141.帰省
そろそろ話が動くかなぁ・・・動かしたいなぁ・・・
そういえば卵があったな。こっちが巣に近づいたから怒って襲ってきたのだろうが、倒してしまった。このまま放置しておけば、卵は温まらず孵らないだろう。
「なぁ、さっき見つけた卵、持っていかないか?多分親鳥が居なければ孵らないだろうし。」
「うーん・・・そうね。孵ったら、放しましょう。」
「じゃあ取ってくるか。」
そう言ってさっきの木に登るために森へ向かおうとすると、リーアが俺の横を通り越して行った。
「ボクが取ってくるから、その炎をどうにかしておいてよ!」
「あ、うん。分かった。」
今も炎は燃え続けている。だが、俺には弱く水を出す方法が無い。俺が使用可能な水属性魔法だと、ここら一帯が水浸しになってしまう。かといって、テイルの低位魔法では消えないだろう。
「はぁ・・・制御が効かないのも問題だよなぁ・・・」
無限収納から魔法辞典を取り出し、何かないか探す。―――これでいいか。
「消火!」
魔法を発動させると、さぁっ、と火が消えていった。
「魔法ってのは何でもできるな。便利すぎるぐらいだ。」
「いやそれは初めて見たやり方でもすぐにできちゃうハルカが凄いだけだから。MPもそんな数値ないから。」
テイルに突っ込まれてしまった。ちょうどその時、リーアが戻ってきた。腕にはあの卵を抱いている。
「これ良いよ〜。温かくて、スベスベで、気持ち良い〜!」
はぁ〜っ、と言いながら頬をすり寄せている。空中にハートが浮かんできそうだ。
「じゃあリーアが持ってるか?」
「うーん・・・本当は持っていたいけど、魔物が出てきたら戦うから、テイルが持ってた方が安全じゃないかな?」
「そう?それじゃ私が預かるわ。」
「確かにそうだな。」
テイルが卵を抱え、進むことにした。
ロンド領に入り、少し歩くと屋敷が見えてきた。
「あれが私の実家よ。」
「はえ〜・・・凄い大きいね・・・」
俺は来るのは二度目だが、やはり一軒の家といわれるとその大きさには驚かされる。
近くまで行くと、ゴツい体に鎧にを纏った門番の人がいた。
「テ、テイルお嬢様!?おかえりなさいませ!急に、どうされたんですか!?」
「ちょっとね。」
テイルが一緒にいるので前回のような緊迫シーンは無かった。前回同様、掛かっている魔法が解ける、緑色の光線を浴びる。インターホンを鳴らすよりも前に扉が開いた。恐らく門番の人が連絡してくれたのだろう。
「おかえりなさいませテイル様。おや、ハルカ様、お久し振りで御座います。えーっと、こちらの方もテイル様のご友人で?」
「そうよ。リーアっていうの。」
「リーア様。ようこそいらっしゃいました。」
出迎えに来てくれたのは執事のスミさんだ。リーアは布を取っているので獣人だと分かるが、門番の人もスミさんも嫌な顔をすることもない。
「スミ、皆を応接室に呼んで。今日帰ってきたのは、リーアを紹介するためだから。」
「かしこまりました。」
「こっちよ。ついて来て。」
テイルに連れられて応接室へと連れてこられた。勿論俺もだが、それ以上にリーアは緊張しているようだった。
すぐにムーディさんとヘイルさんが来た。
「おかえりテイル。ハルカさんも、よくいらっしゃいました。」
「ただいま。」
「お邪魔しています。」
「ハルカ君、久し振り。それと・・・テイル?それは何?」
「ん?あ、えとね、これはさっき見つけたの。魔物の卵なんだけど、親を倒しちゃったから孵るまで温めようって。」
「そう。魔物の卵を持ってくるなんて、やっぱりあなた達は普通じゃないわね。」
あなた達って俺も入っているのだろうか。魔物の卵だって別に良いじゃないか。
少しして、飲み物を持ったグリルさんとアイリスさんが来た。
「アイリスさん、お久し振りです。お邪魔しています。」
「あら、テイルが帰ってくるなんてね。ハルカさん、いらっしゃい。娘がお世話になっています。」
「いえ、こちらこそ。」
最後にやってきたのはルイルだ。また魔法部屋にでもいたのだろうか。
「よし、全員集まったわね。それじゃあ早速・・・」
「テイル一回落ち着け。えー、皆さん。本日は急に、しかもこんな時間に連絡もせずに来てしまい、申し訳ありません。お気づきだとは思いますが、今日はこの獣人についてのお話です。」
「そう。私達の新しい仲間、狼の獣人のリーアよ!」
「リ、リーアです!よろしくお願いします!」
リーアが素早く深く頭を下げる。まだ緊張は解けていないみたいだ。まぁ仕方ないか。
「リーアさんというのですね。こちらこそ、よろしくお願いします。」
最初に反応したのはアイリスさんだ。続いてヘイルさん、ルイルも挨拶する。
「リーアさん。私達は別ですが、この国は亜人迫害の風潮があります。どうやってここまで?」
「あー、それに関してはお父さん。今ここにリーアが居るのは違法だから・・・」
「なるほど。分かりました。」
全員納得してくれたみたいだ。娘、妹、姉の仲間ということで、特に悪感情は無さそうだ。
「グリル、お二人が泊まれるお部屋を用意してちょうだい。」
「かしこまりました。」
「あ、アイリスさんすいません。」
「良いのよ。テイルのご友人なのだから。家族同然よ。」
「本当にありがとうございます。」
本当にこの家の人達は優しい。あんまり長く居ても迷惑だとは思うが、テイルにとっては実家だし、俺やリーアはルイルの相手を一日中させられる事になるだろうし・・・まぁ今はお言葉に甘えてゆっくりさせてもらおう。
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