110.月光
日本語の難しさを感じたYOPPYです。
今の遠吠え・・・リーアの声か?いや、少し違ったか?―――頭が回らない。まぁ、このまま殺されるだけだ。死ぬのは何故か怖くない。あとは、ニックに託すしかないか。
「眠れ。」
大鉈が振り下ろされ、俺の頭を潰・・・さなかった。大鉈を振り切る前に、バルべリスの体は数m先まで飛んでいった。
ゆっくりと目を開けると、そこに居た、俺を助けたヒーローは・・・
「ハルカ大丈夫!?」
「ハルカさん!まだまだですよね!」
「ボクも来たよ!」
テイルと、えーっと、そっちの二人は誰?
「ハルカさん!起きれますか?」
そう言ってきたのは、長細い狼の顔、綺麗な紫の目をし、茶色の毛をたなびかせる、・・・いやホント誰!?
「あ、ゼイアイディアですよ!ハルカさん!」
「あ、イディアさん!?」
それじゃ、もしかしてバルべリスの相手をしてる白い毛の方は・・・
「あれはリーアですよ。」
「そうですか。ハハ・・・」
「リーア!交代だ!ハルカさんを頼む!」
そう言ってイディアさんはバルべリスの方に向かっていった。いや、向かっていったというよりは瞬間移動に近い。速すぎるのだ。
代わりに、イディアさんより小さく、白い毛と金色の目をしたリーアが来た。
「ハルカ、最初ボク達のこと分かんなかったでしょ?」
さすがに無理があるだろ。これが、前にチラッと言っていた姿なのだろうか。月を見てのパワーアップ。上手く扱える人も少ないって話だったな。
「ハルカ、酷い怪我・・・どう?動ける?」
「いや、ちょっとキツイな。左肩と背骨がやられてて、全く動けない。魔力も上手く動かせないんだ。」
「おっとぉ・・・それは予想以上に大変そうだね・・・。分かった。じゃあ、とりあえずアイツの相手はボクとイディアでやるから、テイルに救護班の所まで連れて行ってもらって。」
「あぁ、すまないな。アイツ、瞬間移動、というか、移動が凄く速いから、気を付けろ。」
「うん、じゃあ、行ってくる。」
リーアもすごいスピードでバルベリスの方に向かって行った。今の二人がどれ程強化されているのかは知らないが、任せても大丈夫だろう。数秒して、テイルが走ってきた。
「はぁ、まったく、よく生きてるわね。」
「動けないけどな。」
俺はテイルに連れられて前線から引いた。意識はあるし、骨がぐちゃぐちゃなだけなので、回復促進で回復したらすぐにでも戦線復帰できるように、門の傍で横にならしてもらった。救護班は重症者としてギルドの建物まで連れて行こうとしていたが。
――――――――――――――――――
「お前ら、何故亜人が人間の味方をする?関係ないであろう?」
「何故ってそりゃあ、手伝いだ。」
「ボクは恩返し、かな。」
前の姿からは想像もできない、美しくもどこか恐ろしい雰囲気を漂わせる姿の獣人二人と、黒いオーラをさらに濃くしたバルベリスが向き合う。
「イディア、動きが速いらしいから、気を付けて。」
「今の姿なら、問題ない。そうだろ?」
「だね。行くよ!」
二人が足に力を入れた瞬間、既にバルベリスの目の前にリーア、後ろにゼイアイディアが居た。
「おらぁっ!」
ばきっ
ゼイアイディアの拳がバルベリスの背中に入る。が、鎧に弾かれてダメージは入らない。しかも、バルベリスも微動だにしない。
「犬が・・・調子に乗るなぁ!」
ぶん!
振り回された大鉈を避けるべく、後ろに跳ぶ。特にリーアは遠くまで低空を後ろ向きで跳ぶ。そして、
「これあげる!」
ババババババババン!
跳びながら空中で何十発と魔動弾が発射される。ハルカから貰った魔力銃も、上手く使いこなしているようだ。
「くっ・・・」
ガンガンガン、ガイン!
バルベリスは左腕でガードし、魔力の塊を受けきる。が、敵は一人ではないのだ。
「はぁっ!よそ見してんじゃねーぞ!」
今度は胴に回し蹴りが入った。流石にこれには堪え切れず、少し吹き飛ぶ。
鎧が地面に打ち付けられ、ガシャガシャとうるさい。
「チッ、面倒だな。月光の加護を受けるのはお前らみたいな犬ころであってはならないんだ!私こそ、恩恵を受ける立場にあるのだ!」
バルベリスが大鉈を月に向かって掲げると、鉈の先に黒いオーラが移っていった。
「死ね!」
ぶん!
鉈が振るわれ、そこから無数の闇の刃が放たれた。その闇は空間を埋め尽くしながら、二人の獣人に迫っていく。
二人とも冷静に、僅かな刃の隙間を潜り抜けて回避に成功する。そして、もう一度攻撃を開始する。
月光に浮かぶ深い茶色の毛と、月光を受けて輝く白い毛が、戦場を駆け回る。時折、バルベリスの死角から魔動弾が放たれるが、全て鎧が弾いている。弾いてはいるが、バルベリスの顔には少しずつ焦りの色が見え始めた。
「こいつら・・・っらぁ!」
ぶん!ぶん!
大鉈が振るわれる度に、闇の刃が放たれてはいるものの、二人は躱しつつ止まる気配を見せない。
「ふぅ・・・」
バルベリスが息を吐き、目を一度閉じる。頬は緩み、まるでここが戦場ではないみたいだ。―――そして、
どぉぉおん!
「うおっ!?」
「うわっ!」
ハルカにも使った衝撃波が、獣人の二人を弾き飛ばし、動きを止める。特にダメージはなく、着地も上手くいったので問題はない。
「死ね!」
ぶん!
すかさず振られた大鉈から、今までと比べ物にならないほど大きい闇が、鋭く音を立てながら二人に迫る。
大きいだけでたった一つなんて、簡単に避けられる。と、リーアもゼイアイディアも思った。しかし、それは甘い考えだった。
ばしゅっ
どん!
大きな闇の刃は、二人に近づくと爆発し、全方向に隙間なく闇の塊を放った。流石にこれは避けられるわけがなく、二人とも攻撃を受けてしまった。
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