104.アリタマ
沖縄県は梅雨入りが近いらしいですね。南北に長い日本ならではの特色・・・
一刻も早くギルドに帰る為に、俺は全力を尽くした。洞窟を猛スピードで進み、魔力の濃い方の道を選び、その都度地図を描いていく。
俺が本気で走り始めたので、テイルは『待って!』と言っていたが、無視して走り続ける。テイルはスキルで付いてきている状態だ。あまりスピードを出すのも狭い洞窟では怖いが、そんなことは言ってられない。
途中でイゼンポッドを2匹倒しながら洞窟を進んでいく。
―――!
「何か居るな。イゼンポッドとは違う、何か。」
「ええ。私も感じるわ。でも、どこかしら?」
近くに強い奴がいる。いや、いるはずなのだが、姿が見えない。絶対に近いはずだ。
―――っ!上!
「防御壁!」
魔力の壁に何か液体がかかった。と、同時に防御壁が溶け始めた。防御壁や絶断壁などの魔力の壁は、壁として物が存在するため、破壊できたり溶けたりするのだ。
「酸か!?」
5秒程で穴が空き、壁全体が消えてしまった。あの少量であそこまで強力な酸性なのか。
「ハルカ、下がって!」
少し立ち位置を後ろに下げ、戦闘態勢を取る。暗視と魔力探知への集中力を高め、空間認知能力を上げる。
何か魔力の高い奴が天井から落ちてきた。そいつはアリのように小さく、とても強そうには見えない。踏み潰してしまっても気付かないかもしれないぐらいだ。
だが、今の俺達にはあいつがどんな奴かが分かっている。
「出たな、ターゲット!」
「ハルカ!あいつがアリタマよ!さぁ、やっちゃいなさい!」
「お前も手伝えよ?」
ぼんっ!
軽く爆発したような音と共に、アリタマが巨大化した。だいたい3mぐらいだろうか。見た目を簡単に言うと、黄緑色の球だ。そして、クモのような赤い6つの目と、赤い唇をした巨大な口がある。はっきり言って不気味だ。
「塊炎!」
アメタマに向かって放った炎は、不死鳥の形になり、その巨体を貫・・・かなかった。アリタマが口から吹き出した黄緑色の液体、恐らく酸だろう。で掻き消された。
「くそっ!」
「炎じゃ駄目そうね。直接叩き込まないと!雷とか!」
「分かった。閃雷!」
バリバリィッ!
よし、当たっ・・・てない。小さく縮んで避けやがった。知能が高そうだな。
ぼんっ!
―――クシャァッ!
一瞬で大きさを戻し、アリタマが酸を吹き出した。今度は俺に向かってだ。体の大きさによって放てる酸の量が変わるのだろうか。
「遠方移動!」
「ありがとうテイル。」
更に遠くの方に避難していたテイルが助けてくれた。魔力を使わないで済んだのでナイスプレイ、と言っておこう。
「よし、一気に魔法を叩き込んでみるか。射氷!閃雷!もう一回、閃雷!」
―――クシィッ!バシィャァッ!
一瞬凍ったものの、すぐに体の酸で溶けてしまった。体の縮小は止めれたが、雷2発は発射された大きめの酸の塊に当たって止まってしまった。
剣で斬れば一発なのだが、剣が溶けてしまうというところがもどかしい。
その時、俺は閃いてしまった。
「テイル、草を生やす魔法ってあるか?」
「え?草?」
「草じゃなくても、有機物なら良いんだけど・・・できれば多めに。」
「魔法辞典を見てみないと分からないわ。」
「分かった。じゃあ、テイルが探しててくれ。俺があいつの気を引いておく。」
「分かったわ。」
テイルに魔法辞典を渡し、灯光で注意を引きながら反対側まで移動する。
「ほらほらアリタマ!こっちだこっち!塊炎!」
―――クシャァッ!
「ハルカ!あったわよ!」
アリタマを俺の攻撃の対応に集中させている隙に、テイルが探し終わってくれた。急いでテイルの所へ向かう。
攻撃の為に放たれた酸は、吹雪で相殺できることが分かっているので、安心までとはいかないが話していられるのだ。
「どんなやつだ?」
「インテリア用に、成長しない木を一本生成する魔法よ。ちゃんと生きているやつを。ただ・・・」
「ただ?」
「とてつもなく難しいと思うわ。」
「問題ない。やってみる。今度は、テイルがあいつの気を引きつけてくれるとありがたいんだけど・・・」
「任せて!逃げる事は上手いから!」
そういってテイルは、灯光を使いながら、スキルで洞窟の壁や天井を縦横無尽に動き回りだした。今のうちだ。
魔法辞典に書いてある魔法は、確かにとてつもなく難しそうだ。例えようのない魔力の動かし方と細かな操作が必要みたいだ。まるで、建築士が書く家の設計図の様な感じだ。
「ここをこうして、こうして・・・こう!麗樹生成!」
多大な魔力を使い、淡い緑の光が俺の手の間に生まれる。その光は徐々に大きくなり、そして・・・木となった。成功だ。
何故俺が木を欲しがったかって?そうだな。その説明がまだだった。相手は酸、つまり強い酸性だ。だからこそ剣や魔法が溶かされてしまう。ならば、アルカリ性の物を合わせて中和させれば、剣も溶けないのではないか?そういう事だ。そして、有機物が手に入った今、灰を創り出すことができるのだ。
「塊炎!」
木を燃やし、灰に変えていく。火力が強いので、良い感じの量になった。無限収納に仕舞って、と。さて、一回試してみるか。
「テイル!もう良いぞ!」
「了解!」
テイルが逃げるのを辞めるのと入れ替わりに、俺がアリタマに接近していく。―――酸の塊を飛ばしてくるが、絶断壁で防ぎ、更に接近!直接体に灰を振りかける!
―――クsYuァァ!!
灰を掛けた部分の体の色が変わり、ダメージを受けたみたいだ。直ぐに周りから酸が回ってきて治ったが、これならイケそうだ。
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