ラスト・エンペラー
「僕が彼女に依存している静電気を出しているから、
それが距離を超えて彼女の皮膚を感電させ、
深夜のラブコールを呼び寄せているのだろう、
と夢想する。」
そう、
こうした考えは夢想にすぎない。
未来が確定している、
という事実の前には、
夢想だ。
普通であれば、
夜みた夢、
昼にみる夢、
それらをあわせて夢想であるけれども、
僕にとって、
昼、
起きている世界こそ、
夢想に近く、
僕にとっては、
世界は幽霊にみえる時がある。
夢の中には、
小さい頃から繰り返す夢もある。
その中には、
この僕でさえ、
決して現実にはなりようがないと思う夢もある。
その一つは、
暗闇を逃げ回る自分から始まる。
濃い色の背広と革靴の男たちから、
材木が彼方此方に立てかけられた普請場のような裏路地を、
当て所なく走り回る。
その果てに、
思いがけず御影づくりの蹲にぶつかる。
全く光をかえさない黒い水面には、
天から水滴が落ちくる。
着水に音は伴わず、
何故か、
水紋は外周から中心へと沈んでいく。
その行き先へ魅了され、
脚がとまってしまったところを、
男たちに捕まってしまう。
強引だが丁重に連れていかれるのは、
見渡せないくらいに左右が広く、
見上げても頂上が見果たせないくらいの石段だ。
身振りで、
ここから先はお独りで、
と促され、
石段を上っていく。
どれほどの時間が経ったのか、
巨大な柱があり、
その中には無数の人々が集まっている。
つま先が柱と柱の間を越えた刹那、
群衆は割れ、
中央に一筋の道が現れ、
人々は平伏する。
九年前、
映画館で、
子供の溥儀が玉座に登るシーンをみた瞬間、
僕がいたのは、
繰り返されるこの夢の中だった。
そして、
最奥へと登り終え、
僕は振り向く。
眼前には無限に続く平伏した人々。
その「僕」は、
あの溥儀と同じ歳だ。