Verweile doch! Du bist so schön.
最後の夜、
1999年12月31日。
僕は指定されたホテルのベッドで、
仰向けに天井を見続けている。
BGさんはいう。
安心して薬を飲んで眠ってください。
次に起きたら2100年です、と。
起きたら、という説明がなければ、
これは安楽死だな。
自分の望む時に死ぬ権利か。
仮に僕が望む時に死に、
懺悔もないかわりに、
妄執だけが残って、
それを擬人化できたら、
心の奥底にある僕の恨み辛み悩み憎しみ、愛おしみが晴れるかとも思ったが、
それほどには今のうちひしがれた僕の心は浅くない。
そして、
その決して底の覗けない暗い深淵にある、
僕の唯一の希望としての代理人ソフトは無事、
成長しているらしい。
僕の冷凍保存と入れ替わりに、
世界に解き放たれ、
日々、
学習し、
成熟が完了した日、
僕は目覚める。
徐々に眠くなる中で、
もし、
僕が節子と出会っていなかったら、
と思った。
その時は、
BGさんの言ったように、
僕は未来への「攻撃性」というか、
「希望」を持ちながら今を迎えられなかったように思える。
全てが定まっているとしても、
僕は今、
節子に心からの感謝を捧げつつ、
一世紀の眠りにつく。
あなたの美徳が時さえ超越するのを心から願いつつ...、
僕は一つだけBGさんにお願いした。
冷凍保存のされる僕の上に、
節子からもらった文庫本をおいてもらうように。
ブックカバーがかけられた表紙をめくれば、
「美徳のよろめき」と印刷された横に、
節子の綺麗な文字が三行記されている様子を最後に思い浮かべ、
僕の意識は途切れた。
「逆史光様
永遠に愛しております
節子」




