175.苦戦
皆さん、熱中症に気をつけましょう。
「はぁっ!」
テイルが思いっきり体を縦にひねり、その勢いのままウィーザラードを地面に叩きつけた。
「今だ!」
最初に攻撃を仕掛けたのはエスティラさんだ。
「近接増強!殴撃強化!電撃拳!」
電気を帯びた拳がモロに入った。その威力はとてつもなく、俺達の近くまで空気を伝って電流が流れてきた。地面に落としたうえに更に地面に埋め込むつもりだろうか。恐ろしや恐ろしや。
まだ空気中に電流が残りパチパチと音を立てている中に、リーアは突っ込んでいった。なぁ、まさかとは思うが電気より早く動けるわけ無いよな?・・・怖くなってきた。
「衝撃!」
ナックルダスターに込められた闇の力を解放する。すると、殴撃に合わせてウィーザラードの体を包み込むように真っ黒な闇が出てきた。魔力でできた布のような感じだ。
リーアが離れてから、闇の塊は収縮し、キュンという音とともに一瞬で破裂した。
「ほぉ・・・」
あれが使用者の魔力消費0で使えるのだから、結構凄いな。
「まだまだ!はぁぁ!」
更に光属性の光線で畳みかけ・・・
───どおんっ!
ウィーザラードを中心に爆風が起き、俺達は全員吹き飛ばされた。人間の体が飛ばされる風力って、どうやって出しているんだろう。とか呑気に考えながら空中を舞い、テイル以外上手く着地、ウィーザラードに向き直る。
次の瞬間、突風がエスティラさんを襲った。
「ぐ・・・っ!」
「エスティラ!」
両腕を顔の前で交差して防御の姿勢を取ったものの、風の刃には抗えない。攻撃をモロに喰らうことになってしまった。
「痛っ・・・」
腕を中心に何十箇所と小さな傷を負ってしまった。そしてその傷からは血が流れ、テイル同様止まる気配を見せない。しかもテイルの時より悪いのが、痛みがあるという事だ。これではベストコンディションとはいかないだろう。
「君傷否駄!」
ニックが剣を振ると10本の剣撃が宙に放たれ、弧を描きながらウィーザラードへと迫った。
―――キュキュキュ!
しかしやはり、簡単に躱される。それどころか、その隙間を縫って突っ込んできた。ニックはエスティラさんを守る位置に入った。
「りゃっ!衝撃!」
ウィーザラードが風だとしたら、リーアは光だ。一応比喩だが、案外間違っていないかもしれない。それぐらいのスピードがある。
が、リーアの拳すら躱されてしまった。
ここは無理にがっつかず、引き付けて引き付けて・・・ここだ!
「おりゃ!」
かしゅっ
速すぎる!かすっただけ・・・でも今はかすっただけでも十分な効果が出る。俺の剣には麻痺効果付与があるからな。
予定通り、ウィーザラードの動きが鈍くなっている。息も少し苦しそうだ。
「わぉぉん!」
追い打ちをかけるようにリーアが威嚇を発動していく。
「傀儡操作!」
───キィッ!?
テイルが思いっきり地面に叩きつけた。
「そのまま!詠唱破棄!標定加反発!」
ニックが力属性の魔法で空間座標を固定させる。
「ニック、あいつに魔法を掛けてるとさっきの俺みたいになるかも知れないから気をつけろよ?」
「承知した。」
「さっさと倒すわよ!」
「待てエスティラ。動かない方が良い。」
「大丈夫よ、これくらい。」
エスティラさんは大丈夫と言っているが、顔は痛みで歪み、全身から血が流れ続けている。とても動いて良い体とは言えなさそうだ。エスティラさんの為にも、俺達でキメるか。
「「「はぁぁぁっ!」」」
剣、鞭、拳が一度に小動物に襲い掛かる。若干の罪悪感を感じつつも、その小さな体を切り裂・・・あれ?触れない?
「ニック後ろ!」
「っ!」
ざしゅっ
魔法維持に集中していたせいか、後ろに居たことに気付けなかったのだろう。背中に大きく爪を入れられ、顔から前向きに倒れた。
「ニック!塊闇!」
「はぁっ!」
俺とリーア、二人から同時に闇の光線が放たれた。が、そんなものを躱すのは朝飯前といった様子だ。
それ以上にマズいのが、ニックの傷口からの出血量が多い事だ。これでは失血死もあり得る。使ったことは無いが、回復魔法をやってみるか。
「リーア、回復魔法を使うから、援護を頼む。」
「任せて!」
俺は魔法辞典を取り出し、慎重に魔法を展開していく。緊張をなくし、集中する。ここが戦場だという事も忘れ、ただひたすら慎重に魔力を動かしていく。
「生物の治癒は時こそが成せる業。時の流れを巻き戻し、元に戻して見せよ。癒しの波動よこの者を治したまえ!還刻限癒波!」
緑色のオーラに包まれたニックの傷はみるみるうちに塞がり、血も流れなくなった。成功だ。
ちなみにこの治癒魔法、通常の木属性に含まれる回復魔法とは異なり、時属性だ。だいぶ前にレオムストロフに俺が殺されかけた時、ニックが俺に使ってくれた魔法だ。
ニックはそのまま眠ってしまった。
「エスティラさん。エスティラさんも治します。」
「いいえ、私は少し休めば動けるようになるから大丈夫よ。その魔法は反動による疲労が凄まじいの。それこそ、ニックでさえ寝てしまうぐらいのね。」
「・・・分かりました。無理して動かないでくださいね?いつでも治しますから。」
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