146.ユグドラシル
発想力をください・・・
―――クァッ!
産まれた精霊の子どもをルイルとリーアが撫で回していると、急に鳴き、一瞬二人の動きが止まったところをスルッと抜けた。一度床に落ちたが、すぐに飛び上がった。
というか産まれて数十秒で飛べるのか。流石は精霊といったところか。
パタパタと銀色の翼を羽ばたかせ、向かった先は俺の肩だった。
「にゃぁ〜!ハルカ!なんで取るの!」
「取ってねえよ!というかリーア、お前狼だろ!何で、にゃぁ〜、なんだよ!」
「何でハル兄のところに行ったです?」
そう、それが分からないと駄目なのだ。でなければ、数秒後に俺はリーアにズタズタにされてしまう。リーアの手から離れたのは、撫でられ過ぎて迷惑だった、と言えるかもしれないが、何故俺のところに来たのだろう。テイルもへイルさんもいるのに。
「それは多分、ハルカ君のMPがこの中で一番多いからじゃないかしら?精霊は魔力そのものだから、ハルカ君の魔力に反応したんだと思うわ。」
「何それ!?じゃあMP0のボクは・・・」
「リー姉、どんまいです。」
「まあとにかく、飛べるわけだし、放しても大丈夫だろ。」
「そうね。」
銀翼の精霊を肩に乗せたままバルコニーに向かう。後ろの方でリーアとルイルがわーわー言っているが、テイルとヘイルさんが上手く抑えてくれている。
「ほら、行きな。」
肩から優しく外し、飛んでいくのを促すようにヒョイヒョイと手を動かす。
しかし、いくら待っても飛んでいく素振りがない。
「ほら、行けって。お前の好きなところに飛んで行けよ。」
すると、翼を広げ、バサッと飛び立った。バルコニーから部屋に戻ろうと背を向けると、左肩に何かが当たった。
「ん?」
左を向くと、頬に嘴が刺さった。
「クアッ!」
「いや行きたい所に行けとは言ったけどさ・・・」
俺の言葉を理解していたのかどうかは分からないが、仮に理解していたとすると行きたい場所は俺の肩か。これは困ったな。短時間でここまで懐かれるとは思わなかった。
その時、俺はある現象を思い出した。アヒルなどで見られる、刷り込み、という現象だ。ヒヨコは卵から孵って最初に見たものを親鳥と認識するらしく、人間も例外ではない。仮にこっちの世界の、しかも精霊にその現象が当てはまるとすれば、今の状態も説明できる。
孵ってから最初に見たのは一番前にいた俺だ。しかも見つめ合っていた。あれが原因かもしれない。
「お前、俺と一緒にいたいか?」
「クァ!」
「はぁ、仕方ないか。」
そうして俺は、肩に精霊を乗せたまま部屋の中へ戻った。
皆に事情を説明し、まあ仕方ない、という結論になった。リーアは『ハルカだけズルい!』とか言っていたが、完全に慣れればいくらでも撫でさせてくれるだろう。
「ねぇ、名前は付けないの?」
「あー、そうだな。どうする?」
「銀色の翼だから、ギンとかどうです?」
「ちょっとそのまま過ぎるよ。ボクは、リューズとか、そういう名前の方が良いと思うな。」
「リューズねぇ・・・もっと可愛い方がいいわよ。シェイラとかどう?」
ルイル、リーア、テイルがそれぞれ案を出してくる。もっと特徴を掴んでいて、かつカッコイイ名前は無いかな・・・
「ヘイルさんは、何かありませんか?」
「私は、ハルカ君に任せるわ。」
どうするか・・・。そういえば、北欧神話の中で、ユグドラシルっていう木の一番高い枝にとまって輝き、ユグドラシルの灯りとなっていた鶏、ヴィゾーヴニルっていうのがいたな。
何故そんなことを知っているかと言われたら、世界中の神話を見ていた時に知った、としか言えない。昔の俺に他の事に時間を裂けと言いたいほどに、色々なものを見ていた。
この精霊は見た目は鷹に近いが、鶏冠がある。そして、産まれたときに光っていた。卵を見つけたのも木の一番上だ。結構良いんじゃないか?
ただ、ヴィゾーヴニルだと言いにくいな。少しもじって・・・
「ウェズバニル、とか。皆どう思う?」
「ウェズバニル、良いわね!」
「くっ・・・悔しいけどハルカの方が良いね・・・」
「ハル兄、流石です!」
改めて考えるとネーミングセンスの欠片もないが、好評だったのでこのまま行こう。
「よろしくな、ウェズバニル。ウェズバニルだと長いな。呼ぶ時はウェズって呼ぶか。」
と言いながら指で首元を撫でる。すると突然、ウェズが光りだした。孵った時のような、青白い光だ。
「ハルカ!?なんかハルカも光ってるわよ!?」
「え!?」
自覚は無かったが、俺も同じ光を放っていた。何が起きているのだろうか。
少しすると光は止まった。そして、起きた変化について、ここにいる中で俺だけが感じ取っていた。確かめるべく、魔銅板を取り出す。
「―――やっぱりそうか。」
俺が感じていたのは、パーティーを組む時、つまり魂を同調させる時に感じるような体の内側から温まるような感覚だ。そして魔銅板には、こんな表示か現れていた。
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ウェズバニル
光属性、雷属性、風属性
獲得スキルなし
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ほう?疑問は二つある。まず、俺と同調し、魔銅板に表示が追加されたこと。そして属性について、雷と風だと思っていたのに、光属性まで表示されていることだ。
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