まってしまった。
それから俺達はお互いに何も言えないまま、ただ座って時が経つのを待っていた。待っていても何も起きない。それどころか事が悪い方に向かって行くのは明白な事実だ。それが分かっていながらも、何もできない。その悔しさを、一人ひとり、同じ空間で噛み締めていた。
───コンコン
今は何時だろう。それすらも分からない。が、部屋のドアがノックされた。
がちゃ
「はい。なんでしょうか。」
思い返せば、いくら状況が状況であろうとも、普通のお客さんに対してならそうとう失礼な雰囲気だっただろう。
「ギルドの者です。ハルカ・タチバナさんですね?」
「そうです。」
「テイル・ロンドさんはいらっしゃいますでしょうか。」
「いますけど・・・」
「お二人とも、ギルドまで来ていただきます。よろしいですね?」
ということで俺とテイルはギルドに連れて行かれることになった。ギルドの人間二人に見張られながらホーセ車に乗り込み、王都へと向かわされた。
何故こんな事になっているかはだいたい予想がつく。ギルドは警察のような仕事もしているのだ。リーアが逮捕され、それに関連して俺達も事情聴取といったところだろう。
そんなに質の良い、高いホーセ車ではないのだろう。縦揺れが激しく、座席が硬いのでお尻が痛い。
ホーセでの移動がどれくらいだったのかは分からないが、王都に着いた時には既に空が白み始めていた
。まさかのもう朝。しかし、リーアの事がショック過ぎて特に眠気は感じていなかった。
俺とテイルは別々の、ギルドの中の小さな部屋に通された。机と椅子だけが置いてある本当に小さな部屋だ。ここの雰囲気はギルドの表側とは対照的に、暗く重い。
少しするとギルドの職員の人が来た。こっち担当の人だろう、雰囲気が受付の人達と比べてだいぶ違う。とりあえず刑事としておこう。
「まぁ、座ってください。」
「はい。」
俺と刑事が机を挟み、向かい合って座る。刑事は机の上に紙とペンを取り出した。
「まず謝罪を。細かい説明も無いうえで連れてきてしまい、申し訳ありません。」
「いえ、そんな。」
「ハルカ・タチバナさんで間違いないですね?」
「はい。」
「では、まず何故このような事になっているか、説明しましょう。」
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