154.整備
忙しい・・・
少しすると、店の裏から汗だくのあのおじさんが出てきた。また武器でも作っていたのだろうか。というか、店と同じ建物の中で生産しているんだな。
「おぉ!ハルカ様!テイル様も!えっと、そっちの君は・・・」
「ボクもあなたと同じで、あいつらに囚われていたんです。この間、冒険者になりました。」
「そうだったのですか!・・・えっと、それで、何かご用ですか?」
「はい。実は、剣の整備を頼みたいと思いまして。」
「そういうことなら喜んで!ついでに、色々機能を追加してもいいでしょうか?少しお高くなってしまいますが・・・」
「え?あぁ、大丈夫ですけど・・・。何日ぐらいかかりますかね?」
「まあ1時間ってところでしょう。」
なんだ、1時間かかるのか。それまで剣無しで生活するのは少し不安な部分もあるが、まぁ仕方な・・1時間!?え!?そんな早くできちゃうの!?
「今すぐやらしていただいても?」
「え、でも他のお仕事・・・」
「ハルカ様の為なら、構いませんよ。」
「では、お願いします。」
無限収納から剣を取り出して渡す。いつもは鞘から抜きながら取り出して、すぐに戦えるようにしているが、さすがに鞘に仕舞ったまま渡す。すぐにやってくれるなんて本当にありがたい限りだ。おじさんはすぐに裏に戻っていった。
「この店にある武器は全て彼が作ったものなんです。良いものを素早く作るので、大量に在庫があったんです。彼が行方不明の間はそれのお陰で大丈夫だったんですけど、そろそろ作り置きも無くなってきていて危なかったんですよ。何度も他の職人を探そうと思いましたし。」
「そんなに溜めていたんですか・・・」
「この店が続くのも、ハルカ様のお陰です。本当にありがとうございました。」
「いえいえ。」
俺の剣の整備が終わるまで外にいても良いのだが、リーアが目をキラキラさせて店内を眺めていたので、中にいることにした。
「ハルカハルカ!これカッコイイ!」
リーアが見ていたのは壁にかかっている剣だ。剣身全体が青く光り、柄の装飾も凝ってある。誰がどう見ても良さそうな剣だ。俺もああいうのは欲しいが、高いうえに振ろうとすると重かったりするんだよな、ああいうの。
そもそもリーアは剣を使わない。憧れたところでそこ止まりになってしまうのに、格好いいものには惹かれるのだろう。
「あ、ハルカ、回復薬ってあとどれくらい残ってる?」
「えーっと、1、2、・・・8本。魔力用は4本だな。」
イディアさんが言っていた、月光の祝福発動中に受けたダメージが祝福解除後の少ないHPにのしかかる危険性。そういうときの為に回復薬を持っておくのが良い。まだ試したことは無いが、俺が回復魔法を使えるようにするのも重要なことだ。
「じゃあ買わなくていいかもしれないわね。」
そんな事を話していると、リーアが服の裾を引っ張った。
「───ハルカ!ボクこれほしい!」
「ん?」
リーアが持ってきたのは、ナックルダスターだ。金属製の武器で、輪っかに指を入れて握り、その金属で殴るためのものだ。攻撃力は上がり、使用者の手への負担も軽減してくれる。メリケンサックなどとも言われる、あれだ。
ただこのナックルダスター、少し気になる点がある。
「すいません、店員さん。」
「はい。何か?」
「これ、どうやって作りました?」
「どう、と言われましても、私が作っている訳では・・・」
「そうじゃなくて。これは狙ってこんな風にしたんですか?」
このナックルダスター、闇属性の魔力を感じるのだ。
「あぁ、こちらの商品は、失敗作だと言っていましたね。あそこの棚に並べているものは、火属性が付与されています。しかしこちらの商品は、なぜか火属性付与が上手くいかなかった、と。ですが、普通のナックルダスターとしは使えますので、お値段を下げて置いています。」
なるほど。確かに棚のものと比べて、リーアが持ってきたものにだけ『値下げ』と札がついている。火属性のものとしては不良品だが、たまたまできたとはいえ闇属性なんて更に貴重だ。恐らく、第二魔法が使えないと闇属性が感じられないのだろう。それで値下げなんて、最高の掘り出し物じゃないか。
「リーア、これが欲しいのか?」
「うん!ボク、戦闘方法が打撃だからさ、こういうの欲しかったんだよね〜!」
「よし、じゃあ買うか。いい物見つけてきたな。」
「本当!?ありがとうハルカ!」
リーアにお金を渡し、店員さんにお会計を頼む。その間にテイルを近くに呼び、闇属性が付与されている事を耳打ちする。テイルと俺は、申し合わせたように同時にニヤッと笑ったのだった。
特に買うわけではないが、色々な武器を見ているのは面白い。1時間なんてあっという間に過ぎていった。
おじさんは本当に1時間で戻ってきた。渡された剣は見た目は特に変わりないが、綺麗にはなっている。何か色々と付けたらしいから、10万いくかどうかだろう。お金はあるので、払えなくなることはないのだが。
「簡単に、追加させて頂いた機能の説明を。調子に乗って色々とやってしまいました。」
多分この人、そうとう凄い鍛冶職人なのだろうが、俺にはまだよく分からない。持ってみても重さや振りやすさは変わっていない。
「えーっと、まずこの剣は魔法適性があるものでした。ただ、魔法適性のある物から魔法を発動する時には、体からの発動と比べて、絶対にタイムラグがあります。そのタイムラグ、つまり剣の魔力の行き届き易さを高めました。
次に、熱変化への耐性と衝撃への耐性を高めました。
次に、任意で、斬った相手へ麻痺効果を付与できるようにしました。
最後に、木属性と力属性の魔法を駆使して、壊れた際の自己修復機能を付けました。」
ほう?簡単にまとめると、魔法発動が早くなって、硬くなって、任意で麻痺効果を付与できて、壊れても勝手に直ると。―――いや凄すぎないか?そもそも麻痺とか自己修復とか出来ること自体驚きだし、それを1時間で終わらせるってとんでもないな。
「それで、何シェルぐらいですか?」
「72000シェルです。少し高くなり過ぎてしまいました。すいません。」
「いえいえ!これだけやってもらって、10万超えないのはありがたい方ですよ!」
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