136.異変
忙しい時期がやって参りました。投稿できない日が出るかもしれません。
「というか、リーアさんって、魔王軍との戦いの時、特別招集枠に入っていましたよね?」
「え?はい。」
「やっぱりあのリーアさんですよね!何故、冒険者に?」
「何故ってそりゃあ、そこにいるハルカに憧れてですよ!」
マジかそれ。なんだか嬉しいような少し恥ずかしいような気持ちだ。
「ハルカさんですか!・・・そういえば、何故ハルカさんはリーアさんと一緒に?」
「付き添いです。」
「仲がよろしいんですね。」
「えぇ、まあ。」
「ですが、獣人の冒険者って珍しいですよ。私はそれなりに長い間ここで働いていますが、今まで会ったことは無いですし。」
「他の種類の獣人は知らないけど、多分狼の獣人に関しては、ボクみたいに森から出る人はほとんど居ないと思いますけど・・・」
そう言われてみれば、街で見る獣人は、ネコ科だったり兎だったりで、狼は見たことがない気がする。その人達も、雰囲気が冒険者、という感じの人は俺の記憶の中では居ないかもしれない。
受付の人との話も終わり、教会に向かうために出口に向かおうとすると、リーアに引き止められた。
「どうした?」
「今日お昼ごはんを食べないで移動してたから、お腹空いちゃって・・・エヘヘ。」
今の時刻は34時になろうかとしている。森の中を走ってきているだろうし、腹ごしらえが先か。
「それじゃ、そこの食事処で何か・・・」
「それがね、一つ問題があって。」
「なんだ?」
「その、この間貰った報酬は集落に置いてきちゃってて、今、1シェルも無いんだよね・・・」
なんだろう、まるで昔の俺を見ている気がしてきた。別にお金に余裕が無い訳ではないので奢る事はできるが、街での知識がなく、お金が無く、住む場所も確保されていない、転生してきた当初の俺と全く同じだ。
今はリーアが信頼できるから優しくできているが、初対面だった俺に良くしてくれたテイルって、どんな気持ちだったのだろう。
リーアがお昼ごはんを食べている間、俺は面倒な事に気がついてしまった。お金がないという事は勿論住む場所の確保も、部屋を借りる事もできない訳だ。
とりあえず今日はホテルの方で空き部屋を借りてやるか。でも、明日以降はどうするか。明日以降もお金を出すというのも何なので、うちに泊まってもらう?―――もういいや。面倒な事はテイルと話そう。
そこでふと思い出したが、今日は三日月の儀式なるものがあったな。もしかして教会空いていないかな?
余程お腹が空いていたのか、黙々と食べ続けているリーアを置いといて、受付に行く。
「すいません、三日月の儀式ってあるじゃないですか。」
「ありますね。今日がその日です。」
「あれって、何時ぐらいまでやるんですか?」
「確か、40時とかだったはずです。」
「40・・・そうですか。ありがとうございました。」
つまりあと6時間ぐらい暇な時間があるという事だ。どうしようか。
――――――――――――――――――
三日月の儀式が終わるまで暇とかいう問題は、簡単に解決された。お昼を食べ終えたリーアとともに部屋に戻ってきた瞬間、眠っていた。二人とも動いていたので疲れていたのか、意図せず昼寝をすることになったのだ。
そして今、テイルが部屋の前に来たことに気付き、意識が覚醒したのだ。普段だったら気付かないはずなのに、もしかしたら本当に儀式で力が高まっているのだろうか。
がちゃ
「ただいまー。ハルカ、いる?」
「おかえりテイル。珍しいお客さんもいるぞ。」
「誰?」
玄関からリビングにやってきたテイルは、リーアを見るなり驚きと喜びの表情に変わった。まぁそのリーアは寝ているのだが。
「おい、リーア起きろ。」
ゆさゆさ
「ん?んむぅ・・・おはようハルカ。」
「リーア!私もいるよ!」
「お!テイル!」
「で、何でリーアはここに?」
「テイルテイル。じゃじゃーん!これを見て!」
そう言ってリーアが取り出したのは魔銅板だ。確かに説明の手間が省けていい。
「魔銅板?もしかしてリーア、冒険者になったの!?」
「そうだよ!ボクは今日から、冒険者になったの!」
どやっ、とほぼ無い胸を張るリーアは、その身長と相まって可愛らしい。まぁそれも戦闘時以外だけだが。
「なったは良いんだけどな、まだ職業が無いんだ。成人の議を受けられる年齢だから教会に連れて行こうと思ってたんだけど・・・」
「あ、それなら、もう儀式は終わっているから教会は使えるわよ。今から行きましょうか!」
――――――――――――――――――
教会の中は儀式に使っていたのだろう、様々な装飾が残っている。テイルによると、今日一日は外さないらしい。
この教会の責任者のおじいさんがリーアの対応をしてくれた。
「では、そこに跪て、『私は17歳です。』と、心の中で念じ続けていてください。」
「分かりました。」
リーアの成人の議が始まった。教会まで歩いてくる途中に聞いた話なのだが、狼の獣人は基本、森から出ないで暮らすので、成人、未成年という概念が薄いのだという。わざわざ街に出てまで成人の議を受ける事も無く、そのまま暮らしている人が殆どらしい。そんな中、集落を出て冒険者として生きていこうとするリーアの決断はなかなかのものだな。
その時、リーアの体に異変が起こった。体が青白く光り、月の光を浴びていないにも関わらず【月光の祝福】が発動して姿が変わった。俺やテイルは勿論、おじいさんも驚いていた。が、おじいさんが止めなかったので、そのままにしておいた。
光が収まり、祝福が解けてから、5分程で終了の声が掛けられた。
「さっきのはきっとあれね。やっぱり神様の力が高まっているんだわ!」
「そうかもしれませぬな。こんな事は今までありませんでした。何が起きたのか、私にも分かりませぬ。」
「リーア、職業は何になった?」
本当は自分の職業を感じることができるのだが、今は魔銅板がある。こっちを確認すれば、視覚的に把握することができる。
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