177.平野から砂漠へ
短いですすいません。
エスティラさんの傷はニックが治すと言っていた。ウィーザラードを倒したことで止まらなかった出血が嘘のように止まったので、テイルの顔の傷も簡単な治癒魔法で治せた。
時魔法が解除され、リーアは元の姿に戻り、空も明るくなった。ピソイム平野には柔らかい風が吹き、平和な普段の光景へと戻った。
「ハルカ―。ボクお腹空いた。」
「私も。戦ったらお腹空いちゃったわ。」
「じゃあお昼にするか。」
時刻は24時。ちょうどいいだろう。───ん?1分前に戦場だったところで飯を食うな?気にするな。
まあ昼食といっても携帯食を口の中に放り込むだけだ。すぐにグルシュ王国に向けて歩き出す。
いやそれより、何か忘れている気がするんだけど・・・
「あーー!」
「なに!?何ハルカ!?」
「ウェズと卵!」
「「・・・あー!」」
まるで示し合わせたかのように二人が同時に叫んだ。
「俺、行ってくる!二人は先に向かってて良いから。」
「分かったわ。急いで行ってきなさい!」
テイルに背中を思いっきり押され、若干よろめきながら走り出した。戦闘での疲れはどこへやら、自分でも驚くスピードで平野を走り抜ける。
1分もかからずにウェズと卵を置いておいた木に到着した。外からでは何も見えないので一瞬心配したが、魔力探知に注意すると、とんでもない量の魔力を葉の内側から感じたので安心した。子どもと卵とはいえ、精霊が2匹いるのだ。合計した魔力量はSランクにも匹敵する。
「ウェズ―?迎えに来たぞー。」
「クァ!」
葉の間からウェズが顔を出した。口が裂けても忘れてたなんて言えない。
「おまたせ。テイルとリーアは先に行ってるから、早く追いつこう。」
木の根元でジャンプしてサッと卵を取り、飛んできたウェズを肩に乗せる。そして疲れない程度のゆったりとしたスピードで再度グルシュ王国を目指して走り出す。
ウェズは俺の中に入ってくれてもいいのだが、肩にとまったままなのでそうしておく。少し離れていたので寂しかったのだろうか、肩を掴む力が少し強い気がする。爪が食い込んできて痛い。
テイルとリーアも普段の移動速度が速い。走らなくてもそれなりのスピードがあるのだ。追いついたのはピソイム平野からシィ砂漠へと変わる境目付近だった。明確な境は無いが、地図にあてはめると大体そこらへんなのだ。
「もう2時だから、急いでもあっちに着くのは夜だろうな。」
「そうね。それにしても昼の砂漠は熱いわね・・・」
「ボクももう倒れそうだよ・・・」
「そうか?俺は平気だけどな。」
リーアは舌を出してはぁはぁやっている。俺は恒温変移のお陰で暑くもなければ汗もかかないが、二人の汗のかき方は尋常じゃない。こまめに水分補給を促しておかないとな。脱水は洒落にならない。
ちなみにこの間、真水を生成する水魔法を発見したのでその点に関しては問題ない。攻撃魔法に使う水も飲めなくはないのだが、魔力濃度が高く、飲み過ぎると魔力の操作性が落ちるらしい。時間経過で外部から摂取した魔力が薄まれば治るようだが。
───!
「何か来るな。」
「遠視発動!・・・あれはベムかしら?」
あの魔力量や動き方はテイルの言う通り、ベムだろう。あんな遠くから向かってくるなんて、余程飢えているのだろうか?まぁ俺達にとっては何も問題のない相手だ。
「ボクがやるね。」
ベムが向かってくる速度の何倍という速さを初速で出したリーアは、ベムとの距離を一瞬で詰め、頭を上から拳で殴る。地面は砂地で柔らかめだが、そんなのは関係ないと言わんばかりに叩きつけて潰した。
「ふぅ、いっちょあがり!」
「お疲れリーア。」
無限収納に仕舞って今は先に進む・・・とはいかなかった。
「ねぇ、なんかたくさん近付いてきてない?」
テイルの一言で気付くことができた。SランクからEランクの差が激しすぎたせいで感覚が鈍くなっていたが、沢山の反応が全方向から近付いてきている。ただ近付いてきているのはついさっき感じたものと一緒、つまりベムだ。ベムなら集まられても特に問題ない。面倒くさくはあるが。
「はぁ・・・やるしかないわね。」
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