170.極少
さて張り切って参りましょう。
悪霊や不死が増えた理由は、あの精霊ではないかという結論に至った。理由としては、墓地から南にあること、黒翼の精霊が闇属性だということ、巣が見た感じ新しいものであること、御神木なので魔力的な影響が大きいのではないかということ、などなど。
とりあえず夜にならない事には分からないので、家に帰って夜を待つ。
昼食を食べ、夕食を食べ、特に魔物や人が来ることもなく、ただゆっくりと、ゆっくりと時間を過ぎさせていった。
―――46時。けたたましいサイレン音と共に暗く紫色に変わる照明。
「イリーナ!行くよ!」
俺達がいる安心感からか爆睡していたいリーナを叩き起こしながら、装備の最終点検を終わらせる。
「これで不死少なければ、万々歳だ!」
「そうなってる事を願うしかないね。」
「ごめんおまたせ!ナーも準備OKだよ!」
ボタンを押しながら家から飛び出し、墓地の南側に向かう。
最初に感じたのは、明らかに悪霊や不死の数が少ないという事だ。いや、多い時間帯の光景が頭に残っているだけで、昨日も最初はこんな感じだっただろうか?
しかし、少し戦っていると真実が見えてきた。絶対に少ない。1/100・・・いや、更に少ない。イリーナ一人でも十分対処でき、リーアが月光の祝福を受けるまでも無かった。テイルが5体操ると、少し待たなければ敵がいないような状態になったりもした。
湧き出てくるのも2時前には終わり、何だか呆気ない感じだった。まぁとにかく、これでこの墓地の問題は解決したわけだ。めでたしめでたし。
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「やっぱり、皆行っちゃうんだ・・・」
「あぁ。俺達もずっとここに居るわけにもいかないからさ。」
最後にイリーナの厚意、というかできるだけ俺達が帰る時間を遅らせようとしたことによって朝食をご馳走になり、その後発つことにした。依頼内容が完了しているのに長々とこっちに居ると、帰った時に支部長にいろいろ言われそうだしな。
「でも、本当にありがとう!謎だった原因まで鎮めてくれて!」
まぁその原因のお陰で、この卵が手に入ったわけだけど。
「また何かあった時は、私たちを呼んで頂戴!いつでも力になるわよ!」
「うん!ありがとう。」
「イリーナ、これからも頑張ってね。」
「それじゃ、またいつか会おう。」
「ばいばーい!」
「ありがとうございましたー!」
とまあこんな感じでイリーナの家を後にした俺達は、ナシヤットに向けて北を目指す。
帰りも道筋は同じだ。魔物の縄張りがあるとか、変な植物の群生地があるとかはなかったので、分かっている安全な経路を使う。こういう事に使える点でも、憶録道標は便利だな。
帰りもリーアの威嚇のおかげで魔物と戦う事は無かった。バルタ山脈を休憩を挟みながら越すのに12時間ほど。30時過ぎにナシヤットに帰ってきた。さっさとギルドに終了報告だけし、ボアシシを素材として売り、部屋に戻ってゆっくりする。
「やっぱり我が家は落ち着くわねー!」
「あの自然の中な感じも俺は好きだけどな。」
「ボクはもっと森の中の方が・・・」
「リーア、それはまた別の問題よ。」
ソファにゴロゴロ寝っ転がりながら黒い卵を眺める。一応押し入れ・・・じゃなかった。無限収納の中から引っ張り出した毛布でくるんでいる。
「クァ~・・・」
俺の背中側から出てきて肩によじ登ってきたウェズが大きなあくびをした。眠いなら出て来なくても休んでいればいいのに、と思うが、皆と一緒に居たいのだろう。
その時俺の中に一つの懸念が生まれた。ウェズは光属性、対してこの卵から生まれて来るであろう精霊は闇属性。光と闇、相対する二つの属性。仲良くできるだろうか?
「なぁウェズ、こいつが生まれてきたら仲良くできるか?」
首の下を撫でてやりながら問いかける。ウェズはそんな俺の言葉など聞いていないかのような顔で、気持ちよさそうにしている。かわいい。こんな顔を見せられると、まあどうにかなるだろうと思えてくる。
「あんまり心配しなくても良いと思うよー?だって、ボクの中にも光属性の力と闇属性の力があるもん。」
「うん、リーア?それとは別の問題だから。でも、私もそんなに心配しなくても良いと思うわよ。」
「クァ。」
ウェズも首を縦に振っている。
───ぴくん
その時、卵が少し揺れた。生まれる時も近いかもしれないな。
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もうなんか面倒くさいという事で、夕飯は食事処で食べることにした。テイルの作る料理も好きだが、やっぱり男子高校生には外食のこういう味が好みだったりする。
ただ、夕食の時間が平穏なままとは限らない。例えばそう、支部長などがぶっ壊すのだ。
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