109.狙い目
湿度が高いですね。熱中症には気を付けましょう。
今まで魔法を使ってきて、炎は掻き消され雷は無効化され重力は無意味に終わったが、吹雪を掻き消すときは動きが大きく、隙もできることが分かった。
なら、吹雪に紛れて突っ込む!
「射氷!陰隠!」
吹雪をバルべリスに放った後、効果があるかはわからないが隠匿魔法を俺の周囲の空間に掛ける。
「くそがぁぁぁ!」
バルべリスが吹雪を掻き消そうとして大鉈を構える。今だ!一気に後ろまで回り込む!
ぶぅん!
「超攻撃!おりゃぁっ!」
がきぃん・・・
「くそっ!」
大鉈で防御されることは無かったものの、やはり鎧に弾かれてしまう。どうすればあれを突破できるだろうか。
―――っそうだ!関節部だ!関節に当たる部分の鎧は、体を動かせるように僅かながら隙間が空いている。あそこを狙えば!
「もう一回!射氷!」
同時に回り込み、狙いを定める。
「しつこいんだよ!」
ぶぅん!
今だ!あそこの隙間にピッタリと刃を合わせて―――振り抜く!
ざしゅっ
「ぐわぁぁっ!」
よし!効いたみたいだ。ただ、刃が奥まで入らなかったのと、すぐに離れたせいか、致命傷とまではいかなかった。
「ふん、化けてくるか。なら、早めに殺すとするか。」
バルべリスが独特な姿勢で大鉈を構える。腰を落とし、足を開いた状態で、鉈を持った右腕は右肩に回し、左手を俺に向かって突き出している。どこか、歌舞伎の見得を連想させるようなポーズだ。
全身から黒いオーラが溢れてきて、周りの空気が揺れ始めた。
「こ、これは放置しておかないほうが良さそうだな・・・。塊炎!」
不死鳥の形をした炎は、真っ直ぐバルべリスに向かっていき、命中した。バルべリスとその周囲が燃え始め、火柱が上がった。―――が、炎を徐々に飲み込んでいくのは黒いオーラ。そして完全に炎が消えた時には、黒いオーラを大量に放つバルべリスがいた。
「おいおいマジかよ・・・」
「死ね、人間。」
バルべリスが右足を高々と上げる。
―――っ消えた!?
ばきっ!
・・・ずざぁぁ
振り下ろされた大鉈が、俺を左肩から右下に向かって砕き斬る。その勢いで数m吹き飛ばされた。
左胸から血が流れ、左腕が動かせない。左肩が折れたか砕けたか。痛みを通り越して何も感じないので、右手を使ってなんとか立ち上がる。
「何だ、まだ生きてるのか。それは素直に驚いたぞ。確かに、雑魚の中ではマシな方なのかもな。」
今の攻撃は何だったのだろう。一瞬にして目の前まで移動してきたのだろうが、全く見えなかった。仮に今の動きに長いタメが必要だとしても、炎を受けて無傷でいるのは何故だろうか。他の魔法も効くかどうか分からない以上、今の技への対処法は早めに考えなければ。
とりあえずは一度成功した攻撃を続けよう。攻撃は最大の防御だ。
「射氷!陰隠!」
吹雪がバルべリスを襲い、バルべリスは大鉈を振って吹雪を掻き消そうとする。
ピンポイントで隙間を狙って・・・
「超攻撃!」
ざしゅっ
「ぐぁぁっ!クソがぁっ!」
今度はさっきよりも少しでも長く、少しでも奥に剣を差し込む。
「ぐ・・・がぁぁ!」
ぶん!
「ふっ!」
バルべリスが大鉈を後ろに振るったところで、俺は後ろに跳んで躱す。今のバルべリスは大鉈を振り切って体制が崩れている。イケるか?
「もう一回!超攻撃!」
ざしゅっ
「チッ・・・」
バルべリスが舌打ちをし、表情が柔らかくなる。そして、
―――ドオォォォオン
「うわっ!」
バルべリスから放たれた黒い衝撃波が俺を吹き飛ばした。全周囲に向かって放ったそれは十数m先で消え、他の前衛班が湧き出てくる眷属や魔物と戦っている場所には届かなかった。
「もういい。勇者のこともある。本気を出すとするか。」
バルべリスが左手を空に掲げた。
―――ん?魔力反応?
そう、魔力感知に反応があったのだ。今まで一切魔力の気配が無かったバルべリスに、一気に魔力が宿ったのだ。
「おいおい、魔法は使わないんじゃないのかよ・・・」
俺の呟きに、バルべリスが反応した。
「そういえば、そんな事を言ったこともあったな。あれは、90年程前か?残念だが、それは嘘だ。」
そんな事を言いながら、ドンドンと高まっていっていた魔力が、一気に空に向けて放たれた。―――すると、昼過ぎだった空は、時間が進んだように、いや、本当に進んだのか、太陽が沈み月が昇ってきた。
「夜・・・?」
完全に夜の風景だ。後ろの方から困惑した声や、戦闘に集中するように喝を入れる声が聞こえる。
―――っ!
俺が今までに感じたことの無い程の強い魔力を感じ、急いでバルべリスの方を向くと、バルべリスの体からはさっきの瞬間移動の時よりも多いオーラが放たれ、鎧は月の光を受けて暗く緑色に輝いていた。
「この感覚・・・久し振りだ・・・。さぁ!人間!今回も街を潰してから帰らせてもらうぞ!」
「やらせねぇよ!」
「その勢い、続けばいいな。」
バルべリスがそう言った瞬間、何かを感じて横に跳び込もうとした。が、間に合わなかった。振り下ろされた大鉈が、俺の背中を地面に叩きつける。
「ぐぁっ・・・!」
背骨にもダメージが入ったみたいだ。このままでは、全身複雑骨折で動けなくなってしまう。それどころか、ニックも、テイルも、リーア達も、ナシヤットも無事では済まないだろう。
なのに、それなのに、体に力が入らない。これは本格的にマズい。
「ふん、やはり人間が我々に勝とうなど、不可能なのだ。勇者より先に寝てろ。後で奴も送ってやる。」
バルべリスの大鉈が頭上で構えられるのを感じる。絶断壁を張れば少しは時間稼ぎができるかも知れないが、体がおかしくなっており、魔力を上手く動かす事もできない。
―――その時、戦場に遠吠えが響いた。
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