夫婦の肖像
アカーシャの一面は12キロある。
一辺が12キロある正立方体が空中に浮かんでいる。
12キロというと池袋から恵比寿くらいだ。
大雑把に言えば、
山手線の内側くらいの面積で、
高さが12キロもの物体が浮遊していられるのも、
霊子の応用らしい。
外見は、
色はなく、
鏡のようになっていて、
周囲の景色を反映しているというか、
光学迷彩のようになっている。
中は2000階建なっている。
人口は一フロアに約10万人。
全体では2億人前後が働いたり暮らしたりしているらしい。
あまりにも数が多すぎるというか、
僕が眠りにつく前の日本よりも人口が倍近くも多いなんて、
正直、
信じられない。
まぁ、
未来の夢をみるといっても、
映画の予告編かワンシーン、
それこそCMのように自分が体験した部分だけをみるわけで、
それも全てをみるわけでもなく、
覚えているわけでもない。
まさか、
100年後がこんな世界になっているなんて、
思いもしなかった。
でも、
僕が明日、結婚するために、
夢の中で歩いたあの神殿のような空間を歩いて行き、
その後、
起こることは明確に覚えている。
だからこそ、
僕はレムに最終的に問うた。
「レムは僕が眠る前までに視た夢を全部、知っているんだよね」
「はい、存じています」
「それでも、明日、結婚するべきだと考える?」
「はい、それが最善だと、私たちは考えています」
「BGさんも、同じなんだね」
彼は深く頷いた。
「そうしたら、」
「お部屋に移りましょうか」
「そうだね」
そうだった。レムは僕の代理人ソフトだ。
僕が考えることを事前に察知して行動してくれる。
レムが用意してくれたのは、
アカーシャの中央近くにあるこぢんまりとしたメゾネットの部屋だった。
白で統一された部屋の中は、
まるで1980年代のようだ。
窓から見える景色も、
屋内とはいえ、
公園や街路樹、商店、民家など、
まるで僕が子供の頃を過ごした世界に良く似ている。
二人は僕を安心させようとしいるのか、
とても笑顔で、
あとは彼女がお世話をします、と言い残して去っていった。
現れた女性は小柄だけれども、
9歳まで退行してしまった僕よりも、
20センチ以上、背が高い。
見上げるというか、
見下ろされるというのはこういう感覚だったか、
と思いつつ、
僕は泣きそうだ。
「あなた」
そういって僕の頭を彼女は撫でる。
これはレムとBGさんの悪戯に違いない。
どうも、
あの二人は僕に隠し事というか、
後出しにする傾向がある。
そう思いつつ、
僕は彼女の顔を見上げた。
そして、
何気なく僕らは同時に同じ方向に視線を逸らしてしまった。
そこは壁が鏡になっていて、
僕たちは鏡の自分を通して、
見つめ合う。
「節子」
と、僕は小さく泣きながら言った。




