殺戮を隠すなら鏖殺の中へ
「すべてを」
と、一女子が髪を直しながら言った。
「すべてを殺せない時、彼らはどうすると思う?」
「?」
「失敗した時は、ね」
と、灯美子が話し始めた。
「自分が殺したよりも、いっぱい殺させるのよ」
「ナニ、ソレ!?」
「そうすれば、自分が被害者になるから」
と、レムが言った。
「木の葉を隠すには、森の中へっていうの?」
「うまいこと言うわね、さすがプラトンの末裔」
ノーラが一女子を睨んだ。
「その顔、彼らにはできないのよ」
「心がないから」
「正気も狂気もないの、ね」
「子供が鉛筆で計算するように、
ただしく殺戮するだけ」
「間違ったら、隣の子が邪魔をした、
煩かった、先生の教え方が悪かった、
鉛筆が、消しゴムが、紙が、親が、
そして、
この世の自分以外全てが、間違っていたから」
「そう、ね」
「ペイガンには、
狂気の歴史はないんだ」
レムは言った。
「人間は些細なことで、
喜び、怒り、愛し、楽められる」
「ペイガンも、
真似はするけれど、
それは擬態にすぎない。
人間は、
気が狂って初めて、
正気とは何かを知るんです」
幽霊のレムが揺れた。
「大丈夫?」
と、ノーラが言った。
「えぇ、少し、お腹が空きませんか?」
レムが美少年とも美少女ともとれる、
ここでは、
三人しかみえない顔で精一杯の笑顔を作った。
彼は、
彼が「主さま」と呼ぶ僕の心を思い出してしまっていた。
未来がみえる、
という事実を受け入れるために経なければならなかった気狂いの刻を。
それは、
人型の人ならぬ物が行う鏖殺の森よりも、
はるかに深緑だった、
レムにとって。
だからこそ、
「あちらは、ナポリタンだそうですから、
私たちはお蕎麦でも食べにいきませんか」
と、レムは笑顔で言うのだ。




