120.どうせ暇だし
誤字報告ありがとうございました。
今後もよろしくお願いします。
次の日の朝、朝食を食べ終えた俺達は、特にしなければいけない事も無く、だらだらするのもあんまりだという事で依頼を受けることにした。別に貯金が無い訳ではない。むしろ大量にあるぐらいだが、やっぱり依頼を受けることが楽しいのだ。
受付に行くと、依頼を選ぶ前にCランクへの昇格を言い渡された。どうやらお偉いさんからも承諾が出たみたいだ。普通の冒険者と比べれば、とんでもないスピードでランクが上がっているんだろうな。まぁ高ランクの方が受けられる依頼の幅も広がるし、報酬も高いから悪いことはないんだが。
「それじゃあ、魔銅板の提示をお願いします。」
「はい。」
魔銅板を返してもらい、一緒に依頼リストを渡された。
「なぁテイル、これとかどうだ?」
内容:スカラピアの討伐3匹以上、場所:シィ砂漠、依頼主:ギルド、報酬:1匹につき2000シェル
シィ砂漠とは、ここナシヤットからスレム大森林の反対側の街、フェルミの北東にあるグルシュ王国に行く途中に通る砂漠だ。恐らく急いでも帰ってくるまで二日、三日かかるだろう。だが、俺としてはそれぐらいが丁度良い。
「良いわよ。でも、シィ砂漠って遠いんでしょ?」
「そうだな、結構遠い所だ。三日ぐらいは掛かると思うけど、どうせ暇だろ?」
「まぁ、そうね。」
「じゃあ決まりな。すいません、これお願いします。」
「スカラピアですね。では、頑張ってください。3匹以上の討伐が達成条件となりますので、お気を付けください。」
気を付けて、というのは、依頼は未達成のままだと罰金を取られてしまうからだ。確実に3体以上倒してこなければいけない。
「よし、じゃあ早速向かうか!」
――――――――――――――――――
シィ砂漠に行くために、まずはフェルミを目指して東の森の中を進む。北のピソイム平野を北東に突っ切っていけば直接シィ砂漠には着くのだが、森の中を通れば、俺の動きの練習やテイルのスキルの練習になる。
「ハルカ!これ遠方移動で頑張っていた時よりも凄く楽よ!」
テイルは両手で枝を引っ張りながら小さな隙間をするすると通っていく。その動きは滑らかで、しかも速い。俺が本気を出して枝の上を渡り、やっと付いて行ける程だ。
「ほらほらハルカ!遅れてるわよ!」
「こっちは、スキルなんて、使わないで、やってんだ!本当に、辛いん、だからな!」
「はいは〜い。頑張ってねぇ〜。」
扱いに慣れてしまえば、腕が伸びたようなものだ。しかも、今より難しい状態で動いていたのだから、今は余裕なのだ。その姿はまるで、木々を飛び移りながら移動するパウパティの様で・・・
嫌な事を思い出してしまった。そうだ。この森に来る度に、何故か必ずヤツは来る。今のところ魔力探知に反応があるのは地面に居るスライムやスライフだけなので放っておいたが、いつアイツが来るかは分からない。
「テイル、一回休憩にしないか?もう2時間近く本気出しっぱなしなんだけど・・・」
「何?もう疲れたの?」
「いや、動けはするけど、そんなに体を追い詰める必要も無いだろ?」
「まったく、ハルカも体力づくりが必要ね。」
「お前は砂漠じゃ進めないくせに、よく言うな。」
「!」
テイルの顔に焦りの色が見え始める。そう、今テイルが物凄いスピードで移動できているのは、周りに木があるからだ。砂漠に限らず、何も無い場所では今のスピードは発揮できないのだ。
「し、仕方ないわね。休憩にしましょう。」
するとその時、俺の中の何かが反応した。といっても、魔物の反応ではない。そもそも魔力探知の反応ではないな。
「テイル、ちょっとこっちに。」
そういって俺は木を伝い、少し左の方へ向かった。すると、反応の正体が分かった。
「何?何かあるの?」
「ほら、これに反応したんだ。」
後ろから追ってきたテイルに、下の方、すなわち地面を指さして言う。そこは、少し拓かれて簡単な道となっている場所だ。前にホーセ車の護衛をした時に通った道だ。つまりこの道はナシヤットとフェルミを繋いでいるわけだ。
カラカラカラカラ・・・
―――ん?何の音だ?
その疑問は、すぐに解消された。フェルミ側からホーセ車がやってきたのだ。
魔王軍の襲撃から逃れていた人が戻ってきたのだろうか。わざわざ魔王軍騒ぎのあった街に旅行に行こうと考える人なんていないだろうしな。
カラカラカラカラ・・・
ホーセ車はだんだんと近付いてくる。ふと、そのホーセに目を奪われた。その綺麗な毛並みと深い黒に惹かれた、というのもあるが、それ以上に見覚えがあるのだ。あの綺麗な毛並み、すっとした体、そして美しい顔。ヤミだ。ホーセの世話をした時に担当していた、ヤミだ。といっても俺が勝手に名前を付けただけだが。
俺はたまらず木から飛び降り、御者さんに話しかける。
「すいません。この子、ナシヤットのギルドで育てている子ですよね?」
「そう、ですけど・・・あなた一体どこから?」
「木の上です。それより、前にこの子のお世話をしたことがありましてね。」
そう言いながら、ヤミの首を撫でる。俺のことを覚えてくれているのか、人間慣れしているだけかもしれないが、ヤミも嬉しそうに鼻を鳴らしている。
「そうなんですか。でも、すいません。今は仕事中ですので。」
「あ、そうですよね。すいません。」
俺がヤミから離れようとすると、ヤミが引っ張っている客車の窓から、聞き覚えのある声が話しかけてきた。
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