168.南の捜索
明日でひとつの節目です。
テイルとリーアはウェズと魂が繋がっていないので直接視覚共有で、というのはできない。ただ、俺はウェズと共有できるので、テイルとリーアにもその視界が伝わるわけだ。
ぐんぐん高度が上がっていく。ウェズが上を向いているのでまだいいが、もし下を見たりしたら、もう、無理だ。
ところどころ伸びている枝や葉を器用に避けながら進んでいくこと約1分、ついにてっぺん辺りにまでやってきた。一番上はまるで積乱雲のように葉が生い茂り、緑色の玉を作っていた。
ウェズはぐるぐると木の周りを回りながら状況を伝えてくれている。何かあるとすれば、この葉の中だろうか?───そんな俺の考えを感じ取ったのか、一度近くの枝にとまったウェズは、慎重に葉の玉の中へと体を滑り込ませていった。目が傷つかないように目を細めているのか、少し狭くなった視界から葉っぱが見えているだけで、特に何も無い。
そして、そのような思い込みは良くない、物事は最後まで見てから判断すべきだという事を次の光景が教えてくれた。
「これは・・・どうなってるんだ?」
「葉っぱが、内側だけ無い・・・いや、内側だけ取られたって感じかしら。」
「明らかに不自然だもんね。この開き方は。」
「え?なになに?何かあったの?」
視覚共有で繋がっていないイリーナには訳の分からない会話だろう。簡単に説明すると、葉の玉の中が、誰かが意図的に葉っぱをむしって空間を作ったようになっているのだ。結構な広さの空間がぽっかりと空いている。そしてそれは、外からでは全く分からなかったわけで。
「人間じゃないわよね?」
「さすがにこんな高い場所に登れる人間がいるとは考えにくい。」
「亜人なら飛べる種族もいるけど・・・」
そうか、亜人路線もあるのか。なんていう考えは、次に視界に飛び込んできたもの、正確にはウェズが見たものによって掻き消された。
「え?なにこれ・・・」
「鳥の巣かしら。ほら、あそこに卵があるわ。それにしては大きすぎる?」
「なぁ・・・俺この感じ、既視感あるんだけど。」
同じように木の上で。同じような見た目の巣で。同じように卵があって。そして物凄く関わりの深いやつだ。
「あれ、多分精霊の巣だわ。それも、ウェズと同じタイプの。」
「・・・もしかして、ウェズの巣もあんな感じだったの?」
俺は無言で首を縦に振る。もし本当にあれが精霊の巣だとしたら、早くウェズを戻した方が良いな。良いんだが、でもどうやって伝えよう・・・?
───ガァァァッ!
バリ盆地全体に響くような太い鳴き声。リーアの感じた強い威圧感。俺の感じた強い闇の魔力。その全てがこの巨木のはるか上空から迫ってきた。
と同時にウェズが動いた。入る時よりも素早く、少し慌てているようにも見える挙動で葉の玉の中から脱出し、そのままの勢いで降下し始めた。
「きゃぁぁっ!!無理無理無理無理!こんなの見れないぃぃぃ!」
テイルが悲鳴とともに目を瞑り、うずくまってしまった。俺もそうしたいぐらいだが、何が起きているのかを確認しなければいけない。何mかも分からない、地上が見えないような位置から一気に下りてきたウェズの姿が見え始めたのはそれから十数秒後。───そしてそれに続き、見たくないものが見えてきた。
「クワ!」
「お疲れウェズ!俺の中隠れてろ!おいテイル、戦うぞ!」
「ふぇ・・・」
顔を上げたテイルは、そのまま固まった。
「どうする?ウェズが仲間になった時と同じ流れになる気がするんだが。」
「でも、明らかに敵意剥き出しだよ。攻撃されるぐらいなら倒さないと?」
「はぁ、やるか。また仲間が増えるかもしれないけどな!」
―――ガァッ!ガァァッ!
ヘイルさんの精霊大図鑑で見たあいつだ。図鑑のとおり、黄色い目に真っ黒な体、黒光りする羽。鶏冠ではなく、白い螺旋状の角が一本。真っ黒な尾羽は長く、先端にかけて暗い紫へとグラデーションがかかっている。感じる魔力量からしても間違いないだろう。
恐らくこいつに普通の魔法を放っても、ウェズの親と戦った時のように弾かれるのがオチだろう。ということで、やる事は決まっている。
「リーア、俺が光魔法で弱らせるから、戦闘訓練だと思ってやってこい。」
「いや、弱らせる必要は無いよ。ボク一人で十分だ!うりゃっ!」
いつのまにかナックルダスターを両手にはめていたリーアは、がんがんと両拳をぶつけてから、俺の援護を拒否して黒翼の精霊めがけて跳んでいった。今は昼間なので月が出ていない。つまり月光の祝福を受けられないのだが、大丈夫だろうか?・・・まぁ月を出すことはできなくないのだけど。
「はっ!やっ!こっち!」
がん、がん、がいん!
リーアは一度精霊の頭上から後ろまで回り込み連撃を加えたが、一瞬で反応した精霊の翼に弾かれてしまった。重力には逆らえず、次の攻撃を入れることは叶わずに地面に戻ってきた。
「もう一回!」
───ガァ
リーアが飛ぼうとしたその時、精霊がカパッと口を開けた。あの構え・・・光線だ!
「リーア!避けろ!」
と俺が叫んだ時にはもう遅く、リーアの体は地面を離れていた。さすがにそこから物理法則を無視して方向転換できるような異能力者ではないことは、誰でも知っている。リーアと光線が触れ合うまで、あと0.5秒。
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