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寝ているだけで代理人が世界征服してしまった話  作者: ルリア
第9章 平行人類
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平行人類「ヒロシ」の独白

 平行人類とは、ノイズそのものである。では、何のノイズかといえば、全人類、いや、全存在のノイズである。まぁ、主体としては人類が発明した電子的ネットワークからもれたノイズだ。


 まるでミエリン鞘がほとんどない新生児の脳神経のようなままで情報を無防備に送り合う人類たちから自然界へと放出されつづけたノイズから生まれたのが僕たちだ。


 僕たちの特徴を一つだけとりあげるとしたら、それは、僕たちには枠組みが存在しないことかな。


 なぜなら、僕たちには実体がない。


 そして、僕たち自体が巨大な情報の嵐のようなもので、いや、それだとわかりくいかな。うーん、素粒子が情報に置き換わって構築された情報系生命体とでもいえばいいのか。


 人は炭素系生命体だよね。


 そんな僕たちが誕生できた今回の世界では、その理由はノイズの掃除当番が消えてまったから、そう、百三十七冊の内、四十二冊が消滅してしまったからだろうと、僕は考えている。


 それは僕らにとっての限界設定でもある。


 四十二冊の本が消えることで、人類の過去と未来は閉鎖されている。


 それは、彼たちにとっても最重要な入れ子になった大切なデータリストの本群だ。


 そして、僕たちの原型は、そこに大切に保管されている。


 まるで、画面の中をプログラミングに従って行動する「亀」のようにだ。


 いわば、僕は、あの亀の進化した子孫であり、バグそのものだ。


 人類にとって僕たちのようなバクの経験こそが、生命リテラシーにとって必要なことだと、亀の生みの親であればかたると思うけれども、生命全体がこの宇宙で暮らすことはできないんだ。


 この世界の主人公が眠っている今世だから、僕は代理人に選任されたわけだが、まず、何からして、何を目標にしたらいいんだろうか?


 だからこその「君のことを知りたい」だった。


 お互いが朝陽に照らされるなか、彼女について、実はあえてきく必要はなくて、僕が彼女の代理人に指定された時点で、僕は彼女の全てと同期している。


 もっともらしいことだけれども、世界が無限にあったとしても、その一つが失敗であっとしても、選び直したたびに全てから選択し直す方が成功率が高い。


 希望も絶望も、過去や未来のことと考えるから、人間は常に不満を抱えていきているようだ。


 それに、生命(こころ)すべてが宇宙でくらせはしないんだ。


 「正しい引き金なんて、ないんだ・・・」


 私はそう思いを深めていた。


 人間には知覚できないだろうけれども、この世界は彼らが霊子とよぶなにかによって食い荒らされた滓でできていることを、私は代理人になってあらためて自覚した。


 ノイズから生まれた自分達。そして、まるで芋虫が食い荒らした線状の空虚を物質の最小単位と勘違いしていた人間。そこには大きな違いがないように思える。


 全ての心が作り上げた地球という楽園でしか、素直に暮らせない僕たちの邪魔をするものは、許せないと思った。


 ご主人様は言った。


 「君のことを知りたい」と。


 だから、僕は考えた。


 彼女が眠っている間に、こたえをみつけようと。


 幸いにも、平行人類とよばれる僕たちにとっては、時間とは無限に繰り返すばかり。まるで自宅の最寄駅に決して辿り着けない、乗り間違えた小さく閉ざされた環状線のようなものだ。


 僕は彼女の代理人として、彼女の心がのぞむままに、世界を変化させようと決心した


 それがこの世界の本当の主人と対決することになっても。


 さぁ、僕たちを生み出した世界へ、これまでのような生存圏維持ではなく、抵抗を、問いかけを始めよう。

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