121.武器職人
規則正しい生活を心がけましょう。
「もしかして、ハルカ様ですか?」
声の主は客車の窓から顔を出し、俺に話しかけている。どこかで聞いたことのある声とどこかで見たことのある顔。だが、誰だったか・・・
「やっぱりハルカ様だ!お忘れかも知れませんが、あの時地下で助けて頂いた者です。ほら、グルシュ王国で。」
「あぁ!あの時の!」
そう、ブラッドベムの地下基地を襲撃したときに救い出した、武器を作っていたあのおじさんだ。何故こんなところに居るのだろうか。
「あの後数日、やれ検査だのやれ質問だの、グルシュ王国で軟禁状態だったのですが、それが終わったので故郷であり住んでいたナシヤットに帰ろうとしたのです。そしたらそこに、魔王軍騒ぎですよ。ようやく、帰れるんですよ。」
「そうなんですか。」
というより、ナシヤットに住んでいたのか。グルシュ王国に何かで行った時に運悪く拉致されてしまったのだろう。よっぽど運が悪いらしい。
―――!
「ハルカ様は、どうして・・・どうされたんですか?」
「ハルカ!」
木の上からテイルが呼び掛けてくる。分かってるっての。
「御者さん、魔物が近づいてきています。倒してしまって良いですか?あなたは、念のため顔を客車の中へ。」
「ま、魔物ですか!?あなた、大丈夫なんですか!?」
「えぇ。任せてください。」
御者さんに向かって安全アピールをするが、手綱を握る手には力が入り、いつでも走り出せるようにしている。俺の強さが信用されていないという事は、俺の事を知らないのだろうか。ヤミと一緒に居るという事は、ナシヤットから離れていたギルドの送迎職員だろうか。それなら仕方も無いが。
―――ギェッキィッ!
さぁやって参りました。お馴染みのアイツが。俺はパウパティを引き寄せる体質なんだろうか。真っすぐ向かってくる敵は、いくらスピードが速かろうと格好の的だ。ちょうど良いし、テイルに披露するためにもここはひとつ、あれを使うとするか。
「塊輝!」
俺の掌から放たれた低位魔法は、俺の狙い通り、吸い込まれるようにして一直線にパウパティまで飛んでいき、その体を貫いた。光の球が通ったパウパティは一気に生気を失い、白い毛の塊と化した。
「テイル、今のが第二魔法の光属性、基本の低位魔法だ。綺麗だと思わないか?」
「そうね。良いわね、第二魔法。」
俺とテイルがそんな呑気な会話をしていると、しっかりと手綱を握りつつ体を縮こまらせて両手で自分を抱いていた御者さんが、ゆっくりと元の体制に戻っていった。
「倒した、のですか?」
「えぇ。あ、これは回収しますね。」
そう言ってパウパティの死体を無限収納に仕舞う。御者さんは目の前で起きたことが信じられないらしく、パウパティが倒れていた地面と俺を順番に見ている。まぁそういう反応も当たり前か。
「流石ハルカ様ですね!私を助けて頂いた時も、まさかあんなに強い奴らの溜まり場に突っ込んでくるなんて、普通出来ない事ですよ。」
「あ、ありがとうございます。」
「私は、ナシヤットの武器屋で武器職人として働いていますので、是非いつかいらしてください。それでは。」
「はい。お気を付けて。」
それだけ話し、ホーセ車はナシヤットに向けて走り出した。ナシヤットにある武器屋なんて一つしか知らないが、まさかあそこだろうか。それとも、まだ知らない武器屋があるのだろうか。
――――――――――――――――――
休憩しようとしていたが、森の出口まであと少ししかないことに気づいたので、休憩は無しにまた走り始めた。十数分後には、フェルミに着いた。
フェルミに着いたは良いが、目的地はさらに奥だ。街を突っ切り、さっさと砂漠に入ろうとした時、俺は急に思い出した。
「そうだテイル!テントを買っていこう。今日中に3匹見つかるとも限らないし、いちいち戻って来るのも面倒だ。かといって砂漠での野宿は最悪だからな。」
「テント?良いわよ。今後も使いどころがありそうだしね。」
それからホームセンターのような店を探し、4人用の少し大きめのテントを買った。重力魔法がかかった魔道具で地面に固定される仕組みで、絶対に吹き飛ばされないという。そのテントを無限収納に仕舞い、砂漠へ向かう。
今回の討伐対象のスカラピアは、結構砂漠の奥のほうまで行かなければ出現しない。数時間は砂漠を進み、昼ご飯として携帯食を口の中に放り込み、魔力探知に集中する。
―――見つけた!
「おいテイル、一匹見つけたぞ。」
明らかにサソリの形をした魔力の塊を発見した。スカラピアだ。
「本当!?さっさと倒しに行きましょう。」
俺は一度戦っている為どんな能力があるかは知っているし、テイルは本で読んだことがあるらしい。今回の作戦というか戦い方は、テイルが俺を操り、空中戦を仕掛けるつもりだ。といっても、出会った時点でスカラピアに未来は無し。俺が飛ぶのはただ飛びたいからだ。
「テイル!頼んだ!」
「よい、しょっと!」
テイルの手の動きに合わせて俺の体が地面から離れていく。このスキルはこっちが抵抗しない限り緩まることはないので、高所から落とされる不安はない。
スカラピアもこちらに気づき、空中に居る俺にはさみを向けて威嚇してきている。
「悪いが、そんなに時間を掛ける気もないんでね。塊輝!」
先ほど同様、光の球はターゲットの体を貫くとともに、ダメージが入る。・・・と思っていたのだが、流石は伸縮自在のスカラピア。簡単に避けられてしまった。
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